リュウシが控室に戻ると、今度は菖蒲の出番であるらしく、彼女が係員に連れられていた。
「菖蒲の番か! 頑張れよ!」
「わかってるって! 見ててよね、私の活躍を!」
会場に進むと、少し遅れて対戦相手も入って来る。
「それでは、始めましょう! 一回戦第三試合! 城ケ崎菖蒲選手対、谷岡喬子選手!」
相手は、菖蒲と同い年ぐらいだろうか。だが、
「私がこんなガキんちょに負けるかっての!」
と、無駄に年上であることをアピールする。
「………。それは勝ってから言ってよね」
両者位置に着き、そしてデッキをシャッフル。
(でも、相手の自信はどこから来るんだろう? 積み込みとかはできないはずだし…)
大会でイカサマを行えば、永久追放である。そもそもそんなことをしなければ勝てない輩は、こんなところまでは来れない。
先に動いたのは、喬子の方だ。
「私はコスト三の、《霊骸竜スーサイドウィング》を召喚! その効果で二点のダメージが発生ぃ!」
「召喚するだけで二点のバーン持ちの小型ドラゴン?」
驚く菖蒲。しかし彼女の方の体力は減っていない。
「私にね…! あ、あ~ん! ダメージ受けちゃった!」
何と、喬子は自分の体力を減らすカードを使ったのである。
「でもね、それだけじゃないわよ? 《霊骸竜スーサイドウィング》はデッキから霊骸竜を墓地に送れるの! 私は《霊骸竜エビルホーン》を墓地に埋葬っと!」
これで喬子のターンは終了。続いて菖蒲のターンである。
「私のターン。ドローとエネルギーチャージを済ませて……《ビオランドラゴラ・メントール》を召喚する!」
コスト三の森のドラゴンである。効果は場に出た時、デッキの上から一枚をエネルギープールに置ける。
(これで次のターンにコスト五のドラゴンを出せる…!)
それだけではない。喬子のターンにコスト四のトリガーカードも使えるのだ。
「ほいじゃあ私のターン! エネルギープールはこれで四枚…よしこれだわね! 《霊骸竜ギルティクロー》!」
ドラゴンを展開こそするが、攻撃はしてこない。だが菖蒲は動く。
「あなたのターンが終わる前に私はトリガーカード、《ブロッサムシード》を発動。効果で私の場の《ビオランドラゴラ・メントール》をエネルギープールへ移動!」
そして次の菖蒲のターン、スタートステップが終わると既にエネルギープールには六枚。もう大型のドラゴンを出せる。
「行くよ! 私はコスト六の《ビオランドラゴラ・フェランドラル》を召喚!」
「はわわわっ! で、出た!」
驚く喬子。菖蒲はアタックステップに移り、攻撃する。
「もちろん直接攻撃! これで…!」
《ビオランドラゴラ・フェランドラル》はバトルで相手のドラゴンを破壊した場合、エネルギーチャージが行える。序盤から相手が直接攻撃を許すわけがない。菖蒲はそう思ったが、
「う~ん、私の体で受けるわ!」
場にはブロックできるドラゴンが二体いるのに、攻撃を防がなかった。喬子の体力は残り二十二点。
「でもこの時! 私はトリガーカードを発動! 《インジャーストラグル》! 一枚のドローとエネルギーチャージを同時に行うわぁ!」
これが狙いだったのだ。しかし菖蒲にはまだ疑問が。
(でも、手札補充とエネルギーチャージのために六点もくらう? ハイリスクすぎる気が…?)
何か思惑があるはず。そう思った菖蒲はおそるおそるターンを譲る。
「私のターン!」
喬子もエネルギープールを六枚貯めた。
「ここで大型! 《霊骸竜マリシャスレッグ》!」
コスト六のドラゴン。
「じゃ、バトルよ? まずは《霊骸竜スーサイドウィング》で攻撃! 対象は……《ビオランドラゴラ・フェランドラル》!」
「え、ちょっと待って!」
ルールに不備はないが、その行為に菖蒲は待ったをかけた。
(だって、このままじゃ自爆特攻……ダメージを受けるのは喬子の方じゃん…?)
そう。《霊骸竜スーサイドウィング》は攻撃対象と比較すると、コストが三足りていない。この場合、攻撃を仕掛けた喬子の方の体力が削られるのだ。
「でも私? ダメージ受けたわよね? 《霊骸竜マリシャスレッグ》の効果! 私がダメージ受けたら一枚ドロー! 加えて、ダメージを受けた時に《霊骸竜ネガティブボディ》は手札からコストを踏み倒して場に出せる!」
単なる自傷に見えたこの行為も、立派なコンボなのだ。
(なるほど…戦術はスーサイド! それが【霊骸竜】!)
しかしこの時、《ビオランドラゴラ・フェランドラル》はバトルで相手のドラゴンを破壊したので菖蒲はエネルギーチャージを行う。
「ではでは! 《霊骸竜ネガティブボディ》で《ビオランドラゴラ・フェランドラル》と相打ち!」
これは防げないので、通す。両者のドラゴンが破壊される。
「私はこれでターンエンドよ~!」
体力こそ菖蒲の方が上回っているが、喬子の場には《霊骸竜マリシャスレッグ》と《霊骸竜ギルティクロー》がいる。盤面は喬子の方が有利である。
「私のターン、ドロー! そしてエネルギーチャージ!」
エネルギープールにはカードが八枚。今なら喬子のどのドラゴンよりも強力なドラゴンを出せる。迷うことなく菖蒲は、
「コスト八! 《ビオランドラゴラ・ビサボレン》を召喚!」
「来るわね~大型ぁ! さあ来なさいよ! 勝負しないと女じゃないでしょ?」
「言われなくても! 私は《ビオランドラゴラ・ビサボレン》で…《霊骸竜マリシャスレッグ》を攻撃!」
直接攻撃もおそらく通るのだろうが、ここはシステムクリーチャーを狙うのが定石。ダメージを受けるたびにドローできる《霊骸竜マリシャスレッグ》は厄介なので処理しておく。
「上手いわね~子猫ちゃんのくせに! でも今ので私、ダメージ受けちゃった…! トリガーカード、《スクリームレイン》発動! 今受けたダメージ分、デッキから霊骸竜を墓地送り!」
受けたダメージは二点。よって喬子のデッキから《霊骸竜マーダーテイル》と《霊骸竜ノトーリアスヘッド》が墓地に送られた。
この時、喬子はニヤッとする。
「……準備は整ったわ!」
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