「できれば、こういうことはしたくはない。でもよ、相手を欺くのなら、アリだとオレは思うぜ? 召喚する! 《節足竜目ホーネット・ファフニール》!」
「ば、馬鹿な? 【リヴァイムート】に節足竜目を入れるだと?」
普通ならあり得ない行為。カテゴリーデッキに異物を入れるのは、事故率が上がるためだ。だがリュウシは、あえてそれを実行した。
「才林にもらったわけじゃないぜ? 販売されたパックは買う。そうしたら手に入っただけだ!」
「だ、だが! 君の大会出場デッキレシピにはどこにもそのカードはなかったはず!」
「オレのテイマーズカーニバルは、輝明に負けて終わった。もう大会じゃないぜ? だからこれは不正じゃない!」
その効果で、リュウシは自分の場の節足竜目を一体、井筒の場のドラゴンを一体ずつ選び、破壊する。
「オレが選ぶのは、《ヌークリア・エクスプロージョン・ドラゴン》だ」
「何だと? では《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》を破壊しないと言うのか?」
「ああ。確かに《節足竜目ホーネット・ファフニール》の効果を使えば、破壊は簡単だ。だがそれは、本来ならばしたくない行為だ。だから相手の尊厳の維持のため。そしてオレ自身のためだ」
「君自身?」
「そう……。オレはリヴァイムートの力で《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》を突破したい! そう思っている!」
《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》はその名の通り、井筒の心の中に生まれ吹き荒れる負の吹雪。彼の心の闇そのもの。それを自分の力……リヴァイムートの力で突破して初めて、井筒に勝つことに意味を成す。
「オレはターンを終了するぜ! さあ井筒! お前のターンだ!」
「……私のターン」
冷静に考えるなら、さっきのリュウシの行為は完全にプレイングミス。
だが、
(面白い…。その勝負、受けて立とうじゃないか! 私の【ヌークリア】が、負が作り出す心の闇だと言うのなら! その暗黒の力で君とカード・オブ・ドラゴンに引導を渡す!)
井筒の心は、少し燃え上がった。
「私は、《コールド・フュージョン》を発動。お互いのプレイヤーはそれぞれ、このカード発動時に私が支払ったコスト以下になるように、デッキからドラゴンを選んで場に出す! 私はコストを九支払おう」
「となると、お互いにコスト九以下になるように踏み倒すってことか…?」
リュウシが自分のデッキを確認しようと手を伸ばした時、
「ここで! 《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》の効果! ターンプレイヤーでなければ、ドラゴンを場に出すことはできない! よって私だけがドラゴンを呼び出すことになる」
「そういうコンボか……」
井筒が選んだのは、コスト九の《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》。
(守りを固めたか……。次のオレの一手を、戦闘破壊と予想したな?)
「バトルだ。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》で直接攻撃!」
防ぐ術がないので、リュウシはこの攻撃を受ける。これで残り体力は、一点。もう他のドラゴンの攻撃を受けることは不可能。
「ターンエンドだ」
「オレのターン!」
まずはドラゴンの召喚。《リヴァイムート・ニライカナイ》を場へ。
「さらにスペルカード発動……《激流総撃》!」
それはこのターン、リヴァイムートがバトルで相手のドラゴンを破壊した場合、手札のリヴァイムートを踏み倒せるカード。しかし今の状況では、《リヴァイムート・ニライカナイ》は井筒のどのドラゴンにもコストで負けている。
「もう一枚のスペルカードを使う! 《ハイドロブラスト》だ!」
エネルギープールを任意の枚数疲労させて、その分コストを上げるカード。残る三枚を疲労し、《リヴァイムート・ニライカナイ》のコストをそれだけ上昇させた。
「しかし、リュウシ君? それでも私の《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》とは相打ちにしかならない」
「なら、攻撃するぜ?」
「通しはしない! 《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》でブロック……」
「気づいたか、井筒!」
これで《激流総撃》の条件を満たせた。ので、リュウシはついに場に呼び出す。
「現れろ、《リヴァイムート・ニヴルヘイム》!」
「おお……!」
しかし井筒はまだ焦らない。《激流総撃》の効果で出したドラゴンは直接攻撃不可能であるし、今はリュウシの手札は三枚。《リヴァイムート・ニヴルヘイム》のコストは三上昇しているが、手札に《退化》を握っている。最悪、相打ちに持ち込める。
「……違うな」
と、リュウシは言った。
「何が、だ?」
「オレの《リヴァイムート・ニライカナイ》の効果だ。破壊されたお前の《ヌークリア・アンブレラ・ドラゴン》のコストは九じゃないか?」
「あ!」
「よって! オレは九枚ドロー!」
その瞬間、コスト二十二に膨れ上がる。
「これでどうだ、井筒! バトルだ……! 《リヴァイムート・ニヴルヘイム》で、《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》に攻撃! 招かれざる冬……嘆きの季節を打ち砕け! ブレイブ・ブリザード!」
《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》、撃破。そして井筒に十二点のダメージ。
「そ、そんな……! 私の、最強のドラゴンが……?」
「最強? 違うぜ、井筒。カード・オブ・ドラゴンで最も強いのは、プレイヤーとドラゴンの絆だ。各カードに与えられた性能なんて、その前には無力なのさ……!」
切り札を失った井筒は、一気に戦意喪失。
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