今度は菖蒲の番である。
「でもちょっと、ホッとしたね…」
ちょうど、リュウシが控室に戻ってきたタイミングで呼ばれた。係員は少し時間をくれたので、菖蒲は彼と話をした。
「何でだ? 相手が枝垂じゃないからか?」
「それもあるけど、リュウシとあたるのも嫌だったし。あ、あとリュウシがさっきの相手に勝てたのも! かなりギリギリだったでしょ?」
「ああ、強敵だったぜ。まさかデッキに攻撃してくるとは予想外だった」
立ち話はこの辺にして、リュウシは手を振って菖蒲を送り出した。
対戦相手は先に試合会場にいた。菖蒲と同世代の女子である。
「よろしく」
その一言を言うと、無言でデッキをシャッフルし始める。菖蒲もすぐにケースからデッキを取り出し、これをシャッフルした。
「では! 始めましょう! 二回戦第四試合! 城ケ崎菖蒲選手対、新藤唯選手!」
司会が試合開始の宣言をしたので、お互いのデッキをカットした後、初手を引いてゲーム開始。
(よし、良い手札! しかも相手の場は、今はがら空き!)
先にドラゴンを場に出したのは、菖蒲。《ビオランドラゴラ・メントール》である。その効果で五枚目のカードがエネルギープールに蓄えられた。
「ターンエンド!」
「ふう、私のターン」
対する唯のデッキも動き出す。
「コスト五で、《チーロン・コート》を召喚」
光のドラゴンデッキの様子。
「効果、発動。召喚時に相手のドラゴンを一体選ぶ。そのドラゴンは疲労状態になって、次のあんたのスタートステップで回復しない」
厄介な効果を持っているカードである。止めることができなかったので菖蒲は自分のドラゴンを疲労状態にした。
「これで終わり、エンドよ」
そして菖蒲のターンが来るが、スタートステップで回復を行えない。
「でも! 私はコストを六支払って大型のドラゴンを召喚! 《ビオランドラゴラ・シトロネロル》!」
それは、相手がカード効果でエネルギーチャージを行った場合自分も同じ枚数分行える、という序盤に出しておきたい効果を持つドラゴンだ。そして召喚時に支払ったコストは六なので、このターンに攻撃を行えるが、
「ターンエンドだよ」
菖蒲はしなかった。次のターンに唯が、疲労状態の自分のドラゴンに攻撃してくるだろうから、それをブロックで打ち取りたいのだ。カード・オブ・ドラゴンでは相手のドラゴンを自分のドラゴンで破壊する場合、自分のターンよりも相手のターンの方が安全に行える。何故ならトリガーカードは自分のターンには使えないから、予想外の一手が生じにくいのだ。
「私のターン。コスト六のドラゴン、《チーロン・トライアル》召喚」
そして唯はアタックステップに移る。狙いは前のターンに疲労状態にした、《ビオランドラゴラ・メントール》。攻撃宣言は《チーロン・コート》が行う。
「私はその攻撃に対し、トリガーカード発動! 《光合成》! その効果でこのターン、私の森のドラゴンのコストは…」
すると唯も、
「私も、トリガーカード発動。《計算変動》により、コストの増減は逆になる」
「ち、ちょっと待って! トリガーカードは相手のターンにしか使えないでしょ? 今はあなたのターン…」
菖蒲の指摘は最もだ。このゲームのルールに違反する相手の行為には、黙っていられない。
しかし、黙らなければいけないのは菖蒲の方だった。
「《チーロン・トライアル》の効果。私は一ターンに一度だけ、自分のターンでもトリガーカードを使える」
その効果に則った場合、唯の行為は反則でも何でもないのだ。
「確か《光合成》は、このターンの間だけ森のドラゴンのコストを四上げるカード。でも私の《計算変動》によって、コストの増減は逆になる。つまり、あんたのドラゴンは全て、コストが四下がる。《ビオランドラゴラ・メントール》のコストは三だから、ゼロ以下になってルールで破壊される」
攻撃対象が何らかの原因で、この場合は破壊だが、場から離れた場合、その攻撃はやり直しとなる。しかし唯は、
「攻撃はし直さない。これでターンを終える」
と、攻撃権を破棄した。
「私のターン…」
新たなドラゴンを場に出す菖蒲。エネルギープールには七枚のカードがあるので、一応はより大きなドラゴンを場に呼び出せる。
「《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》を、場に!」
そして唯に直接攻撃。コスト七の《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》が唯に襲い掛かる。
「私は《チーロン・コート》でブロック」
「この時! 《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》が相手のドラゴンを破壊した時、相手はそれを墓地に送らずにエネルギープールに置ける。どうする?」
「じゃあ、もらっておくわ」
その効果を行使し、《チーロン・コート》をエネルギープールに置いた。
「でも今! あなたはカードの効果でエネルギープールにカードを置いた! そうすると私の《ビオランドラゴラ・シトロネロル》の効果で私も同じ分だけエネルギーチャージ!」
「無駄がない効果ね…」
このコンボを唯は褒めた。
「まだだよ? 《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》は各ターン初めて疲労状態になったら、一度だけ回復できる!」
しかし、強力な効果にはデメリットも付き物。《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》によって相手にダメージは生じないのだ。だから菖蒲はこのまま、ターンエンド。
「でも…私も負けてはいられない。私のターン」
唯のエネルギープールには、カードが八枚。
(く、来る!)
菖蒲、予感する。そしてそれが的中するかのように、
「コスト八、《チーロン・ジャッジメント》を場に」
出現した。だが唯はこれ以上動かない。《チーロン・ジャッジメント》のコストは菖蒲のどのドラゴンよりも上だというのに、攻撃をしない。これには菖蒲も不審がるを得ない。
だが、これも立派な戦術。唯は攻撃するタイミングを決めているのだ。一つは相手のドラゴンの数を減らせる時。そしてもう一つは…相手の体力三十点を丸々削り切れると確信した時。
そしてその時が来るまでに、できるだけドラゴンを場に揃えておくことに専念する。そして相手のドラゴンの行動を抑制するのに長けているのが、【チーロン】なのである。
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