ゲーム開始。初手はお互いに五枚。それを六十枚丁度のデッキの上から引く。この時点ではまだ伏せたままであり、確認は不可能。そしていくら手札が悪くても、マリガン…所謂引き直しは許されない。
「先攻は俺がいただくぜ!」
相場はそう怒鳴った。先攻後攻の決め方は、対戦者の間で自由に決められる。ほとんどの場合はジャンケンかコイントス、もしくはサイコロを振る。このように勝手に宣言するのは珍しい。
(悪くない手札だ…!)
先攻後攻が決まれば、手札を見る。七枚のカードを確認し、最初のターンをどう動くかを考える。
先攻のプレイヤーは、ターンの最初にカードのドローはできない。しかし、デッキの一番上をエネルギープールというゾーンに表向きにして置くことは許されている。
「俺のターン! エネルギープールにカードを置いて……そしてエネルギーを一つ疲労させ、《ドラゴニュート・サーベル》を召喚だ」
疲労させたエネルギーに応じて、手札のドラゴンを召喚できる。相場は手札に一コストのカードがあったためにそれを場に出した。そのドラゴンはその名の通り、サーベルを持っている。
先攻はドロー以外にも、攻撃宣言を行えないなどの制約もある。もとよりこのカードゲームでは、コストが五以下のドラゴンは場に出たターンに攻撃はできない。
「さあ、俺はこれでターンエンド! 貴様のプレイングを見せてもらおうか!」
そしてリュウシのターンが始まる。
「オレのターン、ドロー!」
この時、彼は相場のデッキをおおよそ見抜いていた。
(最初のターンにドラゴンを出したか…。おそらくウィニーで攻めるデッキ! 速攻でプレイヤーの体力…三十点を削る戦術!)
ウィニーとは、コストの軽い小型のカードのことである。場に出しやすい反面、相手の大型カードには負けてしまう、もしくは強力な効果を有していないなどのデメリットも存在している。
このゲームのターンの流れは、大きく分けて四つになる。一つ目は今リュウシが行っているスタートステップ。ここではデッキからのドローやエネルギープールへカードを置く他に、疲労状態のカードの回復などを行う。ターン開始時のドローと疲労回復は強制だが、エネルギープールに置くかどうかは任意である。
(だが、オレの手札には……コストの軽いドラゴンはいない。そういう時は…これだ!)
次に、メインステップ。ドラゴンの召喚や、
「オレは一コストでスペルカード、《エネルギー・ギフト》を発動! その効果でデッキの上からカードを一枚、エネルギープールに置くぜ」
スペルカードを使用することができる。ドラゴンのカードと同じく、コストを払って手札から使用するカード群で、効果発揮後には墓地に送られる。
「それで、ターンエンドかよ?」
相場はワザと挑発的な発言をした。リュウシがドラゴンを場に出さなかったためだ。
そしてこのまま、エンドステップに移行。この時に処理するカードがあれば、ここで行う。今はないので相手にターンを譲るだけだ。
「へ、俺のターンだ! ドローしてエネルギーチャージ!」
これで相場の手札は七枚、エネルギープールのカードは二枚。
「さらに俺は、《ドラゴニュート・ランス》を召喚するぜ。コストは二だ!」
相場はそのまま、メインステップの次…アタックステップに移る。その名の通り、ドラゴンで戦闘を行うステップである。
「今、お前の場はがら空き! 俺の《ドラゴニュート・サーベル》の攻撃が通るぜ!」
このゲームにおいて、ドラゴンのコスト=攻撃力である。自分の場にドラゴンがいれば相手の攻撃をブロックすることもできるのだが、リュウシの場には何もいないのでその攻撃を止められない。
「うぐ…! だがそんなに痛くはないぜ!」
一点の体力を失った。しかしまだ二十九点は残っている。
「ところで、オレは今ダメージを受けたな?」
「そうだが、どうかしたか?」
「ああ! オレはこのタイミングでトリガーカード、《リベンジチャンス》を発動するぜ!」
「な、何! コイツ隠し持ってやがったか!」
このゲームには、三種類のカードが存在する。一つは場に出すドラゴンカード。次に自分のターンにコストを支払い使えるスペルカード。最後に、相手のターンにのみ手札から使用できるトリガーカードである。トリガーカードはエネルギープールを疲労させずに使える利点があるが、カードに記載されたコスト以上の枚数がエネルギープールに存在していなければ使えない、その条件をクリアしていても自分のターンには使用できない制約がある。
「その効果! 三つある内一つを選ぶ!」
コスト二の《リベンジチャンス》には、三つの効果がある。一つは一枚ドロー。二つ目は一点体力の回復。
「オレは三つ目! デッキから一枚、エネルギーチャージする!」
そう言ってデッキの上を一枚表向きにし、それをエネルギープールに置いた。
(【ドラゴニュート】は早期決戦型のデッキだからな。その速さについて行くには、早めに大型のドラゴンを出すしかない!)
その発想がリュウシに効果を選ばせた。
「チッ! 俺はこれでターンエンドだ…!」
不満そうな顔で相場はターンをリュウシに回した。
「オレのターン!」
ドローしてエネルギーチャージを行う。この時点でリュウシのエネルギープールにはカードが四枚。
(来るか…!)
相場は危機を察知した。
「まずはもう一度、《エネルギー・ギフト》を使うぜ。これで五枚。んでもって、コストを三支払い、《リヴァイムート・キャンサー》を召喚!」
それは、カニのようなハサミを持つ水のドラゴンだ。
「《リヴァイムート・キャンサー》の効果発動! 場に出た時、俺はカードを一枚ドローできる!」
コストこそ低いが、減った手札を即座に補える優秀な一枚。そして相場の場にあるドラゴンよりもコストが高い。
「これでターン終了だ」
「じゃあ、俺のターン行くぜ」
相場はドローしてすぐにエネルギーチャージをすると、また新たにドラゴンを召喚する。
「俺は、《ドラゴニュート・ハンマー》を召喚! コストは三だ! そしてそのままアタックステップを行うぜ!」
今、相場の攻撃できるドラゴンは《ドラゴニュート・サーベル》と《ドラゴニュート・ランス》の二体のみ。そしてどちらとも、リュウシの場にある《リヴァイムート・キャンサー》よりもコストが低い。
「しかしだ…。《ドラゴニュート・ハンマー》の効果! コイツが俺の場にいる限り、俺のドラゴニュートはお前のドラゴンとバトルする時、コストが倍になる!」
そう、《ドラゴニュート・ハンマー》は場にいるだけで効果の恩恵を受けられる、システムクリーチャーなのだ。
「俺はまず、《ドラゴニュート・ランス》で攻撃だ!」
「……しまった!」
リュウシは、この時後れを取ったと感じた。元々のコストが二の《ドラゴニュート・ランス》の攻撃を《リヴァイムート・キャンサー》でブロックした場合、その戦闘では自分にダメージは生じない。だが、相手のコストは効果で四になるため、負ける。その場合は後続の《ドラゴニュート・サーベル》がまたリュウシに直接攻撃をしてくる。しかしこの攻撃をブロックしなければ、《ドラゴニュート・サーベル》は動かない。
「さあどうする? ブロックするかしないか!」
「……ブロックだ…」
コストで負けている《リヴァイムート・キャンサー》はバトルに負け、墓地に送られる。そしてリュウシが睨んだ通り、《ドラゴニュート・サーベル》が攻撃してきた。これでリュウシの残り体力は二十八点。
「どうだ? じわじわとお前の体力を削ってやるぜ! それが俺のデッキ、【ドラゴニュート】!」
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