「小前田輝明さん! 出番ですよ」
輝明は係員に連れられ、試合会場に向かった。
「アイツ…。まだ勝ち残っていたか!」
その姿をリュウシは見ていた。もう大会も後半。ここまで勝ち残っているのなら、次に戦うことになってもおかしくはないのだ。
「その時は、その時だぜ」
今は高ぶっている気分を落ち着かせるのが先決。そう判断した彼はリラックスに努める。目を閉じて外界からの情報を遮断し、三回戦に備えるのだ。
「では、三回戦第二試合を始めましょう! 小前田輝明選手対、菅原佳樹選手ですっ!」
両者頭沿下げてから握手を行い、そして席に着きデッキをシャッフルし、勝負開始。
「よろしく頼むぜ」
「ああ、でも勝つのは僕だ」
二人の意気込みは素晴らしい。二人とも自分が勝つことを確信しているのだ。
(コイツのバトルを控室で見てなかったな…。どんな戦法なのか…!)
輝明はジャンケンで勝ったものの、後攻を選んだ。まずは様子見をし、相手の戦術を探る。
佳樹が動いたのは二ターン目である。
「僕はコスト二の、《ジャバコアトル・テリア》を召喚。これでターンエンドだ」
「その効果は?」
「いや、特にはない」
いわゆる軽コストのバニラだ。
(なるほどな…。序盤は時間稼ぎに努めるってワケか! それに終盤でも壁として最低限機能できる。場にいて困ることはないドラゴン…)
それだけである程度の戦略を見抜けた。
返しの輝明のターンは、《エネルギー・ギフト》を使ってターンエンド。次のターン以降に彼はドラゴンを展開し、得意のコスト上昇を行う計算。
「では、僕のターン。僕も《エネルギー・ギフト》を使う。そして残った三コストで、《ジャバコアトル・タロス》を場に出す。これでターンを終える」
攻撃は仕掛けて来ない。
(意味もなく攻めてトリガーカードを使われるのを警戒したか! 慎重なプレイングだが、無駄ではない!)
相手の、勝利への道を模索することは悪いことではない。知ることができれば、邪魔をすることが可能だからだ。だがそればっかりに気を取られてもいけない。自分も勝ちに進まなければいけないためである。
「俺のターン! 俺はコスト四、《サラマンフリート・ヴァイオレット》を召喚だ!」
そのドラゴンの役目は、効果ダメージメタである。もし輝明がカード効果でダメージを受けた場合、その数値だけ自身のコストを上げることが可能だ。
(佳樹は…?)
場にドラゴンを出した時、輝明の目は対戦相手、佳樹の顔に向いていた。場を見ていない理由は一つしかない。集中していないのではなく、相手の表情を確認したかったから。
その表情は少しも曇る気配を見せない。
(なるほど! 【ジャバコアトル】はバーンデッキではない!)
そこから相手の手の内を読み取った。
(だが、そうだとするならば……どうやって勝ちに行くデッキだ? それを見極める必要があるな…)
このままターンエンド。そして佳樹のターンである。
「スペルカード、《スピリット・ギフト》を発動! その効果で、場にいる自分のドラゴンの数だけエネルギーチャージを行う。ただしこのターン、僕のドラゴンは攻撃できない」
そしてまた、攻撃を仕掛けずにターンエンド。
(コンボデッキか? いや、確かに《ジャバコアトル・タロス》は他のジャバコアトルが破壊されるときに身代わりになれるみたいだが……)
この輝明の推測は、いい線をいっている。しかしそれが明らかになるのは、まだ先のことだ。
「俺のターン、ドローしてエネルギーチャージ! コスト五を支払って《サラマンフリート・プロミネンス》を召喚!」
彼はアタックステップを行う。相手から攻めてこないのなら、こちらから行くだけのこと。
「行くぞ! 《サラマンフリート・ヴァイオレット》で直接攻撃だ!」
少しも考えずに佳樹は、
「ブロックはしない。それは受けよう」
通すと宣言。彼は四点の体力を失った。
「だが、トリガーカード発動! 《アベンジドロー》…その効果で僕がダメージを受けた瞬間、二枚ドローする。さらに《リベンジチャンス》も発動し、エネルギーチャージを行う」
結果的に手札の枚数は変わらないものの、エネルギープールの数は増えた。
(やはり狙うは…大型か、最大級のドラゴン!)
ここまでのエネルギーの加速を見れば、誰でもそう感じる。そしてそれで正解なのだ。
「僕のターン」
あっという間に、エネルギープールは九枚。このターンに佳樹は二体のドラゴンを場に出した。
「一体目は、コスト五の《ジャバコアトル・パトリオット》! その効果で疲労状態の相手のドラゴンを一体選び、破壊する! そしてコスト四の《ジャバコアトル・マーベリック》! 場に出た時、デッキの上を三枚めくり、内一枚を手札に加え、残りは墓地に置く」
手札に加えたカードは見れないものの、捨てたカードは確認できる。
(スペルカードの《デストロイバース》とトリガーカードの《退化》か…。効果による除去も、戦闘での破壊も目的ではないのか? それとも、あの二枚を捨てつつも手札に呼び寄せたいカードがあるってことか!)
やはり攻撃はしない。これでターン終了。
「俺のターン! この時に《サラマンフリート・プロミネンス》が疲労状態でない場合、そのコストは一上がる!」
それからスタートステップに移行。エネルギープールは六枚。
「出せる! コスト六、《サラマンフリート・バーナー》!」
自分のサラマンフリートのコストを二、上げられる優秀なドラゴン。類似効果の《サラマンフリート・バーン》の上位種でもあり、さらにあちらと違う点は、自身も対象にできることである。
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