「当たり前だ!」
輝明は強く、そう返した。
「俺はエネルギープールからコストを十支払って、《サラマンフリート・スーパーノヴァ》を召喚!」
「コスト十か…」
この時の佳樹はどうこのターンの攻撃を切り抜けるかについて考えていた。
(アイツの場のドラゴンのコストの合計は、これで三十一。僕の残り体力は二十五点だから、全ての攻撃は通せない。そしてコスト七の《サラマンフリート・ステラー》がいるために、ブロックしてもダメージを受ける。でも僕の場のジャバコアトルは、《ジャバコアトル・ピースキーパー》を除いてもコストの合計は九。しかも《ジャバコアトル・パトリオット》はブロックする時のみ、コストが倍になる! そしてアイツのドラゴンの攻撃を全部ブロックしても最高で十七ダメージで済む。《ジャバコアトル・ピースキーパー》もブロックするなら、最大で二十七ダメージまで耐えられる! やはり僕の勝ちだ!)
しかしそれは、計算ミスである。
「俺は《サラマンフリート・スーパーノヴァ》の効果発動!」
いきなり輝明は、自分の手札三枚を全て墓地に送った。捨てられたのは、《サラマンフリート・ムスプルヘイム》、《サラマンフリート・マーズ》、そして二枚目の《サラマンフリート・ステラー》。
「何をしている?」
「効果だ! 今、捨てたサラマンフリートのコストの分だけ、俺の《サラマンフリート・スーパーノヴァ》は攻撃力を上げる!」
「ば、馬鹿な……! 捨てたドラゴンのコストは、十、八、七……? と、言うことは?」
「二十五上昇し! 《サラマンフリート・スーパーノヴァ》のコストは三十五になる! これでもまだ、その表情を保っていられるか、佳樹! その頬に流れているのは、冷や汗じゃないのか!」
「ち、違う! 僕が負けるわけがないんだ!」
「じゃあ、この攻撃を防いでみせろ! バトル! 俺は《サラマンフリート・スーパーノヴァ》で、お前に直接攻撃だ! くらえ、超新星大爆発!」
防げない。佳樹の手札は一枚で、それはトリガーカードの《大陸弾道》。だがこれは、自分のドラゴンへの攻撃を直接攻撃に変える効果しかない。
「こ、こ、こんなことが……あり得ない!」
だが、現実なのだ。佳樹はどのドラゴンでも攻撃をブロックできるが、どのドラゴンで防いでも体力が尽きる。
「う、うぐわあああああああ!」
佳樹の体力を、《サラマンフリート・スーパーノヴァ》は焼き払った。
「試合終了! 勝者、小前田輝明選手! エクストラウィンをかいくぐり、懐にある勝利を掴み取ったああ!」
非常に危ない試合だった。終盤の輝明の手札は全てドラゴンカードであり、しかも状況を打開できるカードがなかった。もし最後のあのタイミングで、《サラマンフリート・スーパーノヴァ》を引けなかったら負けていた。
「この僕が、こんな所で……」
敗北し、失意に飲み込まれた佳樹は、輝明に挨拶もすることなく、力なく会場を去った。
「おいおい、負けたのは気に食わないにしても……。会釈ぐらいしてけっての!」
会場は、佳樹の態度にブーイングはしない。だから輝明もその無礼をそこまで問題視しない。
「でもま、その気持ちはわからなくもないな…」
ここで勝てば、次は準決勝。そこまで残ることができたら、ベスト四に入れる。だからここでの敗北は相当悔しいだろう。もしも立場が逆だったら、輝明の方が失礼な態度を取っていた可能性もあるのだ。
カードゲームは、勝負に違わない。そしてそこには嫌でも感情が入り込んでしまう。負ければ悔しく、勝てば嬉しいのが勝負の常。
「俺も、頑張らないとな。次の試合! 今まで俺と戦って負けたドラゴンテイマーの分もある! 絶対に負けられないぜ!」
そして、彼の闘志は燃え上がる。佳樹のようにここまで来れなかった人たちのことを考えると、自分に敗北は許されない。たとえ相手が誰であろうと、戦って勝つしかないのだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!