カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

CARD 47

公開日時: 2020年9月12日(土) 15:00
文字数:2,562

 だが、枝垂も諦めてはいない。体力とデッキが残っている以上、まだ勝負は決していないのである。


「われのターン……」


 そしてその諦めない心にデッキが答える。


(ここでこれを引くか…。まさか、またも使うことになるとは思わなかったぞ。だが、いい。われのデッキも苦しいのだな……)


 今までデッキが引かせなかったカードを、枝垂はドローした。


「われはコストを十、支払う…」

「超大型のドラゴン…?」


 菖蒲はその襲来を予感する。


(で、でも! 既に、閃く瞬き 《災害竜ライトニング・ストライク》、止まらぬ蠢き 《災害竜アース・クエイク》、育む潤し 《災害竜タイダル・ウェーブ》は墓地! 残る、揺さぶる轟き 《災害竜ロー・プレッシャー》、狂える昂り 《災害竜ボルケーノ・エラプション》ではこの状況をひっくり返すことは不可能なはず!)


「人類の英知と文明の進展は、尊き犠牲の上にのみ成り立つ。許されざる過ちよ、竜となりて世界を滅ぼす脅威となれ! 爆誕せよ、《災害竜グラウンド・ゼロ》!」


 枝垂がこの大会中、一度も使っていない最上級の闇の災害竜。それが今、姿を現した。


「何、コイツは……?」


 見ているだけで言い表せぬ寒気が菖蒲を襲う。凄まじいプレッシャーを放っている一枚だ。


「では、効果を発動! 自身または他の災害竜が場に出た時、このドラゴン以外の場の全てのドラゴンの効果を無効にし! 全て破壊する!」

「う、嘘でしょ! ここに来て、盤面のリセット……!」


 強烈な効果。一瞬で菖蒲の場のドラゴンが三体とも吹き飛んだ。焼け野原になった場に、《災害竜グラウンド・ゼロ》だけが無傷で残っている。


「《災害竜グラウンド・ゼロ》で直接攻撃! くらうがいい! 過ちのファイナル・エアレイド!」

「きゃあああああ!」


 防ぎようがない十点のダメージ。これで菖蒲の体力は残り、十二点。体力が並んだ。


「ターンエンドじゃ……」

「こ、この! わ、私のターン…」


 だが、菖蒲も諦めない。


(今、枝垂の場にはブロックできるドラゴンはいない! 私がドラゴンを出して攻撃すれば確実に通る! そうしたら枝垂は、返しのターン以降はあのドラゴンで防御に回るしかない!)


 今の菖蒲の手札は、ドローを含めて二枚。そして引いたのは《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》。コストは《災害竜グラウンド・ゼロ》と同じく十。相打ちにすれば怖いドラゴンではない。


「私はまず、スペルカードの《アタックガーター》を発動して、このターン次に召喚するドラゴンのコストを一軽減し戦闘で破壊されなくする。それから《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》を召喚して、アタックステップ! 《災害竜グラウンド・ゼロ》に攻撃!」


 この攻撃が通れば、枝垂の反撃の芽を完全に潰せる。

 が、


「その攻撃に対し、われは手札の《災害竜ゲリラレイン》を出してブロックをする!」

「でも、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》の方がコストで勝って……」

「そなた、もう忘れたのか?」

「は、はい……?」


 いきなりの枝垂からの問いかけに、困惑する菖蒲。


「《災害竜グラウンド・ゼロ》の効果! 他の災害竜が場に出た時、自身以外のドラゴンの効果を全て無効にし…!」

「ち、ちょっと待ってよ! それじゃあ、あなたの《災害竜ゲリラレイン》も……」


 もちろん、破壊される。再び焦土と化した場。燃え盛る大地を見下すかのように、《災害竜グラウンド・ゼロ》はただ一体、立っている。


「われのターンじゃな?」


 返しの枝垂のターン。枝垂はスペルカード、《アブノーマル・ディザスター》を発動。このカードはコストが決まっておらず、自分の場に災害竜がいればそれを選んで発動でき、発動時に任意のコストを支払う。そして払った分だけ選んだ災害竜のコストをこのターンのみ上げる。


「われが支払うのは、十一全て! これで《災害竜グラウンド・ゼロ》のコストは、二十一! さあ、わが真の切り札よ! わが敵を消し飛ばせ! 過ちのファイナル・エアレイド!」


 手札がゼロの菖蒲に、これを防ぐ手はない。残っていた体力は全て、たった一体のドラゴンに焼き払われてしまった。


「そ、そんな………」



「き、決まりましたあああああああ! 勝者、皇枝垂選手! 昨年の決勝戦と同じく、切り札である《災害竜グラウンド・ゼロ》で、勝負を決めたああああ!」


 この時の菖蒲は、ある感情に支配されていた。


(く、悔しい……)


 あともうちょっとで勝てたからという意味もあるが、それ以上に吹っ切れたはずの自分に申し訳なかった。

 そんな菖蒲に、枝垂は手を差し伸べる。これは意外な行為だ。菖蒲は枝垂に自慢されるか罵声を浴びせられると思っていたからだ。


「そなたの強さも、申し分なかったぞ。われも冷や冷やしたくらいじゃ……。あそこで引けていなかったら、今頃悔しがっているのはわれ…。勝負はどう転んでいたかはわからん」


 逆に褒められたので、驚いて顔を上げる。


「えぇ…………?」


 枝垂の顔は、勝ったというのに喜んでいるようには見えなかった。

 その瞳は、寧ろ悲しみに支配されているようだ。


(そ、そうか……。枝垂は前年度も優勝している。ということは数え切れない多くのドラゴンテイマーを破ってきた。つまりは彼らの、頂点に立つという夢を壊さなければいけなかったってこと……)


 勝負事には、相手への情けはご法度。しかし人間として、負けた人の感情を無視するわけにはいかない。枝垂は数多くの人の希望を打ち壊したその頂に立っているのだ。誰よりも悔しさを感じるし、それを受け取る責任がある。


「はあ…」


 それを感じると、菖蒲の肩の重りが一気に消えた。


「器も、大事なんだね……。私は勝つことしか考えてなかったけど……」

「それが、勝負じゃ。そしてそれが本来ならば正しい態度」

「でも枝垂、あなたはそんな悔しそうな顔を何度も見ているんでしょう? でも私は違うよ? 寧ろチャンピオンを、真の切り札を使わせるまで追い込んだ……それで十分! 満足だよ!」


 差し伸べられた手を握り、そしてお互いに頭を下げる。対戦してくれた相手への礼儀も忘れない。


「私、ここで枝垂を戦えて良かったよ。凄い強い人がいるんだって、実感できたから!」

「そうか。そなたの実力なら、もっと上を目指せるであろう。精進するのじゃ! そして次に会う時は、われに勝ってみせよ!」


 そう言われて、菖蒲はこう返す。


「言われなくても、そのつもりだよ!」

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