控室では、選手は二通りに分かれていた。一組目はまだ試合を行っておらず、手の内をさらさないためにもデッキをいじらない選手。そしてもう一方はリュウシや菖蒲のように、試合を行ったのである程度の戦術が発覚したために、テーブルの上でデッキをソリティア…一人回しして動きを再確認する選手。
「二人とも! 俺が睨んだ通りだったな」
話しかけて来たのは、相場だ。リュウシと菖蒲のバトルを見て、ご満悦の様子。
「その方が、倒しがいがあるぞ……」
あくまでも彼の目的はリベンジにある。
「相場もな! 次に戦う時は、後手後手には回らないぜ? ま、オレには勝てないと思うが!」
「何をー!」
リュウシは思う。相場は一回戦を突破して、そして彼とこのトーナメントで当たる気がするのだ。
「ま、次も俺が相手じゃなかったら頑張るんだな」
そう言って相場は、テーブルから離れた。
「ん?」
菖蒲がモニターをちらりと見た時、その人物の紹介が終わっていた。
「ねえリュウシ? この人、強そうじゃない?」
「誰だ?」
モニターには、小前田輝明選手と表示されている。十七歳の高校二年生と、リュウシたちと同い年である。
「ほう、同じ学年にこんなドラゴンテイマーもいるのか…。どんなバトルをするのか、ちょっと見てみようぜ?」
デッキを回収するとリュウシと菖蒲は、モニターの前に座った。
一回戦も後半に突入した。リュウシが注目した人物である輝明のターンである。
「ドロー。エネルギーチャージをして…。俺はコスト三の《サラマンフリート・ファイア》を召喚してターンエンドだ」
それは炎のドラゴンだ。対する相手、山里真子もターンをもらうとスタートステップを済ませる。
「私はコストを三支払って、《ショベルの建築龍機》を召喚しよう。その効果でデッキの上のカードを一枚、墓地に送る」
このターンはお互いに動かない。次の輝明のターン、
「俺はコスト四の《サラマンフリート・バーン》を召喚する。その効果を使用し、自分の他のサラマンフリートのコストを一上げる。対象は《サラマンフリート・ファイア》だ」
これは手軽に行えるコンボだ。《サラマンフリート・ファイア》は他のサラマンフリートによってコストが上がった場合、さらに一コストを上昇する効果を持っている。
「バトル。俺はコストが五になった《サラマンフリート・ファイア》で直接攻撃だ」
「それは通さないぞ? 私はトリガーカード、《緊急成長》を使って《ショベルの建築龍機》のコストをこのターンのみ三上げてからブロックするとしよう!」
結果、輝明はドラゴンを一体失うことになる。
「何だその余裕の表情は?」
真子は疑問に思った。ボードアドバンテージを欠いたというのに輝明の表情が動かないのである。
「今はわからないだろうな。だがこれからさらに熱くなるとだけ言っておこう」
すました顔でそう言った。
「わからんなぁ。まあ私のターンを始めるとしようか」
彼女はコスト四の《ホイールローダーの建築龍機》を場に出した。
「効果発動! 自分の墓地のカードを一枚選び、エネルギープールに置く。これで私のエネルギープールにはカードが五枚!」
流れはこのまま真子のものかと思われた、返しの輝明のターン。
「コスト五の《サラマンフリート・ヒート》を召喚する。そしてこの時効果が適用され、自身のコストが二上昇する」
《サラマンフリート・ヒート》は前の自分のターンにサラマンフリートが破壊されていれば、コストを上昇させることができるのだ。まだ彼のメインステップは続く。
「俺は《サラマンフリート・バーン》の効果を使って《サラマンフリート・ヒート》のコストをさらに一上げる」
これであっという間に《サラマンフリート・ヒート》のコストは三上昇し、コストは八に。
「狙いはこれか! だが輝明! それだけで有利になったと思うのは甘いぞ? 攻撃しようものなら……」
と、言っている側から、
「俺は《サラマンフリート・バーン》で直接攻撃する」
またも攻撃宣言。
「私は《ホイールローダーの建築龍機》でブロックしよう!」
その攻撃は通らず、相打ちである。
「エンドだ」
「私のターン!」
真子のエネルギープールに、六枚目のカードが落ちる。もう大型のドラゴンを召喚できるのだが、
(見えない…。輝明の思惑が、煙のように不透明だ…)
主にやったことは、攻撃してそれを阻止されただけ。勝負の流れを掴んでいるようには見えない。
「まあいい! 私は私のプレイをする! コスト六、《ブルドーザーの建築龍機》を召喚させてもらおう! そしてその効果! 墓地のトリガーカードを一枚選び、手札に戻す。墓地のトリガーカードは《緊急成長》のみ! よってこれを手札に!」
ここで、《ブルドーザーの建築龍機》で攻撃してもいい。だがそうすると、相手の《サラマンフリート・ヒート》の攻撃を防げなくなってしまう。
(《ショベルの建築龍機》でブロックしたら、ボードアドバンテージを失うことに…。だが迷っていては勝てない!)
悩みを吹き飛ばし、決意する。
「私は《ブルドーザーの建築龍機》でお前に直接攻撃!」
「トリガーカード、《レッドトリップ》発動。その効果で手札を一枚捨てることで、その攻撃を無効にする」
それだけではない。《レッドトリップ》の効果でサラマンフリートを捨てた場合、そのコストだけ自分の場のサラマンフリートのコストを上げることができる。
「俺が捨てたのはコスト八の、《サラマンフリート・マーズ》。よって《サラマンフリート・ヒート》のコストはさらに八上がって、コスト十六」
「…!」
徐々に上がっていく、《サラマンフリート・ヒート》のコスト。これに危機感を覚えた真子。
(だが、《ショベルの建築龍機》が私の場には残っている! ブロックすれば戦闘ダメージは生じない! 確かサラマンフリートは共通効果で、一度アタックすれば上がったコストはリセットされるはずだ!)
このままエンド宣言を行う。
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