しかし、ドラゴンを場に出さないわけにもいかない。そうなると《節足竜目センチピード・ヒドラ》が間違いなく返しのターンで除去されてしまう。
(見事としか言えないな、リュウシ君! だが、勝つのは私だ! 私は枝垂にリベンジするために、今日、ここまでやって来たのだ!)
膠着状態になる前に手を打ちたい。そう思った才林はあるスペルカードを使用。
「《冬虫夏草》発動! 私の場のドラゴンを一体選び、エネルギープールに送る。その後、エネルギープールの枚数以下のコストを持つ節足竜目をエネルギープールから出す」
何と、あれだけ温存していた《節足竜目センチピード・ヒドラ》を自ら退けてしまう暴挙。
「このロック状態では、君のデッキは本気を出せないだろう? それでは詰まらない!」
才林は優位に立つことよりも、相手に全力を出させることを選んだのだ。
(それに、この状況ではどんなドラゴンを場に出しても結局は除去をくらう。だったら今のうちにエネルギープールに送ってしまうのも手!)
そして新たに出したのは、コスト七の《節足竜目ローカスト・ジャバウォック》。場に出た時、お互いに手札を全てデッキに戻し、シャッフルした後戻した枚数分だけ引き直すドラゴン。才林は七枚、リュウシは六枚を引き直した。
(これで才林は、《節足竜目マンティス・リンドヴルム》で再展開してくることはない…。引けてなければの話だが…!)
その心配には、戻したカードをまた引く可能性もあるし、デッキに同名カードを何枚投入しているかも関わって来る。
(まあしかし! 妨害をしてくることはなさそうだ。ならばオレのターン!)
ちょうど、手札をリセットされた時に《リヴァイムート・サルガッソー》を引けていたのでそれを出す。場に他のリヴァイムートはいないが、攻撃後に疲労状態から自力で回復できる効果は優秀。
「これで直接攻撃だ!」
「それは通さん! トリガーカード、《寄生戦略》を発動!」
「な、ん何!」
効果によって、攻撃は無効。さらに才林のデッキから節足竜目を一体、場に繰り出される。
「お、オレの場に?」
驚くのも、無理はない。攻撃を無効にするまではわかるが、その後相手にアドバンテージを与えてしまう効果は不気味すぎる。
「私が選ぶのは、《節足竜目ライス・テュポーン》…。これを君の場に!」
僅か一コストのドラゴン。
(コストが一じゃあ、攻撃してもブロックされて返り討ちだ。ここはこのままターンエンド…)
「おっと! 君はまだターンを終われない! 《節足竜目ライス・テュポーン》は、カード効果で場に出ている場合、そのターンからでも攻撃できる…いや、しなければいけないのだ」
そう、このドラゴンは可能であれば攻撃とブロックを行わなければいけない。
「じゃあ、直接攻撃…」
「そして私は、その攻撃を《節足竜目ローカスト・ジャバウォック》でブロック! この時、《節足竜目ライス・テュポーン》の効果が発動! バトルでは破壊されないが、ブロックしてもされてもダメージが発生する!」
「そのためのコスト一のドラゴンか…!」
コストの差は六、よって無傷だったリュウシの体力がついに六点削られ、残りは二十四点。才林と並んだ。
「くうう…! これでターンエンド…だ!」
「私のターン!」
才林はスペルカード、《目覚めの季節》を使った。疲労状態の相手のドラゴン全てを、回復させるカードである。またこの時に回復しなかったドラゴンは、このターンブロックを行えなくなる。《リヴァイムート・サルガッソー》は自身の効果で疲労状態から回復しているために、ブロック不可能になった。
(狙いは……《節足竜目ライス・テュポーン》でブロックさせることか!)
このゲームでは、直接攻撃よりもドラゴン同士の戦闘の方が相手にダメージを与えやすい。それは当然で、直接攻撃に反応するトリガーカードの方が強力だからである。
「さらに私は残った六コストで、《節足竜目モスキート・ドレイク》を召喚し! 直接攻撃!」
この攻撃は、《節足竜目ライス・テュポーン》で強制ブロック。
「うぬううぅ…!」
五点のダメージがリュウシを襲い、残りは十九点。
「それだけではない! 《節足竜目モスキート・ドレイク》はバトルで相手に与えたダメージ分、回復できる! よって私は五点の体力を得、二十九点に!」
これで彼はターンエンド。
「オレのターンだ!」
引いたのはスペルカードの《アクアブースト》。
(クソ! 《節足竜目ライス・テュポーン》が水のドラゴンならこれで処理できたが…!)
しかしそのドラゴンのエレメントは闇。よって効果の範囲の外。
「まあいい! オレはコスト十を支払ってドラゴンを召喚! 未知なる大陸は、無限の好奇心を生み出す! 今、その扉を海底より開け! 《リヴァイムート・ムー》!」
(超大型、最上級のドラゴン…! 臆せず攻めてくるか!)
さらにリュウシは残った二コストでスペルカードを使用。
「《井戸汲み》発動! 手札を一枚捨てて、二枚ドローする!」
普通に考えれば、手札交換系のカードである、しかし、
「来たぜ来たぜ……! オレは今、リヴァイムートを引いた! この瞬間、《リヴァイムート・ムー》の効果が発動! オレがカードの効果で引いたリヴァイムートを、一ターンに一度だけ、疲労状態で場に出せる! 来い、《リヴァイムート・パシフィス》! さらにカードの効果で引いた《リヴァイムート・ネプチューン》も自身の効果で場へ!」
あっという間に、場に五体のドラゴンが並んだ。
「さあアタックステップ! オレは……」
「その瞬間! 私はトリガーカードを発動する。《攻撃擬態》だ。その効果によって、このターン私のドラゴンは君の場にいる最もコストの高いドラゴン……つまり《リヴァイムート・サルガッソー》と同じになる」
つまり、才林の場のドラゴンのコストは二体とも、十三。
「これじゃあ攻撃しようにも……」
そう思った瞬間、ある疑問が頭に浮かんだ。
(待てよ? 何故才林はそれをオレのドラゴンの攻撃時に使わなかった? そうすれば一体は返り討ちにできたはず……。そ、そうか! 才林はオレが、このターンの攻撃を放棄すると睨んでいるんだ! もしそうなれば、《節足竜目ライス・テュポーン》でのみ攻撃することになって、それはブロックされてオレにダメージ。だが逆に、ダメージ覚悟で攻撃すればオレのドラゴンは減ることになる……)
そこまでたどり着いた瞬間、リュウシには理解できた。
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