枝垂の場には、自身への攻撃を強制する《災害竜ファイアストーム》が。これを通す場合、十八点ものダメージを受ける。当然、ブロックしなければならない。だが、ブロックできるドラゴンは枝垂の場には、《災害竜ロー・プレッシャー》のみ。
「ブロックじゃ…」
「よし! これで《パラノーマル・ディザスター》はもう怖くない! 俺はターンエンド!」
しかし枝垂は既に、逆転の一手を手札に引き込んである。
「われのターン! 再び召喚する、《災害竜グラウンド・ゼロ》!」
また、全体除去効果が飛んで来る。
「そうはさせない! 俺はトリガーカード、《火山地帯》を発動し、破壊される代わりにデッキから炎のドラゴンを一体墓地に送る!」
これでまた、墓地のサラマンフリートが増えた。
「生き残ったか? しかしわれの勝利は変わらぬ! 残った三コストで、スペルカード《アクチュアリー・ディザスター》! このターン、選ばれた災害竜はブロックされぬ。われが選ぶのはもちろん《災害竜グラウンド・ゼロ》! 終わりじゃ、くらえ! 過ちの…」
「それは、攻撃が通ればの話だろう?」
「何だと…?」
「俺のトリガーカードの方が先だ! 《ファストマッチング》!」
その効果で、輝明は自分の《サラマンフリート・ムスプルヘイム》を、枝垂の場からは《災害竜グラウンド・ゼロ》を選択。選ばれたドラゴン同士でまず、バトルが行われる。
「………しまった!」
実は《災害竜グラウンド・ゼロ》は、他のドラゴンの効果を無効にできるのは破壊時のみである。《火山地帯》の効果で生き残った《サラマンフリート・ムスプルヘイム》の効果は、生きているのだ。
「このバトルの時! 俺の墓地のサラマンフリートの数だけコストが上がる! さっきより一体増えて、十七体! よってコストは、二十七!」
「こ、こんなことが……!」
コストの差は、十七。よって枝垂にその差分がそのままダメージとして入る。おまけに《災害竜グラウンド・ゼロ》は、破壊。
「馬鹿な………?」
一気に逆転。そして枝垂のターンは終わり、輝明のターン。
「俺は、《サラマンフリート・ムスプルヘイム》で直接攻撃! 通れ、クリムゾン・フューリー!」
枝垂の手札には、これを防ぐカードがない。トリガーカードは二枚あるが、内一枚の《デススキップ》は、自分の場にドラゴンが存在しない場合は発動自体が不可能で、もう一枚の《災厄なるバリア―ディザスター・フォース―》もやはり、自分の災害竜を破壊しなければ効果が起動しないので使用不可能。
(…………見事じゃ、輝明よ。ここまで諦めず、われを追い詰めそして、勝利を得た……!)
決まった。
「……き、き、決まったのかあああ?」
会場がどよめく。あの枝垂が負けたからである。司会ですら、困惑している。
「や、や………。やっっったあああああああああああ!」
嬉しさのあまり、輝明は叫んだ。その声が会場に響くと、慌てて司会も、
「し、勝者、小前田輝明選手! 小前田輝明選手です! 何と、無敵のチャンピオンを打ち倒しましたあああ!」
その発言を受けてもなお、観客は戸惑っている。実際に勝利した輝明ですら、実感がわかずにいる。
すると枝垂は司会に近づき、マイクを奪うと、
「みな! われは枝垂じゃ。ここは私情の全てを排除し、新たなるチャンピオンの誕生を祝おうではないか! 彼の名は、小前田輝明! われの繰り広げる災害に、諦めることなく抗い続けそして! 勝利の炎を灯し続けたドラゴンテイマー!」
そう叫んだ。すると会場は、
「てーるあき! てーるあき!」
とコールする。
「さ。輝明、何か言いたいことはあるか? 今なら全観客が聞いてくれるぞ?」
マイクは輝明の手に回される。
「………。お、俺が優勝して、いいんでしょうか……!」
緊張しながらそう言うと、観客からはまるで、当然だ、と言わんばかりの歓声が。
「ありがとうございます! ありがとうございます……!」
ただ、輝明はそう繰り返した。
今年度のテイマーズカーニバル、優勝は小前田輝明。準優勝が皇枝垂に決まった。
「優勝しました小前田輝明選手には、優勝記念品である《レッドアイズ・タイラントバーン・ドラゴン》が、皇枝垂選手には準優勝記念の《ポイズン・テール・ディフュージョン・ドラゴン》が贈呈されます!」
《レッドアイズ・タイラントバーン・ドラゴン》は戦闘で破壊したドラゴンのコスト分のバーンに加え、相手のスペルカードの効果を受けない耐性、そして各ターン最初に疲労状態になった場合回復できる効果を持つ。
《ポイズン・テール・ディフュージョン・ドラゴン》は手札にドラゴンが加わった時、または場以外から自分のドラゴンが墓地に送られた時、それをコストを支払わずに場に出せるドラゴン。
記念品であるために、どちらもデッキに組み込むことはできない。だが、世界に一枚ずつしか存在しないカード。同時に、この大会で決勝まで勝ち残った証でもある。
「……去年の優勝カードは《キマイラ・ブロックス・ドラゴン》で、準優勝は確か《マトリックス・ブロックス・ドラゴン》だったな。あの時が懐かしい。しかし、準優勝だと一味違うな……」
枝垂はこの光景を、去年も目にした。その時は、会場の誰もが彼女の名前を叫んだ。それを悔しそうな表情で才林が見ていた。だが今は、枝垂はその時の才林の立場。
「負けて悔しいというのは、こういう感覚か………」
初めて勝負事で、流す涙。それを枝垂はすぐに袖で拭き取る。今は輝明の栄誉を称えるべきであって、自分が遠吠えをする時ではない。
「枝垂! またバトルしようぜ!」
輝明は、枝垂にそう言った。
(また、か……。その時は、どうなのだろうか? またわれが負けるのか。それとも……)
様々な感情が複雑に混じるが、枝垂はそれらを全て捨てた。こういう時は、決まり文句を返すのが礼儀。
「わかっておる。だが次は勝たせてもらおうぞ!」
テイマーズカーニバルは、これにて幕を閉じた。
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