大会は盛り上がっている。参加者たちは全力を尽くしてカードをプレイし、そして観客は勝者も敗者も称える。
「………」
しかし、関係者席に不満そうな顔をしている人物が一人いた。彼は黙って席を立った。
控室の椅子に座っているリュウシは、あることを考えていた。
(あの枝垂に、オレは勝てるんだろうか…? あの圧倒的なプレイング……とてもじゃないが、オレが受け止められるもんじゃないぞ…)
リュウシは相場と戦った時、苦戦した。が、枝垂は終始余裕であった。しかも二回戦の相手である孝斗も、モニター越しではあるが相当の猛者であることは間違いない。しかし二人とも、枝垂に蹴散らされたのだ。
大会に出場している以上、目指すは優勝のみ。だが、越えるべき壁はあまりにも高い。
「……リュウシさん、試合ですよ?」
係員に声をかけられて、ハッとなった。
「わかりました」
頭では枝垂のことを考えながら、移動を開始する。
「おや? お前は見たことあるな…? だが名前は何だったか?」
二回戦の対戦相手は、下山亨だ。
「リュウシだ。お前は確か、去年も出場していたとかいう……」
「亨だな。覚えておく必要は……ない! 何故ならお前は! 今ここで俺に負けるからだ!」
随分と自信のある口調。リュウシも黙ってはいられず、
「うるさいぜ! オレには倒さないといけない相手がいる……。こんな所で躓いている暇はない!」
「ほう? じゃあさっさと始めようじゃないか!」
リュウシの二回戦が始まる。
(くっ! 重い手札だ…!)
リュウシの初手は悪い。だがマリガンのないこのゲームでは、そんな絶望的な手札でも何とかするしかないのだ。
「どうやら、先制できないようだな? ならば俺から行かせてもらうぜ?」
先に動けたのは、亨の方だった。彼の戦術はどんなものだろうか?
「俺はコスト四の《ヒュドラフニール・ブフォース》を召喚だ」
どうやら闇のドラゴンで攻めるデッキであるらしい。
「オレのターン!」
このドローも悪い。
「…《エネルギー・ギフト》を使ってターンエンドだ…」
無力感を感じる。だが、
(次のターンにはエネルギープールは六枚になって、《リヴァイムート・レムリア》を呼び出せる。今はそれで凌ぐしか…!)
そして返しの亨のターン。
「ふ~む? 俺はコスト二のスペルカード、《デス・ギフト》を発動だ」
その効果で、自分の場のドラゴンを一体破壊し、一枚ドローと一枚エネルギーチャージを行う。
「自分のドラゴンを減らした?」
一見するとボードアドバンテージを失ってまでエネルギープールと手札を得る行為には、意味がないように見える。そもそも今はリュウシの場にはドラゴンがいないので、攻撃が通りやすいはずなのだ。
「タダでは死なないぞ? 《ヒュドラフニール・ブフォース》の効果! 破壊された時、サイコロを一度振る。出た目の数だけ、お前のデッキの上からカードを墓地に送る!」
「何だと?」
そう、【ヒュドラフニール】は相手の体力を削ることは考えていない、ライブラリアウト…デッキ破壊が戦法。カード・オブ・ドラゴンにおいて、デッキの最後の一枚がなくなったその瞬間、体力に関係なくそのプレイヤーの敗北が決まる。
「出目は…三か、微妙だな。だが墓地に送ってもらうぜ?」
「……」
上から三枚をめくった。一枚目は《リヴァイムート・キャンサー》で、二枚目はトリガーカード、三枚目は《リヴァイムート・ネプチューン》だった。
(今のデッキ破壊がなければ、次のターンにリヴァイムートを展開できていたのに…!)
「さらに残ったエネルギープール三枚で、《ヒュドラフニール・ヘモ》を召喚。その召喚時の効果…相手のデッキの上から二枚を墓地に送る!」
言われるがまま、リュウシはデッキのカードを墓地に落とした。
「オレのターン、ドロー! そしてエネルギーチャージ!」
現状を打破したいために、大きな声でスタートステップを開始した。この時点で手札は六枚、エネルギープールも六枚、墓地には七枚のカードがある。
(デッキは六十枚ピッタリ。既に十九枚のカードが削られている…。残りは四十一枚か)
まだ大丈夫。自分にそう言い聞かせた。
「オレはコスト六の、《リヴァイムート・レムリア》を召喚して、二枚ドローする。これでターンエンドだ」
「ククク…! 俺のターン!」
だが亨は、リュウシのデッキを全て削る気満々である。
(まだ余裕がある…。そう思っているんだろう? しかしそれは大きな落とし穴! そういう考えを持っているヤツほど、ヒュドラフニールの毒は効きやすいんだよな! 特にリュウシ! お前の【リヴァイムート】は俺のデッキと、相性最悪ってことをわかっていない! 今のドローでいいカードを引き込もうとしたんだろうが、お前のデッキはドローに優れ過ぎているんだ。それは俺の戦術を補助してしまっている!)
これは当たり前のことだが、ドローすればそれだけでデッキは減っていく。スタートステップでのエネルギーチャージは任意だが、今のリュウシは大型のドラゴンを出すためにエネルギーを貯めようとしている。
(だから…隙が生まれるのさ!)
そしてその隙を大きく広げるのが、ヒュドラフニールの毒である。
「コスト六、《ヒュドラフニール・ササニトン》を召喚! 俺のドラゴンは攻撃はできるが…」
亨は場を見た。リュウシの場には、《ヒュドラフニール・ササニトン》と同じコストのドラゴンが一体のみ。
「いや、しないでおこう。ターンエンドだ」
そのままターンを渡す。
(く、来なかったのか…!)
実はこの時、リュウシは亨に攻撃して欲しかったのである。手札にあるトリガーカード、《インジャーストラグル》を発動したかったからだ。
「オレのターンだな?」
リュウシはこの時、考えた。何故亨は攻撃を仕掛けてこなかったのかを。理由は簡単で、相手は体力を削ることを考えていないからというのもあるが、下手に攻撃してトリガーカードを使わせたくなかったからだ。
(だとすると、オレの攻撃反応型のトリガーカードは無駄か! しかし!)
ならばリュウシが取るべき行動は簡単。自分のデッキがなくなる前に勝負を決めるまで。
「エネルギープールには七枚ある! オレは《リヴァイムート・ニライカナイ》を召喚する! そして直接攻撃だ!」
「それは、《ヒュドラフニール・ヘモ》でブロック」
「だが、今! オレの《リヴァイムート・ニライカナイ》はバトルでお前のドラゴンを破壊したよな? そのコストの分だけドローさせてもらうぜ!」
つまりは三枚のドロー。しかしこの時得意気な顔をしているのは、リュウシだけではない。亨もなのだ。
「だが今…お前はカードを効果で引いたな? 《ヒュドラフニール・ササニトン》の効果! 相手がカード効果でドローした場合、その分だけデッキからカードを墓地に送らせる!」
「…し、しまった!」
三枚のカードが墓地に。
(まず除去すべきは、あのドラゴンか!)
リュウシは自分の手札を確認する。除去を行えそうなのはバウンス効果のあるトリガーカード、《ディープストライク》のみ。だがこれは、自分がダメージを受けないと使えない。
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