カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

第六話 山札への毒

CARD 20

公開日時: 2020年9月6日(日) 12:00
文字数:2,840

 大会は盛り上がっている。参加者たちは全力を尽くしてカードをプレイし、そして観客は勝者も敗者も称える。


「………」


 しかし、関係者席に不満そうな顔をしている人物が一人いた。彼は黙って席を立った。



 控室の椅子に座っているリュウシは、あることを考えていた。


(あの枝垂に、オレは勝てるんだろうか…? あの圧倒的なプレイング……とてもじゃないが、オレが受け止められるもんじゃないぞ…)


 リュウシは相場と戦った時、苦戦した。が、枝垂は終始余裕であった。しかも二回戦の相手である孝斗も、モニター越しではあるが相当の猛者であることは間違いない。しかし二人とも、枝垂に蹴散らされたのだ。

 大会に出場している以上、目指すは優勝のみ。だが、越えるべき壁はあまりにも高い。


「……リュウシさん、試合ですよ?」


 係員に声をかけられて、ハッとなった。


「わかりました」


 頭では枝垂のことを考えながら、移動を開始する。


「おや? お前は見たことあるな…? だが名前は何だったか?」


 二回戦の対戦相手は、下山亨だ。


「リュウシだ。お前は確か、去年も出場していたとかいう……」

「亨だな。覚えておく必要は……ない! 何故ならお前は! 今ここで俺に負けるからだ!」


 随分と自信のある口調。リュウシも黙ってはいられず、


「うるさいぜ! オレには倒さないといけない相手がいる……。こんな所で躓いている暇はない!」

「ほう? じゃあさっさと始めようじゃないか!」


 リュウシの二回戦が始まる。



(くっ! 重い手札だ…!)


 リュウシの初手は悪い。だがマリガンのないこのゲームでは、そんな絶望的な手札でも何とかするしかないのだ。


「どうやら、先制できないようだな? ならば俺から行かせてもらうぜ?」


 先に動けたのは、亨の方だった。彼の戦術はどんなものだろうか?


「俺はコスト四の《ヒュドラフニール・ブフォース》を召喚だ」


 どうやら闇のドラゴンで攻めるデッキであるらしい。


「オレのターン!」


 このドローも悪い。


「…《エネルギー・ギフト》を使ってターンエンドだ…」


 無力感を感じる。だが、


(次のターンにはエネルギープールは六枚になって、《リヴァイムート・レムリア》を呼び出せる。今はそれで凌ぐしか…!)


 そして返しの亨のターン。


「ふ~む? 俺はコスト二のスペルカード、《デス・ギフト》を発動だ」


 その効果で、自分の場のドラゴンを一体破壊し、一枚ドローと一枚エネルギーチャージを行う。


「自分のドラゴンを減らした?」


 一見するとボードアドバンテージを失ってまでエネルギープールと手札を得る行為には、意味がないように見える。そもそも今はリュウシの場にはドラゴンがいないので、攻撃が通りやすいはずなのだ。


「タダでは死なないぞ? 《ヒュドラフニール・ブフォース》の効果! 破壊された時、サイコロを一度振る。出た目の数だけ、お前のデッキの上からカードを墓地に送る!」

「何だと?」


 そう、【ヒュドラフニール】は相手の体力を削ることは考えていない、ライブラリアウト…デッキ破壊が戦法。カード・オブ・ドラゴンにおいて、デッキの最後の一枚がなくなったその瞬間、体力に関係なくそのプレイヤーの敗北が決まる。


「出目は…三か、微妙だな。だが墓地に送ってもらうぜ?」

「……」


 上から三枚をめくった。一枚目は《リヴァイムート・キャンサー》で、二枚目はトリガーカード、三枚目は《リヴァイムート・ネプチューン》だった。


(今のデッキ破壊がなければ、次のターンにリヴァイムートを展開できていたのに…!)


「さらに残ったエネルギープール三枚で、《ヒュドラフニール・ヘモ》を召喚。その召喚時の効果…相手のデッキの上から二枚を墓地に送る!」


 言われるがまま、リュウシはデッキのカードを墓地に落とした。


「オレのターン、ドロー! そしてエネルギーチャージ!」


 現状を打破したいために、大きな声でスタートステップを開始した。この時点で手札は六枚、エネルギープールも六枚、墓地には七枚のカードがある。


(デッキは六十枚ピッタリ。既に十九枚のカードが削られている…。残りは四十一枚か)


 まだ大丈夫。自分にそう言い聞かせた。


「オレはコスト六の、《リヴァイムート・レムリア》を召喚して、二枚ドローする。これでターンエンドだ」

「ククク…! 俺のターン!」


 だが亨は、リュウシのデッキを全て削る気満々である。


(まだ余裕がある…。そう思っているんだろう? しかしそれは大きな落とし穴! そういう考えを持っているヤツほど、ヒュドラフニールの毒は効きやすいんだよな! 特にリュウシ! お前の【リヴァイムート】は俺のデッキと、相性最悪ってことをわかっていない! 今のドローでいいカードを引き込もうとしたんだろうが、お前のデッキはドローに優れ過ぎているんだ。それは俺の戦術を補助してしまっている!)


 これは当たり前のことだが、ドローすればそれだけでデッキは減っていく。スタートステップでのエネルギーチャージは任意だが、今のリュウシは大型のドラゴンを出すためにエネルギーを貯めようとしている。


(だから…隙が生まれるのさ!)


 そしてその隙を大きく広げるのが、ヒュドラフニールの毒である。


「コスト六、《ヒュドラフニール・ササニトン》を召喚! 俺のドラゴンは攻撃はできるが…」


 亨は場を見た。リュウシの場には、《ヒュドラフニール・ササニトン》と同じコストのドラゴンが一体のみ。


「いや、しないでおこう。ターンエンドだ」


 そのままターンを渡す。


(く、来なかったのか…!)


 実はこの時、リュウシは亨に攻撃して欲しかったのである。手札にあるトリガーカード、《インジャーストラグル》を発動したかったからだ。


「オレのターンだな?」


 リュウシはこの時、考えた。何故亨は攻撃を仕掛けてこなかったのかを。理由は簡単で、相手は体力を削ることを考えていないからというのもあるが、下手に攻撃してトリガーカードを使わせたくなかったからだ。


(だとすると、オレの攻撃反応型のトリガーカードは無駄か! しかし!)


 ならばリュウシが取るべき行動は簡単。自分のデッキがなくなる前に勝負を決めるまで。


「エネルギープールには七枚ある! オレは《リヴァイムート・ニライカナイ》を召喚する! そして直接攻撃だ!」


「それは、《ヒュドラフニール・ヘモ》でブロック」


「だが、今! オレの《リヴァイムート・ニライカナイ》はバトルでお前のドラゴンを破壊したよな? そのコストの分だけドローさせてもらうぜ!」


 つまりは三枚のドロー。しかしこの時得意気な顔をしているのは、リュウシだけではない。亨もなのだ。


「だが今…お前はカードを効果で引いたな? 《ヒュドラフニール・ササニトン》の効果! 相手がカード効果でドローした場合、その分だけデッキからカードを墓地に送らせる!」

「…し、しまった!」


 三枚のカードが墓地に。


(まず除去すべきは、あのドラゴンか!)


 リュウシは自分の手札を確認する。除去を行えそうなのはバウンス効果のあるトリガーカード、《ディープストライク》のみ。だがこれは、自分がダメージを受けないと使えない。

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