「これでターンエンド。さあ、君のターンだ。この、与えられた一ターンで、君が負けるかどうかが決まると言っても過言ではないな。さあ、カードを引きたまえ」
完全に追い詰められた。だが菖蒲はそれでも勝負を諦めない。
「私の……ターン!」
その姿勢を見た時、井筒は感心した。
(やはり……カードゲームをプレイする人は本来、このようであるべきだ……)
そしてデッキも、その思いに応える。井筒はカードこそ見えないものの、菖蒲が逆転のキーカードを引いたことを直感した。
「私はコスト十のドラゴンを召喚! 妨げられし森の怒りが今、世界を緑で包み込む! 《ビオランドラゴラ・スフェロイデン》!」
(やはり、引いたか……。ここに来て、ビオランドラゴラのキーカード。確か効果は絶大だ、そういう風にデザインしたからな……)
井筒が一番よく知っている、その効果。
「発動! 自分の場のドラゴンの数が相手よりも少ない場合、その数までエネルギープールからビオランドラゴラを、踏み倒せる! さあ、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》、《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》!」
一気に二体のドラゴンをエネルギープールから展開。しかも《ビオランドラゴラ・スフェロイデン》は場の他のドラゴンの数だけ上がる。これには、相手の場のドラゴンもカウントされる。
「……よってコストは、十五!」
これなら、《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》の効果があっても《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》を倒せる。
「バトル! 私は《ビオランドラゴラ・スフェロイデン》であなたの《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》に攻撃!」
「……《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》でブロックだ」
「ならば! 《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》で《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》に攻撃!」
防ぐ手段はない。自身の効果でコストが三上がっているとは言え、それでも《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》の敵ではない。一点のダメージを与えた。さらに《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》は、各ターン、最初に疲労状態になった場合、回復できる。
「だからもう一度、攻撃できる! 《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》へ攻撃!」
さらに一点のダメージに加え、ドラゴンの除去。これで井筒の残り体力は二十一点。
(まだまだ壁は高い…。だけどまだ、私のドラゴンの攻撃が残っている! それに手札には、トリガーカード、《ソニックスタンバイ》。井筒さんがドラゴンを出せても、疲労状態から回復させてブロックすれば……)
しかし、菖蒲はこれから思い知ることになる。ヌークリアの、悪魔的な恐怖を。
「……《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》が破壊された時、効果発動だ!」
「えぇっ?」
実はこのドラゴン、破壊された時にリクルート効果がある。呼び出したドラゴンはこのターン、攻撃不可能ではあるが、今はそもそも菖蒲のターンのためにこのデメリットはあってないようなもの。
「私が選ぶのは、コスト十のコレだ…。許されざる過ちが犯されしとき、招かれざる冬が訪れる。全てが滅ぶ死の季節に、魂ごと朽ち果てるがいい。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》!」
「そんな、ここに来て、コスト十のドラゴン…!」
それが出てきてしまった以上、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》は壁にするしかない。今の菖蒲の体力は、たったの一点。いかなるドラゴンの攻撃も通せないのだから。
「た、ターン……エンド……」
返しの井筒のターン。
「行くぞ……。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》の効果発動! 一ターンに一度、相手の場のドラゴンを全て墓地に送る! さあ消えろ!」
「ぜ、全体除去……!」
しかも破壊を介さない分、凶悪な性能。菖蒲の手札には、効果破壊に反応してそれを無効にできるトリガーカードの《クラウンゴール》があったが、この効果の前では無意味。一応、自分の他のドラゴンが攻撃できなくなるデメリットもあるが、井筒の場には《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》しかいないので気にならない。
「これで君を守るドラゴンは全ていなくなった。直接攻撃だ、《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》! デモリッシュ・ブリザード!」
「うう、うわああああおおおおおお!」
菖蒲の体力は、灰色の吹雪に吹き消された。
「勝負あったな、菖蒲君……。君の負けだ。これでカード・オブ・ドラゴンはまた一歩、終焉に近づいた。さて……リュウシ君、君はどうするのかな?」
井筒の操る、【ヌークリア】。その強さを間近で見ていたリュウシは、
(強い……。もしかしたら、輝明の【サラマンフリート】や枝垂の【災害竜】よりもデッキパワーは上かもしれない……)
だが、
(だからと言って、引けない! オレが引いたら、カード・オブ・ドラゴンは終わってしまう! それだけは絶対に避けるんだ!)
そして、強く言う。
「バトルだ! オレと! カード・オブ・ドラゴンは絶対に終わらせない! オレが未来を切り開いてみせる!」
彼には、全国のドラゴンテイマーの未来がかかっている。
このバトルは、実際に戦うリュウシと井筒、そして隣にいる菖蒲以外の誰の目にも入らない。だが、負けるわけにもいかない。
「カードゲームはみんなの希望! それをオレが、明日に紡いでみせる! 絶対に!」
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