カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

CARD 58

公開日時: 2020年9月14日(月) 17:00
文字数:2,136

「これでターンエンド。さあ、君のターンだ。この、与えられた一ターンで、君が負けるかどうかが決まると言っても過言ではないな。さあ、カードを引きたまえ」


 完全に追い詰められた。だが菖蒲はそれでも勝負を諦めない。


「私の……ターン!」


 その姿勢を見た時、井筒は感心した。


(やはり……カードゲームをプレイする人は本来、このようであるべきだ……)


 そしてデッキも、その思いに応える。井筒はカードこそ見えないものの、菖蒲が逆転のキーカードを引いたことを直感した。


「私はコスト十のドラゴンを召喚! 妨げられし森の怒りが今、世界を緑で包み込む! 《ビオランドラゴラ・スフェロイデン》!」


(やはり、引いたか……。ここに来て、ビオランドラゴラのキーカード。確か効果は絶大だ、そういう風にデザインしたからな……)


 井筒が一番よく知っている、その効果。


「発動! 自分の場のドラゴンの数が相手よりも少ない場合、その数までエネルギープールからビオランドラゴラを、踏み倒せる! さあ、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》、《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》!」


 一気に二体のドラゴンをエネルギープールから展開。しかも《ビオランドラゴラ・スフェロイデン》は場の他のドラゴンの数だけ上がる。これには、相手の場のドラゴンもカウントされる。


「……よってコストは、十五!」


 これなら、《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》の効果があっても《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》を倒せる。


「バトル! 私は《ビオランドラゴラ・スフェロイデン》であなたの《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》に攻撃!」

「……《ヌークリア・プロリファレーション・ドラゴン》でブロックだ」

「ならば! 《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》で《ヌークリア・バッテリー・ドラゴン》に攻撃!」


 防ぐ手段はない。自身の効果でコストが三上がっているとは言え、それでも《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》の敵ではない。一点のダメージを与えた。さらに《ビオランドラゴラ・チゴゲニン》は、各ターン、最初に疲労状態になった場合、回復できる。


「だからもう一度、攻撃できる! 《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》へ攻撃!」


 さらに一点のダメージに加え、ドラゴンの除去。これで井筒の残り体力は二十一点。


(まだまだ壁は高い…。だけどまだ、私のドラゴンの攻撃が残っている! それに手札には、トリガーカード、《ソニックスタンバイ》。井筒さんがドラゴンを出せても、疲労状態から回復させてブロックすれば……)


 しかし、菖蒲はこれから思い知ることになる。ヌークリアの、悪魔的な恐怖を。


「……《ヌークリア・エクスペリメント・ドラゴン》が破壊された時、効果発動だ!」

「えぇっ?」


 実はこのドラゴン、破壊された時にリクルート効果がある。呼び出したドラゴンはこのターン、攻撃不可能ではあるが、今はそもそも菖蒲のターンのためにこのデメリットはあってないようなもの。


「私が選ぶのは、コスト十のコレだ…。許されざる過ちが犯されしとき、招かれざる冬が訪れる。全てが滅ぶ死の季節に、魂ごと朽ち果てるがいい。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》!」

「そんな、ここに来て、コスト十のドラゴン…!」


 それが出てきてしまった以上、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》は壁にするしかない。今の菖蒲の体力は、たったの一点。いかなるドラゴンの攻撃も通せないのだから。


「た、ターン……エンド……」


 返しの井筒のターン。


「行くぞ……。《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》の効果発動! 一ターンに一度、相手の場のドラゴンを全て墓地に送る! さあ消えろ!」

「ぜ、全体除去……!」


 しかも破壊を介さない分、凶悪な性能。菖蒲の手札には、効果破壊に反応してそれを無効にできるトリガーカードの《クラウンゴール》があったが、この効果の前では無意味。一応、自分の他のドラゴンが攻撃できなくなるデメリットもあるが、井筒の場には《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》しかいないので気にならない。


「これで君を守るドラゴンは全ていなくなった。直接攻撃だ、《ヌークリア・ウィンター・ドラゴン》! デモリッシュ・ブリザード!」

「うう、うわああああおおおおおお!」


 菖蒲の体力は、灰色の吹雪に吹き消された。



「勝負あったな、菖蒲君……。君の負けだ。これでカード・オブ・ドラゴンはまた一歩、終焉に近づいた。さて……リュウシ君、君はどうするのかな?」


 井筒の操る、【ヌークリア】。その強さを間近で見ていたリュウシは、


(強い……。もしかしたら、輝明の【サラマンフリート】や枝垂の【災害竜】よりもデッキパワーは上かもしれない……)


 だが、


(だからと言って、引けない! オレが引いたら、カード・オブ・ドラゴンは終わってしまう! それだけは絶対に避けるんだ!)


 そして、強く言う。


「バトルだ! オレと! カード・オブ・ドラゴンは絶対に終わらせない! オレが未来を切り開いてみせる!」


 彼には、全国のドラゴンテイマーの未来がかかっている。

 このバトルは、実際に戦うリュウシと井筒、そして隣にいる菖蒲以外の誰の目にも入らない。だが、負けるわけにもいかない。


「カードゲームはみんなの希望! それをオレが、明日に紡いでみせる! 絶対に!」

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