リュウシと菖蒲は、簡単に自分のデッキの展開を確認していた。輝明という強敵を見てしまっては、危機感しか抱けない。
(サラマンフリートと戦うなら、どういう風にプレイするのが最適解何だ…?)
そしてデッキと自分に、課題を投げつける。
一方の菖蒲は、モニターの方を見た。
「あ、リュウシ! あの相場が試合に出ているよ!」
言われてリュウシはモニターの前に座る。
「おお、既に盤面が出来上がってる!」
その通りであり、相場の場には自分のドラゴニュートのコストを上げる《ドラゴニュート・ハンマー》、疲労状態でもブロックできる《ドラゴニュート・シールド》、そしてブロックされない《ドラゴニュート・アロー》が並んでいるのだ。
「これは、相場の…」
勝ちだろう。そう言おうとしたが、
「負けるな、コイツ」
一緒に見ていた下山亨という男は、相場を指差してそう呟いたのだ。
「…ドラゴニュートの強さを知らないヤツに限って、そう言うことを言うんだぜ?」
「わかっていないのは、お前の方だ。この対戦相手……皇枝垂はな、去年この大会で優勝してんだよ」
「な、何だと?」
そう。相場は運の悪いことに、一回戦でいきなりこの大会の本命といえる人物と当たってしまったのだ。
「で、でも! 相場の実力ならダークホースなれ…」
「無理だな。あの女は次元が違う。俺も去年三回戦で戦ったが、歯が立たない相手というのを初めて知った…」
経験者はそう語るのだ。そして亨はそのままどこかに行った。
「相場…。お前、ここで負けるのか…?」
心配そうな眼差しを送るリュウシ。
「く、クソ…! はあ、はあ!」
亨の言う通り、相場は苦しんでいた。残り体力は二十五点と、結構余裕があるように見えるのに、である。
「俺は、《ドラゴニュート・サイス》と《ドラゴニュート・アックス》を召喚!」
二体とも、コストが五のドラゴンである。《ドラゴニュート・アックス》は他のドラゴニュートが場に出たターンの攻撃を可能にし、《ドラゴニュート・サイス》は他のドラゴニュートが相手のドラゴンとのバトルに負けても道連れにできる効果を持っている。
「バトル…! 《ドラゴニュート・アロー》で《災害竜オーロラ》に攻撃だ!」
この攻撃はブロックできないので、枝垂は通した。
「まあよい。既にそなたの手札は把握済み。もう怖くもない」
《災害竜オーロラ》の効果は、ピーピング…相手の手札を確認すること。場にいるだけで、対戦相手に手札の公開を強制するのだ。コストは四なので、今の戦闘で枝垂は四点、ダメージを受けた。これで残りは二十六点。
「さあ、後続のドラゴンは攻撃するのか? どうするのじゃ?」
「……しないに決まってるだろ!」
この時、枝垂の場にいるもう一体のドラゴンが、相場に攻撃を躊躇わせた。それは《災害竜ジェノサイド》。相手によって破壊された場合、場のドラゴンを全て葬る凶悪な一体。コストは七と高めだが、枝垂の手札にトリガーカードの《退化》があると、コストが三下がってしまう。
「…はあ、はあ、はあ…。ターンエンドだ…」
「の前に! われはトリガーカード、《サドンリー・ディザスター》を発動じゃ!」
その名の通りそれは青天の霹靂のように、デッキから災害竜を踏み倒して出せるのだ。ただし出せるドラゴンのコストは、自身のエネルギープールの枚数以下であり、さらには次の自分のターン終了時にそれは墓地に送られる。
「われが場に出すのは…」
デッキを触りながら、何を出すかを選ぶ。
「……これじゃ。駆け巡る風は、幸も不幸も運ぶ。揺さぶる轟きよ、竜となりて世界の大気を吹き荒らせ! 招来せよ、《災害竜ロー・プレッシャー》!」
この時の枝垂のエネルギープールは十五枚もあるので、そのドラゴンでも問題なく出せる。最上級の森のドラゴンである。
「さあ、《災害竜ロー・プレッシャー》の効果発動じゃ! 自身または他の災害竜が場に出た時、相手は手札を一枚選んで捨てる! さあ捨てよ!」
「くっ!」
この時、相場の手札は四枚あった。
「いらなさそうなのは、コイツか…?」
捨てたのは、《ドラゴニュート・ランス》。相手のデッキに対し、その効果が通りづらかったのでずっと手札にあったカード。
「では、われのターンじゃ。ドローしてエネルギーチャージ。ふふふ、ではいくぞ?」
枝垂の手札は、二枚だけ。だがその二枚でも全く油断できないのが彼女のデッキ、【災害竜】なのである。
「われはコスト十をまず支払い! このドラゴンを召喚! 生命の始まりには、水がある。育む潤しよ、竜となりて世界を今一度青で包め! 降臨せよ、《災害竜タイダル・ウェーブ》!」
今度は水のドラゴン。
「《災害竜タイダル・ウェーブ》の効果発動! 自身または他の災害竜が場に出た時、一枚ドローできる。そして《災害竜ロー・プレッシャー》の効果も発動し、そなたは手札を一枚選んで捨てる!」
「うぐっ…!」
ハンドアドバンテージを得つつ、相手にハンデスを撃ち込む。相場は《ソニックスタンバイ》を捨てた。発動することもできたが、そうすると他に一枚捨てなければいけないからだ。
「まだエネルギープールは残っておる。われはコスト六の《災害竜フォトンベルト》を召喚!」
また災害竜が場に出たので、枝垂は一枚ドローして相場は手札を一枚失う。
「さらに《災害竜フォトンベルト》の効果! 場に出た時自身を疲労させることで、デッキからコスト六以下で光以外の災害竜を場に、疲労状態で出す。われが出すのは…《災害竜パンデミック》!」
またハンデスとドローだ。
「ちきしょう…」
相場の最後の手札、《ウェポンマックス》が墓地に送られた。これで完全に反撃の手を失った。
「最後に、《災害竜パンデミック》の効果! 一ターンに一度、サイコロを二個振り…おっと、出目の合計は十! よってそなたの場のドラゴンのコストは全て、マイナス十されるのじゃ!」
「な、何だと?」
カード・オブ・ドラゴンでは、コストを下げるカードは何枚か存在する。それらの効果によって場のドラゴンのコストがゼロ以下になった場合、それはルールによって破壊される。
相場の場のドラゴニュートのコストは、高くても五しかない。よって、ドラゴニュート軍団、死滅。
「お、俺のドラゴニュートが……?」
手札のない相場は、自分の盤面が滅んで行く様を見ているしかなかった。
「終わりじゃな……。手札はゼロ、場に守れるドラゴンもおらぬ。ではアタックステップ! まずは《災害竜ジェノサイド》で直接攻撃!」
「ぶわあああああ!」
七点の体力が削られた。残りは十八点。
「続くのじゃ、《災害竜ロー・プレッシャー》で、直接攻撃! 轟きのゴッド・ブリーズ!」
さらに十点が暴風で飛んで行く。
「終わりじゃな…。《災害竜タイダル・ウェーブ》で直接攻撃! 潤しのウォーター・プラネット!」
残った八点も、荒波に流されてしまった。
「負け、た……」
相場はそれ以上は何も言えなかった。
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