(今私の手札には、コスト五のスペルカード…《シードチェンジ》しかない。次のターンで逆転できるカードが引けなかったら、負け………)
それを認識すると、急に緊張感に襲われる。無理もない。ドローによっては敗北が決まるのだから。
「さあ、あなたのターンですよ」
促されたので、デッキの上に手を置いた。
(お願い、来て!)
祈りながらカードを引く。
その祈りが通じたのか、それともカードを信じる力にデッキが答えたのか。どちらかは定かではないが、
(来た…! 逆転の一枚!)
今引きでそれを引けたのだ。そしてエネルギーチャージを済ませると、
「私はコスト八のドラゴンを召喚! 《ビオランドラゴラ・アントシアニン》!」
「コスト八? では残念ですが、私の場のドラゴンには届きませんね…!」
絢音の言う通りだが、この場面ではそれでいいのだ。
「いいんだよ、それで! 私は残ったエネルギーで《シードチェンジ》を発動!」
お互いの場にドラゴンがいないと発動できないカードだ。だから菖蒲はドラゴンを引きたかった。
「その効果…! 相手は私の墓地のドラゴンを、私は相手のエネルギープールのドラゴンを選ぶ。そして選んだドラゴンを各自、コストを支払わずに場に出せる」
まず、菖蒲が絢音に自分の墓地を見せた。
「うう~ん、これですかね…?」
選ばれたのは、《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》。コストは九と高めで、効果も強い。と言うか、それ以外の選択肢が貧弱過ぎて選ぶに値しなかったのだ。
「私は……」
一方の菖蒲は、相手のエネルギープールを参照しないでカード名を宣言した。
「そこに眠っているはず! 《エクスティンクション・ティラグーン》!」
「ま、まさか!」
そのまさか。絢音としては考え得る最悪の状況。切り札の内の一枚が、相手の場に出されたのだから。
「で、でも! 私は《ビオランドラゴラ・フキコサンチン》を場に…!」
その効果を使ってこのターンの攻撃を凌ごうという考え。だが、
「いいえ! 相手がコストを支払わずに場にドラゴンを出した時、《ビオランドラゴラ・アントシアニン》の効果! 一ターンに一度、それを持ち主のエネルギープールに送る!」
まだ《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》は相手の場にいるが、それでも奪われたドラゴンを一体は取り返した。
「さあ《エクスティンクション・ティラグーン》の効果発動! 自身を疲労状態にして、ハンデスとランデスを同時に行う!」
「ひいぃ!」
自分に使われると、改めて効果の凶悪さがわかる。この時の絢音の手札は三枚。菖蒲はその真ん中に握られているカードを選んだ。
「あああ! 《逆鱗の化石》が……」
相手のドラゴンの全体除去を行えるトリガーカードだが、相手の攻撃にしか反応していない。だからこのタイミングでは発動できない。
「私は攻撃しないでターンエンド。でも、《シードチェンジ》の効果で場に出したドラゴンはこのターンの終わりに破壊される……」
「…!」
一聞すると、相手の強力なドラゴンを一ターンの間しか奪えないように聞こえる。が、
「その顔は、気づいてるね? 《エクスティンクション・ティラグーン》は破壊される場合、代わりに他のドラゴンを破壊できる!」
選ばれたのは、《エクスティンクション・スピノジュラス》。それは破壊を肩代わりするような効果がないので、あっけなく墓地に送られた。
「わ、私の切り札が………!」
だが、まだカードは残っている。
「っくうう、私のターン……」
しかし、その動揺がデッキにも伝わってしまったのか、良いカードが引けない。
(手札には、《エクスティンクション・アノマロブマリン》と《エクスティンクション・アンキロモス》はいるけど…)
ブロックした場合、前者はバトル相手のドラゴンを強制的に破壊する。後者は相手のドラゴンをエネルギープールに送れる。
「二体のドラゴンを召喚します…」
結局、絢音はそれらを場に出した。相手からすれば、これは厄介な壁でも何でもない。《エクスティンクション・アノマロブマリン》の効果は《エクスティンクション・ティラグーン》には効かないし、《エクスティンクション・アンキロモス》が怖ければアタックする順番を調節すればいいのだから。
そしてこのターンは、アタックもしない。コスト十の《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》の効果は無効になっているために、相打ちしかできない。しかしそうなると身代わり効果が発動してしまうのだ。
「ターンエンドです……」
菖蒲にターンが回った。弱気になっている絢音とは裏腹に、絶好のドロー。
「私は、《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》を召喚! その効果で相手の場の、《エクスティンクション・アンキロモス》をエネルギープールへ」
そしてここからが読み合い。このアタックステップ、攻撃する順番が重要である。絢音の場のドラゴンは両方とも、攻撃してきた相手のドラゴンを打ち取れるが、それが問題である。
(《エクスティンクション・ティラグーン》の効果は発動させられない……。どちらかでブロックすると、両方とも吹っ飛ぶ……! そうなると後続のドラゴンの攻撃を、残り体力では受け切れない!)
だから、その攻撃は通すしかないのだ。十点の体力が削られ、残りは五点。
「続いて、《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》で攻撃!」
「それは、《エクスティンクション・アノマロブマリン》でブロック!」
効果でバトルの結果に関わらず、両者のドラゴンが破壊。
「最後に、《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》で直接攻撃!」
「《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》でブロック……」
今度は相打ちで両者のドラゴンが場から消える。これで総攻撃は終了。
「わ、私のターン!」
手札は悪い。もはや壁を増やすことしか彼女にはできない。
「二体目の《エクスティンクション・パラザウラー》を召喚……します」
そしてターンエンド。
「私のターン…!」
ドローしたのは、コスト六の《ビオランドラゴラ・シトロネロル》。それを場に出すと絢音は、
「ま、負けました……」
潔く敗北を認めた。
「そこまで! 勝者、城ケ崎菖蒲選手! 庄子絢音選手の強力なエクスティンクションの攻撃と効果を、逆に利用しました!」
熾烈な戦いを制したのは菖蒲。
「く、悔しいです。でも仕方ありません…。相手に利用された時のことを想定していなかった私の負けです…」
「そんなに落ち込まないでよ。私もドローが悪かったら負けてたんだよ? それにそんな状況になることの方が珍しいって」
菖蒲の心境は複雑だ。確かに相手のドラゴンを利用して勝利したのだが、それが《エクスティンクション・ティラグーン》でなければ彼女の勝利は成立していないのだから。
「自分が未熟なのはよくわかりましたよ。菖蒲さん、さあ次の試合に備えてください!」
「うん! ありがとう!」
そしてお互いに握手を交わした。
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