カード・オブ・ドラゴン

杜都醍醐
杜都醍醐

CARD 12

公開日時: 2020年9月3日(木) 14:00
文字数:2,255

「確実に何かある!」


 前例を見た菖蒲はそう確信する。


「そうよ! まず《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》はバトルでは破壊されず、生じるダメージは相手のみ受ける! しかもバトル相手のドラゴンを破壊可能よ!」

「で、でも! 私のドラゴンは全部、疲労状態じゃない!」


 原則として、疲労状態のドラゴンしか攻撃対象には選べない。だが、


「これ、なーんだ?」


 喬子は手札を一枚、ワザとらしく菖蒲に見せた。


「あ、あれは…! 《強制防衛》?」

「アッタリー! 私は二枚目の《強制防衛》を引いていたのですよ~ん! ついでに《カースドドライブ》も発動!」


 こうして喬子は、またも相手のドラゴンにブロックを強制させ、且つコストの低いドラゴンで攻撃する権利を得た。また、前のターンに発動した《イービルバトル》の効果はこの喬子のターンで切れるが、逆に言うとまだ効果が生きている。


「じゃあ始めますわよ? 《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》で攻撃! 誰がブロックするのかな?」

「私は、コスト四の《ビオランドラゴラ・カンファー》で…」

「あ、言い忘れてた! 《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》はドラゴンとバトルする時だけ、コストが自分の減った体力分だけ上昇するわ!」

「ええ、嘘!」


 しかし現実。このために喬子は自分の体力をワザと減らしていたのだ。今の喬子の体力は十一点。つまり減っている十九点分、コストに上乗せされて《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》のコストは二十。


「な、なら! 《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》でブロック!」


 今のバトルで、菖蒲に生じたダメージは十点。おまけに《ビオランドラゴラ・ストリキニーネ》は破壊された。


「仕留め損ねたか…まあ私の体力も言うほど減ってないし仕方ないわね! これでターンエンドよ?」

「わ、私のターン…」


 この状況、喬子は実はかなりマズい。攻撃をブロックできるのは《霊骸竜ギルティクロー》のみで、菖蒲は返しのターンに大型のドラゴンを場に出すこともできるのだから。


(でも、そんなやわな発想じゃカード・オブ・ドラゴンでは勝てないわよ?)


 この余裕の表情には、わけがある。手札は二枚。先ほど喬子を救った《デススキップ》と《ソニックスタンバイ》である。


(これがあれば、いくら攻撃しようにも! 私の勝ちね!)


 だが…諦めていないのは喬子の目の前の女子、菖蒲も同じであった。


「ドローしてエネルギーチャージ!」


 それが、運命のドローであった。


(これは、《アタックステルス》…!)


 引いたカードはそれだ。そしてエネルギープールに落ちたカードは、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》。


(よし、行ける!)


 勇気を振り絞って、菖蒲はカードを使う。


「私はスペルカード、《アタックステルス》を発動! 次に召喚するドラゴンのコストを一、少なくできる。そしてそのドラゴンが攻撃する場合相手はカードを発動できない!」


 強力なカードであることには間違いはない。だが喬子は驚いていない。


「ふーん? でもブロックは可能なのよね、それ」


《ソニックスタンバイ》を使うのは、危なくなったらでいい。だから喬子は何もカードを使わない。


「そして私は、このドラゴンを召喚する! 大いなる自然派、触れることすら許されない。緑の大地に咲く気高き花よ、勝利の果実を実らせよ! 《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》!」


 エネルギープールからの召喚は、《ビオランドラゴラ・ビサボレン》によって可能となっている。


「さらに私は、《ビオランドラゴラ・ビグルコシノレート》の効果発動! 《ビオランドラゴラ・ビサボレン》を墓地に送って、このターンの間、そのコストを自身に加える!」


 これで、《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》のコストは十八に増加。しかしこのターン、このドラゴンは直接攻撃は行えなくなる。それを知ったためか喬子は、


(なら! 《ソニックスタンバイ》は使わなくていいわ!)


 今直接攻撃ができるのは、《ビオランドラゴラ・カンファー》と《ビオランドラゴラ・スクアレン》のみ。そのコストの合計は九。喬子の体力はギリギリ二点残り、さらに《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》のコストが上がる。


「まずは、《ビオランドラゴラ・スクアレン》で直接攻撃!」


《強制防衛》の効果で、《霊骸竜ギルティクロー》は必ずブロックを行う。コストでは下回っているので破壊された。


「次に! 私は《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》で《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》に攻撃!」

「今、宣言したわね? 言ったわね? 私のドラゴンに攻撃! って!」


 菖蒲が前言を撤回しないので、勝利を確信する。


「じゃあ今コスト二十の《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》の…」

「《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》の最後の効果! このドラゴンとバトルする相手のドラゴンの効果は無効化される!」

「え? ええ、え? えええええええええええええ?」


 効果がなければ、《死霊骸竜セメタリー・アルマゲドン》はただの一コストのドラゴン。それにコスト十八となった《ビオランドラゴラ・グルコシノレート》が直撃するのだ。


「バトル! サルファー・ブルーム!」

「あぎゃあああああおおお!」


 一撃で十七点のダメージ。残り体力十一点の喬子が耐えられるダメージではない。



「そこまで! 決まりました! テクニカルなバトル! その頂に立ったのは…城ケ崎菖蒲選手!」


 勝負は終わった。


「はわわわわ…。わ、私のま、負け…?」


 まるで魂が抜けたかのような喬子。


「相手が悪かったわね、お嬢ちゃん?」


 菖蒲はウインクしながらそう言った。そして控室に戻った。

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