アルマはシスターナタリーの部屋を見せてもらおうと考えていたが、なかなか言い出せなかった。
「シスター」
「どうしたの?」
「あの、シスターの部屋の中にはなにが?」
「あなたには関係ない――とはいかないわね。見せてあげるわ」
「ほんとに!?」
「せめてもの罪滅ぼしよ」
シスターナタリーが自分の部屋の前に立つ。力強く踏み込んでシスターナタリーがドアを開ける。アルマは固唾を飲んだ。
「これが私の部屋よ。アルマ何度か入ろうとしたんだって?」
「バレてたのか……」
「うふふ。はいこれ」
「これは?」
「あなたの孤児院に来る前の資料よ。本当は孤児には見せてはいけないけどね」
「ありがとうシスター」
今回、第4ツァルコフ孤児院に預けることになった幼児アルマについて記述する。
――アルマについて
・記述時2歳。生年月日については不明。
・種族は人間(?)。性別は男。
・赤髪。容姿に特に問題はなし。
・父親はポー・ルーフ。軍警の捜査官。母親はレベッカ。職業不明。
――両親の死について
984年9月28日夕刻(詳細時刻不明)、当時父親ポー・ルーフは巡回を終えて帰宅。その後自宅で火災が発生。この時は既に日没後(詳細時刻不明)。ポー・ルーフとレベッカの死体が確認される。事後2日アルマの消息が不明だったが、近くの広場に捨てられていた。
――炎上時について分かっている状況
・現場の状況より出火元は台所であると断定。
・出火原因は不明。アルマは当時2歳、両親が死亡しているので今後も出火原因の特定は不可能と思われる。
・出火元の位置と平均的な延焼速度より十分に周辺住民が、全焼する前に気づけたはずである。しかし周辺住民たちの証言では焼け落ちる所しか見ていない。つまり莫大な火力を持って一瞬で全焼した可能性が高い。
・焼け残ったドアノブよりドアに鍵はかかっていた模様。
・魔術痕は認めらなかった。
・周辺住民は中で言い合う声を聞いた者が何名かいたが、誰であったのかは不明。
・焼け落ちる際に周辺住民は2対の赤い翼を目撃している。従ってランス族が関わっている可能性がある。
以上のことより事件性も認められるが、あまりにも証拠が少なすぎて犯人の特定が困難であると思われる。捜査の進展があったら追って報告する。
【追記】
事件発生より5ヶ月で捜査は打ち切り。未解決。容疑者リストは膨れ上がり、全部で451名。打ち切り時に関係資料、容疑者リストを全て破棄。再捜査不要。
記述者:マシュー・グレア
アルマは肩を震わせながら泣いていた。今の報告書に小豆大の涙がボロボロとこぼれる。
まさかこんな所で親の事について知れるとは思っていなくて思わずアルマは泣いてしまった。それに周りの孤児とは違って、自分は捨てられたのではなく両親が死んでいたのである。捨てられていたと思い込んでいたからこそ、アルマはあんな自暴自棄のような行動に出たのである。すこし恥ずかしくもなってくる。
「どうしたの?」
「嬉しくて」
「嬉しい?」
「やっと両親に会えたって感じがして――」
「そうね。これあげるわよ」
「いや。これはここに置いていくよ」
アルマはこれから自由を求めて戦うのだ。そんな所には持っていけない。それに全て終わりにしたらまた取りに来ればいい。その時にエミリーとも――。
「預かっておくわ」
ドアを開けると前にマキがいたようでマキのおでこにドアが激突する。しかしマキは泣かなかった。
「痛かったね〜。ま〜た逃げ出して来ちゃったの〜?」
またマキはアルマをじっと見ている。その時、マキと運命を感じた。
「シスター。この子俺にくれないか?」
「え? もう1回言って?」
「だから。俺にこの子くれない?」
「いくらあなたの頼みでもそれは――」
「絶対ダメ!」
エミリーがどこで聞いていたのやら飛んでくる。
「私は? 私じゃダメなの?」
「お前を巻き込みたくない。お前の辛い顔を見たくないんだよ」
「でも現にマキちゃんのこと巻き込もうとしてるじゃない。それに私、今までも辛かったから……」
「だったらこれ以上辛い思いをさせたくないんだよ。分かってくれよ」
「わからず屋!」
「わからず屋はどっちだよ!」
「もう17なのに相変わらず子供ね!」
「うるせえ! なら言ってやるよ! お前みたいな亀を連れてったら足でまといなんだよ!」
「なんですって!?」
「アルマ、流石にそれは良くないわ。謝りなさい」
ずっと黙って聞いていたシスターナタリーが口を開く
「……」
「謝れもしないのね。やっぱ子供じゃん」
「これは2人にとって大事な問題なんだからよく話し合わなきゃダメよ。私、1回子供たちの様子見てくるから」
シスターナタリーが2人の前からいなくなる。マキは相変わらずアルマの顔を見ていた。
「ああもうわかったわ。私なんか置いて、マキちゃんも連れずに1人で旅してどこぞで野垂れ死ねばいいんだわ! そしたら死ぬ間際に後悔するでしょ? アルマみたいなろくでなしでも」
「分かった。じゃあこうしよう」
「へぇ怒らないんだ。そういうとこは大人になったみたいね! というか話を逸らそうとするんじゃないわよ!」
「ちょっと聞けって! 直接マキに聞くんだよ!」
「頭おかしくなったんじゃない? マキちゃんはまだ赤ちゃん言葉しか喋れないのよ? それにこの会話の内容が理解出来てるわけないじゃない。ね〜マキちゃん?」
「いいや俺はマキに賭ける。俺の左手で触って少し大きくするんだ。そしたら喋れるようになって意見が聞けるだろ?」
「触るって――マキちゃんが死んじゃうじゃない!!」
「左手だから大丈夫なんだって。それともお前も俺の事を除け者にするのか?」
アルマの心に雲がかかる。アルマの目は血走っていた。エミリーがそれを見て察したようだ。
「ごめん……」
「――いや俺も悪かった」
「謝れるじゃない」
「……」
「ほらこっちばっか見てないで、やるならやりなさいよ」
「止めないのか?」
「止めてもやるんでしょ?」
「――そうだな。よしやるぞ」
アルマは左の手袋を外してマキの頭の上に構える。義手までもが震えていた。少しでも長く触り過ぎると、マキはあっという間に老人になって人生を奪うことになってしまう。恐らく時間にして1秒触っただけでもおばさんになってしまうだろう。
〈ミスは許されないぞ……〉
「……行くぞ」
アルマがマキに触れる。エミリーは思わず目をつぶった。
この内容を書くの2回目なんだよ。タバコをメモに落としちゃってメモが燃えちゃったんだ。今までのは大丈夫だったよ。
・ランス族
翼の生えたガモだよ。ガモの中では比較的人間と共存出来てるんじゃないかな。まあ夜間しか出歩かないみたいだけど。赤とか緑とか色とりどりな奴らだよ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!