「ありがとな。ランプ爺」
アルマは文字通り、喪失感に強く胸を衝かれる。アルマが左手でランプの死体に触れる。死体はサラサラと風化していき、ついには机の上には何も無くなった。
アルマがランプと握手を交わしてから恐らく7年が経った。トタン庭にはカレンダーも何もないので確認しようはないので恐らくだ。
トタン庭では穏やか(?)な日々をアルマは過ごした。ランプという老人はとても優しく、アルマに寄り添った。ご飯は不味くはなかったし、トタン庭担当の軍警の人もイメージと違い優しかった。
アルマがここへやってきた日もランプはずっと傍にいて話をしてくれた。アルマは不安で泣いていた。ランプの話はとてもつまらない物であったが、アルマは隣りに誰かがいることでとても安心した。アルマは今でもこの時のことを頻繁に思い出している。
ランプはここを出たあと何を最初にするべきか耳にタコができるほどアルマに聞かせた。
「いいか? アルマ。ここを出たら名を隠して姿もできるだけ変えるんじゃ。いいな?」
「もう山ほど聞いたよ。それにこんな義手のやつが出られるわけないだろ?」
「いや。ワシが死ねばあそこの机をずらすんじゃ。下に通路がある。それをずっと歩けばとある小屋につく。そこにある『早雲』というロンボーで街に出るんじゃ。そしたら誰も手出し出来ん。孤児院に戻ってまたえっとぉ――その、あれにあってやるんじゃ」
「それも聞いたって。あとエミリーね?」
この時、アルマはランプがボケているものだと思っていた。ランプはトタン庭に来たのがどれくらい前か覚えていなかったし、度々虚言を繰り返した。だから、アルマはこれも虚言の1つだと思っていた。
アルマが半信半疑になりながらも、ついさっきまでランプの死体があった机に触れる。机がサラサラと消えていき、石の床が露になる。
するとなんということか。地面に大きく正方形に穴が空いているではないか!
「ごめんランプ爺。てっきりボケてんだと思ってたわ」
アルマは穴の中に飛び込む。かなり深い。穴の先は通路になっており、通路には扉があった。扉を開けると、そこは壮大な洞窟のような空間であった。洞窟はずっと先の方まで続いている。アルマはニヤリと笑って駆け出した。
トタン庭の前にカラクリ装甲が1機止まっている。中から青髪の女が出てくる。その女は軍警の制服を着ている。しかし普通のものより豪勢な見た目である。トタン庭の担当の軍警が敬礼をする。
「長官! わざわざ御足労ありがとうございます!」
「相変わらず堅苦しいな。君は」
「申し訳ございません! しかし、長官の前で楽にという訳には行きませんので!」
「別に悪いと言っている訳じゃない。堅苦しいのも一種の取り柄だ」
「ありがとうございます!」
長官がトタン庭の入口に立つ。門番の軍警に長官が目配せをすると、門番が小屋から出てくる。
「しばらくだな。ロクト」
「お久しぶりです。ジモーネ長官。今日はなんの御用で?」
「いつものだ」
「承知致しました」
ロクトが小屋に向かって手を振ると門と結界が開く。ジモーネがロクトに手を出すと、細長い針のようなものを渡される。その代わりにジモーネはロクトに刀を預ける。
「もしもの時は――」
「分かっている」
ジモーネが針をベルトにさして、トタン庭の中へ歩き始める。
ジモーネはトタン庭に定期的に来ていた。アルマと話をするためだ。窃盗罪及び、超危険な義手から市民を守るためにアルマをトタン庭に軟禁したのは確かだった。
しかし、ジモーネはアルマ逮捕について月波政府から助言を受けている。その助言は分かりやすく言えば圧力だ。
ジモーネは正義感溢れる人物だが、上に逆らえないのも事実である。そもそも圧力がかかる案件なんていうのは危険な犯人だったりする。アルマもそうだ。だが、トタン庭への軟禁まで指示されるのは異例である。
そういう訳で裏があると見たジモーネはアルマとの会話から、何か掴もうとしたのだが特に成果は出ていない。
「アルマ少年。話がしたいんだが」
静寂が訪れる。ジモーネは怪訝な顔を露にする。
「おーい! 度々すまんね」
ジモーネは奥に入ると誰の姿もなく、床には穴が空いている。ジモーネは瞬時に悟ったようだ。ジモーネがトタン庭の外へ出て大声をあげる。
「アルマとランプが逃走! トタン庭の地下より逃走した模様! なおこの地下道は我々の把握していないものだ。私は地下道から追う。誰でもいい! 全域に伝えろ。その他は2人の捜索にすぐさま当たれ!」
「了解!」
「いつからあんな地下道が……」
ジモーネが穴に飛び降りる。すると背中から翼が生え、手際よく着地した。スタッという音が反響する。奥には扉かあった。
「待ってろよアルマ。もう1回話をしよう」
ジモーネは扉を開けると翼をはためかせ洞窟を飛んで追いかけて行った。羽音が洞窟を席巻した。
アルマは走っていた。相変わらず恐ろしい速さだ。アルマはまさかバレていないだろうと安心している。
するとその時、後ろに大きな鳥が見える。驚いてアルマは足を止める。鳥はどんどん近づいてくる。よく見るとジモーネであった。
「アルマ……! 待て!」
「やっベ!」
アルマは肝を冷やしながらさっきよりも速く走り始める。ジモーネからの逃亡劇が始まった。
ジモーネは手にロクトに渡された細長い針のようなものを持っている。
「アルマ! ランプはどうした!」
「ランプ爺は死んだ!」
「嘘を付け! じゃあ死体はどこへやった?」
「俺が消した!」
「笑わせるな。私は嘘を教えた覚えはないぞ」
ジモーネが針をアルマに向かって投げる。針は金色に光、アルマの足スレスレに刺さる。
「外した! 待てよアルマ」
「へっ!」
アルマは針に左手で触れ、針を風化させようとする。完全に勝ったと思っていた。しかし針から光の鎖が出てきてアルマに巻き付く。
「相変わらず単純だな! アルマ少年」
「なんだこりゃ! 卑怯だぞ!」
「卑怯? 勝手に穴を作って逃げたのは君たちじゃないか」
「ちきしょうめ!」
アルマは鎖を外そうとしてもがき始める。ジモーネが翼をたたみ、アルマの元へ降りる。
「無駄だ。君用に作らせた拘束具だ。外れるはずはない」
「こんなもん――!」
アルマが顔を真っ赤にして体に力を入れる。鎖を切ってしまおうと言うのだ。ジモー
ネがもがくアルマを抱えて翼を広げる。
「ランプの居場所はあっちで聞こうか」
「ここで失敗したら終わりなんだっ……!」
ジモーネが飛び立つ。景色があっという間に過ぎていく。アルマは諦め切れなかった。ここで逃げられなければ、一生をトタン庭で過ごさねばならぬと悟っていた。あと少ししたらもう扉のとこかという時だ。パキンという甲高い音をあげて、鎖が切れる。
「よっしゃ!」
「何だと!? これだからガイフォークスは――」
ジモーネはアルマの義手に触れないよう咄嗟に手を離す。アルマが受け身も取れぬまま勢いよく地面に激突する。
「痛っ! ジモーネさんも僕の義手が怖いんだな!」
アルマは少し裏切られた気持ちになる。
「――ほら。こっちへ来い。今なら大丈夫だ。ほら……」
「無視すんなよ!」
アルマの頭にたくさんの記憶がよぎる。今までこの義手の効果を知った者たちはみんなアルマを除け者にした。しかしジモーネは根気よく話をしようとしてくれたのだ。相手が例え軍警でも、アルマは嬉しかった。そのジモーネに(物理的に)離されたのである。
アルマはここで勝負を決めようと思う。天井までは高いが、届きそうである。アルマは自分がいつも慢心すると失敗することをもう理解していた。しかし今回は確かな自信がある。アルマは左手を空に伸ばしながら、めいいっぱい飛び上がった。
不意を突かれたジモーネは慌てた様子で翼を広げて空中のアルマを掴もうとする。しかしアルマが天井に着く方が速かった。アルマが左手で天井に触れると、次々と天井が風化していき人の顔ぐらいの石がボロボロ落ち始めたのであった。
アルマは一か八かの賭けを決めたのだ。珍しく成功したことが嬉しくも、驚きに満ちていた。
絶えず轟音がしている。アルマとジモーネはもう互いに見えぬぐらい落石で石の壁が出来ていた。壁の上には絶えず落石でジモーネでも越せなそうだと判断して、アルマは駆け出す。そこにジモーネから声がかかる。
「アルマ少年。君は何をしに行くんだ?」
「何って、なんだよ」
「目的だよ。目的。人間という生き物にはなんだかんだ言って、目的が付きまとう。君は逃げて何がしたい? それとも逃げるのが目的か?」
「なんだろうな――」
アルマは言われて初めて考えた。今の今まで両腕を取り戻すと漠然と思っていた。しかし、考えてみるとそんな簡単なことではない気がしてくる。かと言って目立った目的もなくて、結局腕を取り戻したいだけなのかもしれない――。思考がループしたところで1つ思いつく。
「自由だ!」
「自由――か。トタン庭は自由ではなかったか?」
「自由なもんか」
「そうか。ならば君の自由を奪うのが私の仕事だ。待っていろよ」
「そりゃ怖いや」
アルマが言い終える頃には轟音も止み、壁が洞窟を塞いでいた。アルマは再び洞窟の奥へと走り出した。
魔法っていうのはほんとに奥が深い。東狂のことだけじゃなくてメモに書こうかと思うぐらいね。だけど、それはまた別の機会にするよ。
全部覚えてるし。
・カラクリ装甲
カジ王国と漠軍政との戦争の後期に漠軍政が作り出した無人兵器だね。初期は互いに切りあったり、魔法でちまちまやったりと全然戦況が動かなかったね。だけどカラクリ装甲の登場で漠軍政が優位に立ったんだ。そこでカジ王国で募集されたのが強力なジャンク使い。この時にジャンクは有名になったんだ。今では月波で大量生産してたり、漠軍政が巨大なのを作ったり、カジ王国が魔法を主力に動くタイプを作ったりしてるよ。軍警も移動や追跡に利用してるみたいだし。
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