黒服達が一斉にお札のようなものを胸元から取り出す。それに呼応するように、白服も合掌をする。そして、白服が詠唱を始める。
「パヴォレヴォーガ。プリジ・ド・フーライニツェ。神の怒りを知れ!」
すると地面から眩い光と共に白い巨人が出てくる。顔には血文字のような目の模様があり、背中からは羽が生えている。しかし、その他は人型をしているだけで目立った特徴はない。
「一同、構え!」
黒服達は男の掛け声で札を胸元に構える。
「そんなもので守護聖霊に勝てると思ったか。やってしまえ!」
巨人が手を振り上げる。そして、黒服達の元へ振り下ろした! 黒服達は動ぜず、ただ札を胸元に構えているだけだ。しかし次の瞬間、紫色の閃光が巨人に走り巨人がけたたましい叫び声と共に爆散した。
あたりは金色の光に包まれたが、直ぐに光は消えた。巨人の姿はやはりそこにはなかった。
「これ程までとは――。やれ」
黒服の男達が胸元にあった札を持った手を勢いよく前へ突き出した。すると、一斉に札から出たさっきのような紫色の閃光が白服を襲う。白服はもがきながらその場に倒れた。
倒れた白服の元へ黒服の男が近寄る。白服は一心に「神よ」と繰り返している。
「このような時まで死を受け入れられず、神に縋り続けるとは。悲しかな。これもまた人の性か」
「き……貴様はだ、誰だ……」
「死人に口なしだ。教えてやろう。私の名はキセン=フュンフ・ムジョウ。六華仙五番座の者だ」
「六華仙、だ――」
黒服の男が包丁で白服の首を掻っ切る。
「流石は西方の術式だ。さあ続きをやろう」
この一連の様子を向かい側にある建物の柱の影からシスターナタリーと話していた長身男が覗いている。声を潜めて独り言を言っている。
「なぜ六華仙がここに? 偶然なんて言葉では片付けられないぞ。それに『回収役』が殺されてしまった。これはひとまず引いて報告――。いや、ナタリーが心配だ。くそ。どうしたらいい?」
長身の男が色々と柱の影で思慮しながらもう一度、孤児院の方を見た時に黒服達の1人と目が合ってしまった。
「しまった!」
「おいあそこに誰かいるぞ!」
長身の男が駆け出す。
「仲間の死体を置き去りにして逃げるとは罰当たりな。皆は続けろ。私が『処理』する」
長身の男は全身鳥肌だらけだ。第4ホワイト孤児院のあるあたりは広場になっていて、さっき様子を伺っていた時にいた建物しか物がない。姿を消すには遮蔽物も何もない直線を行かなければならなかった。それが男の恐怖を増大させているようだった。
「そんなに走る必要は無かろうに。私が今楽にしてやろう。滑稽ナ包丁」
キセンが包丁を投げる。長身の男が嫌な気配を感じたのか顔だけで振り返る。なんという事であろうか。何本もの包丁が男を襲っているのだ。そして顔を前方に戻す前に、男の額に包丁が刺さる。男は勢いよく地面に崩れる。刺さった包丁は1本だけであった。包丁は男の頭を僅かに貫通していた。
キセンが男の死体に歩み寄り、包丁を男の頭から抜く。そして胸元から出した布で丁寧に包丁を巻いた。
「なんとも背の高い男だ。一度話をしてみたかった」
言い終えるとキセンは孤児院の方へ戻って行った。
「首尾は?」
「極めて順調であります。恐らく、結界の効果で中の者は誰一人気づいて居ないと思われます」
「よろしい。『例の物』を」
「はっ! おい。あれを持ってこい!」
大きな箱を持った男が駆け寄ってくる。
「失礼致します。こちらに用意が」
「よし。仕上げに取り掛かるぞ。やってこい。誰か起きていたら作戦通り殺して構わん」
キセン以外の黒服達が孤児院の前で準備を始める。そして、先頭の男が手を挙げると、全員が孤児院へ入って行った。
一方、シスターナタリーは資料も出しっぱなしで、椅子に座ったまま眠ってしまっていた。結界のせいで外で起きた出来事も全く気づいていないようだ。
黒服達は何かを探すように孤児院の部屋を静かに見て回った。忍び足で子供達が寝ている部屋にも入っていった。子供達は気づかない。黒服達は手際よく孤児院の中を探し回り、見ていない部屋はとうとう残すところ3部屋となった。
「隊長。この扉、固定魔法がかかってます」
「そのようだな。ここにいる場合も考えられるが、その前にあっちとあっちを見てからだ」
「了解」
ある男が図書室に入る。
「へっ。孤児の癖していっちょ前に図書室なんか使いやがって。ここじゃありませんぜ」
「こっちだ! いたぞ! 」
その男のいる部屋に黒服達が一斉に入っていく。その部屋とはアルマが寝ている部屋であった。
「確かにこいつのようだな。よし。やれ」
まず手始めにアルマに催眠魔法がかけられた。それからアルマの腕中に魔法陣を書いた。そして最後に箱にも何個か同じような魔法陣を書いた。
「出来たな?」
「はい」
「行くぞ。トエイト・トイソントパーレイ」
詠唱が終えるといつの間にかアルマの両腕の肘から下が金属の義手になっていた。黒服達は箱を片付け、孤児院を出ていった。シスターナタリーは幸せそうに寝ているところであった。
「キセン様。完了致しました」
「そうか。夜明けまでには戻るぞ」
「はっ」
「夜が明ける頃には、『例の物』は動き出す。そして、かの少年の運命も動き出す」
キセンら黒服達は去って行った。夜明けから逃げるように。
少し気晴らしに外の世界を見てたら分かったことがあるよ。みんな楽しそうに歩いてるんだ。
自由に出歩けたらなって久しぶりに本気で考えちゃったよ。
・六華仙
カジ王国内で国王の次に絶対的権限を持つ6つの家。途中で少し入れ替わるけど、カジ王国999年で1度も消えはしなかった制度だ。純粋に凄いと思うよ。名前の由来は999年前に初代女王がこの東狂の地に来た時に、東狂を華ある国にすると誓った優秀な魔術師からずっと続いてるからなんだってさ。
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