「・・・それで、俺を連れて何処に行こうってんだよ?」
「まずは、ハイハルムハイム、その次はグンツハウゼンにっね」
「そこで、軍閥、鉄兜兵団の親玉たるゲプハルト・フォン・ダウプナー将軍を殺る」
クロトは、何処へ行くのか気になり、シノブとリーヌス達に聞いた。
「ゲップップ?」
「もう、そう言うの要らないからっ!」
「全く、見込み違いだったか・・・」
冗談を言った、クロト。
そんな下らない彼に対して、シノブとリーヌス達は呆れてしまう。
「冗談、ジョーダンッ! マイケル・ジョーダンって、母ちゃんの口癖でな・・・と、そんな事より早く目てっ?」
『ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!』
クロトが懲りずに冗談を言っていると、急に何処かから砲撃音が木霊した。
『ドンッ! ドォンッ! ドカンッ! ドンッ!』
激しい着弾音と砲声が鳴り響き、町の彼方此方に敵の攻撃が降り注ぐ。
「なっ! 何だ、また敵の攻撃かよっ!」
「どうやら、そうらしいわねっ!」
「早く市民を避難させないとっ!」
クロトは、慌てて剣を抜き取る。
シノブも短機関銃へルリーゲルを構え、リーヌスも薙刀クーゼを構える。
そんな三人の所に、緑色の着物姿をした黒髪ロングの女性が現れた。
「報告しますっ! 町の北側に敵の砲撃部隊が展開し、更に西側・東側からも歩兵部隊が進軍中とっ!」
「んっ! 分かったわ、貴女達も直ぐに南に向かってっ!」
「私の隊には、西側へ急ぐように伝えてくれっ!」
着物姿の女性は、頭を下げつつ報告すると、シノブとリーヌス達も彼女に伝令を頼む。
「おいっ! ちょっと待て、東側はどーーすんだよっ?」
「騎士団も居るでしょっ!」
「それに、そっちには別の仲間が居るから大丈夫だっ!」
素早く走り去って行った、着物姿の女性を呼び止めるクロトだったが。
シノブとリーヌス達からは、仲間が居ると言われるだけだった。
「じゃあ、私達は南へ向かうわよっ!」
「他の方角は連中の陽動だろう」
「あっ! お前らもって、チッ!」
そう言って、シノブとリーヌス達も南へと走り出し、クロトも舌打ちしながら走り出した。
『ドンッ! ドンッ! ドンッ!』
『ドドドドドドドドッ!』
町の東側からは、絶えず砲撃と銃撃による業音が聞こえてくる。
「クロト、あんたは東側へ言ってねっ!」
「向こうの方が攻撃は酷いようだからな」
「分かりましたよっ! たく、人使いが荒いぜっ!」
更に走る速度を上げた、シノブとリーヌス達は屋根の上へと、ジャンプしながら去ってゆく。
二人の姿を見ながら愚痴るクロトも、東側へと体を向けると、勢いよくジャンプして行った。
「さて、屋根の上から・・・」
連なった赤い屋根から屋根へと、ジャンプしながらもクロトは東側の様子を探る。
ここから見えるのは、町の外側から敵の姿がボンヤリと確認できるだけだ。
緑色の草原を、複数の魔物と黒い戦車隊が走り、その後ろにはトラック等が見える。
「・・・魔物、黒いウォーワゴン、馬なし馬車《ワゴン》?」
クロトは、呟きながら屋根を疾走していき、一気に町の外側へとやって来た。
それから、屋根から飛び下りると周囲を見渡す。
「撃てっ! 早くしろっ!!」
複数種類の迫撃砲を準備する、聖光騎士団の兵士たち。
彼等は、他に重機関銃や野砲を何時でも射撃できるように準備していた。
「まだ、互いに射程距離にゃあ~~入ってないんだな」
クロトは、走り回る兵士たちを見ながら呟く。
そして、自身が先陣を切ろうと駆け出そうとした、その時。
『ドォーーーーンッ!』
「何っ!?」
クロトの背後から急な爆発音がした。
それが何かと、後ろに振り向いた彼が見たのは黒々とした赤目の大蛇だった。
「しまった、背後に回り込まれたぞっ!?」
「戦車隊は何処に行っちまったんだよっ!」
慌てて、後ろを振り向いた兵士たち。
「なっ! コイツ、背後からの奇襲を狙ってたのかよっ!!」
今のは爆発ではなく、大蛇が地中から飛び出した際に、道路の石畳が吹き飛んだ音だった。
クロトは予期せぬ奇襲で驚いたが、直ぐに背中から大剣ツヴァイヘンダーを抜き取る。
「見た感じ、ビッグ・スネークをアンデッド化させた奴だな? じゃあ行くぜっ!!」
「グギャアアアアーーーー!!」
本来なら薄緑色のビッグ・スネークが、黒く変色している。
それで、クロトは魔皇軍がアンデッド化させたのだと分かった。
大きな口を開いて、クロトを飲み込まんと迫る、ビッグ・スネーク。
しかし、彼は怯まず逆に奴を目掛けて、一直線に駆け出して行った。
「うらっ!」
「グガーーーーーーーー❗️」
クロトは、空中へと高く跳躍《ジャンプ》すると、大剣ツヴァイヘンダーを振り下ろす。
それだけで、頭を真っ二つに叩き割られた、ビッグ・スネークは叫んだまま後ろに倒れた。
『ドォーーーーーー!!』
『シュタッ!』
「へっ! 決まったな」
石畳の上に、ビッグ・スネークの太首が落下すると大きな音を木霊させた。
それを見ながら格好つけて着地した、クロト。
これで、一体目の敵を倒したかに思えたが、直ぐに次の敵が現れた。
魔皇軍の歩兵部隊だ。
「何だ、何だ・・・ビッグ・スネークは殺られたのか?」
「あっ! 人間だ、撃ち殺せっ!」
連中は、ビッグ・スネークの太い首の隙間から、ワラワラと蟻のように這い出して来る。
G88小銃や短機関銃ベルグマンを構えた、スケルトン兵やゾンビ兵が狙いをクロトに定める。
「あぁ? 銃で俺を撃ち殺そうってか、良いぜ? やんなっ!」
『ドドドドドドドドドドドドッ!』
『ドンッ! ドンッ! ドンッ!』
と言った、クロトの前で銃を撃とうとしていた、魔皇軍は両側の建物から撃たれてしまう。
「は? ・・・何で、コイツらは撃たれてんの?」
「それはーー? 私達が来たからよっ!」
『シュタッ!』
クロトの眼前に着地した、女性。
彼女は、小銃のように長い、騎兵拳銃マウザーラージリングKを持っている。
(・・・誰だ? この女は・・・)
人形のような、女性。
彼女の容姿を、クロトは観察する。
アーモンド型の翠色《すいしょく》の瞳。
土のように黒い肌。
黒いストレートロングヘアは、前髪ぱっつんだ。
口は、プリズム・ピンク色の大きな唇が目立つ。
服装は。
上は、中東人の着るトーブようなピンク色の衣装。
下には、白に近い灰色の乗馬ズボンと茶色いブーツを履いている。
「魔物を一撃で倒す強さから察するに、あんたが噂のクロトって、ワケかしら?」
「そうだぜ、あんたは?」
黒肌女性は、騎兵拳銃ラージリングKを前に出す。
そして、上からクリップ式の弾丸を落とすように装填する。
「ニャビルよっ! ニャビル・ワニ・カミス」
「ニャビルな、俺はクロト・プルーセンだっ! で・・・お前もシノブ&リーヌス達の仲間なんだよな?」
『ドォンッ!! パンッ! ドドドドッ! ダダッ!』
ニャビルとクロト達は、互いに名を名乗ったが、そこへ再び戦闘音が聞こえてきた。
二人は倒れた、ビッグ・スネークの向こう側に目を向ける。
そちらからは、銃撃や砲撃を続ける音が聞こえてくるからだ。
「お喋りの続きは、走りながらにしましょっ!」
「分かった、じゃあ、さっさと行こうぜっ!!」
増援に現れた敵を撃滅するべく、ニャビルとクロトは、真剣な顔で走り出した。
「みんなっ! 行くわよっ!」
ニャビルの命令を聞いた、彼女と同じような格好をした、黒人の男女たちも家根の上を走る。
「部下が居るのか? 羨ましいぜ・・・」
(・・・まあーー俺はどちらかと言えば? 単独行動の方が好みなんだけどな・・・)
そう呟きながら、クロトは彼等より先を走って行った。
彼の行くべき、遠く向こう側からは絶え間ない機関銃の音が鳴り響いていた。
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