かなり高い、灰色の城壁に囲まれた、円形の都市ノートリンデン。
ここは今、風すら吹かず、しんと不気味に静まりかえっていた。
何故なら、壁上には多数の兵士と魔法使いが並ぶ。
そして、壁前では多数の冒険者と傭兵が並んでいた。
「良いかっ! ここを守り切るぞっ! 絶対に退くなっ!」
一人の青年。
黒髪・黒目の彼が、二メートル程の禍々しい形状の武器。
大剣ツヴァイヘンダーを両手に構えて叫ぶ。
黒マントの下に、東方の戦士にして暗殺者。
忍者のような黒装束を身に包んだ、彼は冒険者だ。
壁を背後に立つ青年の眼前では、雑多な魔物が群れを成して迫ってきていた。
ここには、世界各地から様々な冒険者《チンピラ》と傭兵《ヤクザ》が集まっている。
それに、対する魔物の群れもだ。
槍を構えた、東洋系の格闘家。
サーベルを両手に握る、中東系の剣士。
大きな弓を構えた、黒人系の弓使い。
長い杖を抱えた、北欧系の魔法使い。
南洋系の棍棒を肩に担ぐ、戦士。
ビッグトード。
ポイズン・キャタピラー。
マウンテン・キャット。
レイジ・クロウ。
キラーウルウ。
見れば、本当に様々な人間と生き物が居る。
「クロト、クロトーー! 東側から魔物の群れが来るぞ~~~~!? ここよりも多いっ!」
東側の防衛部隊から伝令らしき男が来た。
仕方がない、ここは他の冒険者と傭兵達に守って貰おう。
と、クロトと呼ばれた青年は考え。
「分かった、そっちに向かう、皆行くぞっ!」
早く行かねば、都市ノートリンデンに魔物が雪崩れ込む。
(・・・そうなれば此方は負ける? 東側に急ぎ、灰色の壁づたいに走れば・・・居た? 凄い魔物の数だ・・・)
クロトが見た魔物たちは、まるで押し寄せる津波のようだ。
しかし、そんな光景を前にしても彼は一切躊躇せず、仲間達を引き連れて立ち向かう。
「来るぞっ! 弓隊、弩隊、放てっ!!」
壁上の傭兵が叫ぶと、弓兵・弩兵達は矢を発射した。
弓から放たれた矢は、弧を描くように空を跳んでいく。
弩から放たれた矢は、真っ直ぐに下に向かって跳んでいく。
壁上から放たれた、二種類の矢は鋭い刃先で魔物を容赦なく襲う。
(・・・さて? あれで何匹を仕留められるか・・・)
と考える、クロトは前列のリザードマンが今の攻撃で全て死んだのを視認した。
だが、後列に位置する、アンデッド達は。
『ガアアァァァァァァァァッ!!!!』
(・・・五月蝿いな・・・アンデッド共めっ! 咆哮を上げてやがるっ! 奴等は頭に矢でも刺さらない限り動き続けるからな? 非常に厄介な相手だ・・・)
さて、連中が来やがったぜ・・・と考えた、クロトは武器を持ち返る。
乱戦ならば、大剣ツヴァイヘンダーより、他の剣を振るう方が良い。
そう考えた彼は、大太刀オオタチと片手剣カッツバルゲルに持ち変える。
この二刀流で行こう。
そう考えた、クロトの耳に。
「敵が接近するっ! 魔法兵、射撃開始ぃーー!!」
(・・・指揮官の命令か魔法使い達は・・・おっ! 射ったな? 爆炎魔法だ・・・)
『ドーーンッ!!』
と、指揮官の声と砲撃音が聞こえた。
着弾して弾け飛ぶ、魔物の肉片と臓物。
吹き上がる火炎は、それ等を包み込む。
それで、魔物の粗方は吹き飛んだが・・・やはり、まだ敵は残っていた。
「突撃だぁーーーー!」
「うおおぉぉぉ!!」
「うらぁぁぁ~~~~!!」
かき集められた、冒険者と傭兵達が突撃していく。
そろそろ、行く時間だからな、俺もやってやるぜと思う、クロトは走る。
「うぉぉぉぉぉっ!!!!」
「グルルルルッ!?」
早速、グールが来たので、クロトは右手のオオタチで首を跳ねてやった。
次いで、他の敵も・・・。
真っ赤なオオムカデ。
ファット・ゾンビ。
ポイズン・ミイラ。
コイツ等もクロトにとっては、凄く邪魔な雑魚だ。
群れの正面に突っ込んで、躍りながら回転するように両手を振るう。
それで、右手の大太刀オオタチ。
次いで、左手の片手剣カッツバルゲル。
この二つで、敵を次々と切り裂いてやる。
全身から棘が生えている、ニードル・ゾンビ。
身長の高い、ブルー・スケルトン。
筋肉ムキムキのマッスル・グール
コイツ等も、クロトに取っては単なる雑魚に過ぎない。
「うらっ!!」
「退けぇっ!」
俺だけではなく、他の熟練の冒険者《チンピラ》や傭兵《ヤクザ》達の活躍で大分敵が減っていく。
どうやら、これでクロトを含む冒険者隊や傭兵隊は、第一波を凌いだようだ。
(・・・ん? あれは? 第二波だな・・・それにしてもまた凄い数だな・・・)
大群で現れた、多数の魔物。
中には、トロールやロック・ゴーレム等の大型の魔物も居る。
これは本格的に、ヤバイ状況だ。
クロトは良いが、相手が他の人間にはキツい強敵だからだ。
トロールは、巨大な棍棒を振り回すだけで、冒険者を薙ぎ倒すだろう。
ロック・ゴーレムは、大きな足で踏みつけるだけで、簡単に傭兵を潰してしまう。
そんな強敵を相手にしても、クロトは動じない。
「ドラゴンだっ!」
「後方に敵の大群だっ!」
敵に突っ込もうとした、クロトは叫び声を聞いた。
壁上の魔法使い達が、杖を振って対空射撃を行い始めた。
彼等の放つ、雷撃魔法や氷結魔法は空に吸い寄せられるように向かっていく。
壁前では、冒険者と傭兵達が怯む事なく突撃を敢行した。
クロトも続くしかない。
行くぞ、邪魔な魔物共めと思う彼は。
「らああぁぁぁぁ~~~~!!!?」
誰よりも前に出て、魔物を狩り尽くしてやる。
走って、走って、走り回って切り刻む。
それで、魔物は全て殲滅だ。
と、クロトは無茶するが。
そんな彼の前に新手が現れた。
「ケッ! 次はブラッド・ラビットかよ?」
クロトの前に、深紅に染まった毛並みのウサギ型の魔物が立ちはだかる。
悪魔のようなピンク色の瞳より、紅い毛を逆立て、口を開いたブラッド・ラビット。
コイツは、ナイフよりも鋭利な牙、剣より長い爪を、クロトに向ける。
「相手してやんよっ! 掛かってこいやっ!」
ブラッド・ラビットと真っ向から対峙する、クロト。
堂々とした態度の彼に対して、奴は高く飛び上がった。
ブラッド・ラビットは体重を掛けた、鋭い爪による一撃を繰り出す気だ。
(・・・上から来るのか? だったら・・・)
両手で、オオタチを力強く握りしめると、クロトは真上に刃の切っ先を向ける。
「ギィヤーーーー!!」
「よっ?」
『キンッ!』
鋭い長爪、銀色に光る刀身。
この二つが、ぶつかる。
そして、弾かれた大太刀オオタチの刃は、再度上を向き、ブラッド・ラビットの腹を貫いた。
「ふ・・・俺には貴様の攻撃は通用しないぜ?」
攻撃方法を見切り、敵の不意を突いた、クロト。
ブラッド・ラビットに難なく勝利した彼は、次なる獲物を探す。
そうして、彼はキョロキョロと辺りを見渡すが。
(・・・んん? 魔物はどうやら丘の方から来るな・・・あっちを制圧すれば戦いが楽になるな・・・)
俺が突っ込めば問題は解決する。
先ずは、デカ物を含む魔物の第二波から倒す。
それから、丘の上に単騎で突撃だ。
と、クロトは先程と同じく無知を考える。
第二波の魔物の群れの前列。
リザードマンとオークの槍隊だ。
後ろは、ハイオーク。
更に後列に、トロールとロック・ゴーレム。
その他にも、様々な魔物が混じる。
「ガギガガッ!」
その中の一種、リザードマンが槍を構えた。
「殺るなら殺ってやるっ!」
(・・・異世界から転移してきた勇者である母と伝説の賢者である父親っ! その最強夫婦の一人息子《サラブレッド》である俺に敵うと思うな・・・さあ? お前たち? 殺ろうか・・・)
臨戦態勢を取る敵に対して、クロトも気を引き締めた。
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