「クロト、行こう」
「そうするよ」
教会の裏手、右隣の建物との間の路地を通り抜ければ、正面面の広場ほどではないけど広いわ。
この辺りは被害が少なく、通りには活気づいている。
レストラン。
食堂。
雑貨屋。
薬屋。
果物屋。
何処も賑やかだ。
まるで、戦場となった町にはとても見えない。
幸い、町の住民に被害がなかったからだ。
それと、兵隊が客として押し掛けているからだ。
ポリーヌとクロト達は、夜に煌めく通りを並んで歩く。
(・・・それにしても・・・クロトと二人っきりとは? うぅーー凄く緊張してしまう・・・)
だが、ポリーヌは雰囲気の良い景色を楽しむ暇なく緊張していた。
「顔が赤いぞ、大丈夫なのか?」
「そ、そんな事はない、心配しなくていい」
クロトから心配される、ポリーヌ。
(・・・うぅ~~だって赤くなるだろう・・・二人切りで行動しているんだから? しかし似ている? あの暗黒騎士は色白で赤目・・・それに白髪だった・・・)
けど、彼は黒髪黒目で褐色肌。
それでも、顔はそっくりだ。
いったい、何故だろうかって同一人物としか考えられないが。
だったらだったで、嬉しい半面、悲しくもあるな。
同一人物だったら、明日は憲兵に連行だもんな。
何故こんなにも、暗黒騎士とクロトの容姿は似ているのか。
その理由が分からず、ポリーヌは眉間に皺《しわ》を寄せて悩む。
「そうか、それより怪しい奴がどうたら聞いたが?」
「ああ、それは他の隊の兵士の見間違いだったようだ」
怪しい奴、エリックが報告した奴か。
何かと見間違えた奴の話だな。
みんな、敵の夜襲を警戒してピリピリしている。
きっと、誰かの影を暗黒騎士と勘違いしたのだろう。
クロトが気にした不審者を、ポリーヌは見間違いだろうと判断した。
「暗黒騎士は恐ろしい奴等だからな、一人で一個中隊を全滅させる力を持っているからな・・・私の先輩達も・・・」
「も・・・?」
何気なく語り始めた、ポリーヌをクロトはふしぎがる。
(・・・グルシュニク、フレート、ユッテ・・・暗黒騎士や魔皇軍は彼女達の命を・・・でも? 私はそんな奴に恋している・・・)
騎士としての責務を取るか、それとも恋を取るか、悩み苦しむ、ポリーヌ。
(・・・はぁ~~どうすれば良いんだ? 騎士としてっ! 人としてっ! 敵であり仲間の仇に恋するなんてっ! イケナイ事なのに・・・)
心の中で、ポリーヌは溜め息を吐くしかない。
「そんな奴の容疑が掛かっているのか、俺は・・・」
(・・・クロトッ! お前は暗黒騎士じゃないよな? だったら私は・・・んんっ! あらっ? もう来たの? あの二人・・・)
クロトとポリーヌ達に、遠くから冒険者である、シノブとリーヌス達が来るのが見えた。
「そうだ、と言うか来たな? あの二人だ」
ポリーヌには、街灯の光に照らされた、シノブとリーヌス達の体が黄色がかって見える。
「お前達、来たか・・・聞きたい事があるんだけど・・・」
「あら何でしょう、昼間も私達に質問しようとしましたね?」
「何なりと? おや、あの黒い影は・・・」
(・・・クロト、二人に対する質問は何だ? シノブとリッターだったわよね? 何を聞くのかしっ!? 黒い影ですってっ!! ・・・)
クロトの質問は何かと思う、シノブとリーヌス達だが、彼等は黒い影に気がついた。
それが何か、直ぐに視認しようと、ポリーヌは背後に振り向いた。
「暗黒騎士っ? 何故ここにっ!」
「暗黒騎士だとっ!? いかん、三人とも逃げろっ!! くぅ~~私を狙って来たか?」
クロトとポリーヌ達は、奇襲攻撃に対処しようと身構える。
(・・・振り向けばーーやはり暗黒騎士かっ! 来るなら来いっ! 私が相手だっ! 恋する相手とは言え? 三人を襲うならば容赦はしないっ!! それに今出たって事は・・・クロトは暗黒騎士じゃない? ・・・)
それより、奴に集中だ。
奴は、教会の屋根上に立っている。
真上からの落下しながらの刀剣による斬撃を警戒する、ポリーヌ。
『ドンッ!!』
落下の衝撃で、石畳が飛び散る。
飛び下りて強襲してきたか。
そして、私達四人を・・・襲いに。
落下しながらの斬撃を暗黒騎士はしなかった。
だが、どんな手で次に来るのか分からず、ポリーヌは奴から目を離せない。
「下がってくれ、コイツの相手は私がするっ!」
波刃長剣フランベルジュを抜いて、構えれば。
暗黒騎士も、大太刀オオタチを抜いて正面から来るわね。
良いわ、真っ向から勝負よ。
互いに、近接戦闘に備えて対峙する、ポリーヌと暗黒騎士たち。
「誰かぁ~~援護してぇっ!」
「我々も助太刀するっ!」
「俺だって、逃げねぇよっ!!」
三人も構えたわね。
四対一よ、さぁーーどうする、暗黒騎士。
シノブは、忍刀シノビガタナを背中から取り出す。
リッターも、背中の薙刀クーゼを振るった。
クロトも、片手剣カッツバルゲルを構えた。
ポリーヌも、他の三人同様に波刃長剣フランスを構えている。
(・・・しかし奴の狙うのは・・・やっぱり私かっ! 迷う事なく真っ直ぐ来たわねっ! ・・・)
向かって来る、暗黒騎士を迎え討たんとする、ポリーヌ。
「ぐっ! 貴方達・・・有り難う」
(・・・何とか奴の刀を受け止めたわっ! このまま鍔競り合いをしていては何れ私が負ける? 奴の刀を押す力は強い・・・しかし負けるものかぁーー!! ・・・)
波刃長剣フランベルジュを握る両手に力を込めて、真っ直ぐ踏み出す、ポリーヌ。
「ぐぅぅ~~!! だあっ!?」
やったわ、押し返した。
ここで、追撃してやるわ。
勢いに乗り、更なる攻撃を繰り出さんと、ポリーヌは前に出る。
「居たぞ、暗黒騎士だっ!」
「待て、撃つなっ! 味方に当たるっ!」
遠くから兵士の声がする。
射撃による、味方の援護は期待できないわね。
私が射線に重なっているだろうし。
誤射を気にして、味方が下手に行動できない状況では、ポリーヌ達だけで戦う他ない。
「くぉらっ! 喰らいなさいっ!」
「次は我々の番だよっ!」
私の右からは、シノブが。
左からは、リッターが飛び出す。
シノブは、逆手に持つ忍刀シノビガタナを振るい、暗黒騎士の首を狙う。
リーヌスの方は、薙刀クーゼの刃を頭に向かって突き出した。
『カンッ! コロンコロン、コロコロン・・・』
「クッ!!」
転がる、暗黒騎士の兜。
(・・・惜しいっ! 二人の攻撃は直撃しなかったっ! シノブの刀は奴の長刀に受け止められたわっ! ・・・)
平静さを保ちながら、暗黒騎士の防御を観察していた、ポリーヌ。
(・・・だけど? 本命のリーヌスが放った薙刀クーゼの一撃は兜に当たったっ! 奴が間一髪のところで避けたせいで決めの一手には成らなかったけ・・・んっ!? 兜が脱げた? ・・・)
僅かに首を動かしたのか、暗黒騎士に対するリーヌスの突きは失敗した。
しかし、お陰で兜が外れてしまい、中から素顔が露になると、ポリーヌは絶句する。
「チッ!」
(・・・あっ!! 暗黒騎士の顔が露に成った? クロトにソックリだわっ!? まるで兄弟ね・・・暗黒騎士めっ! クロトとは別人だったか? 恐らく彼に罪を擦り付けるために同じ武器を使っていたのかしら? ・・・)
舌打ちする、暗黒騎士を睨み付けるポリーヌ。
彼女は、まるで双子だと言わんばかりの奴とクロトを見比べる。
「兜が脱げたか・・・」
小さな声で呟いた暗黒騎士。
奴は後ろに一度大きくステップして、左足の爪先で兜を蹴り上げた。
「よっ! 暗殺は失敗したか、ならばここは大人しく撤退させて貰う」
右手で兜を持ち上げた奴は、兜を被り直した。
「それでは去らばだ」
(・・・♥️ 素敵だわっ! まるで伝説の怪盗みたいーー❗️ ああ~~私自身を盗ん・・・)
格好をつけて、逃走する暗黒騎士。
その後ろ姿にも惚れる、ポリーヌ。
「逃がすかっ!!」
「ハハッ? そんな攻撃が効くものかっ!」
(・・・まれたら困るわよね? クロトが片手剣カッツバルゲルで攻撃を加える・・・暗黒騎士は、彼の剣激に押され気味だっ! ・・・)
激しい死闘を演じる、クロトと暗黒騎士たちの戦いっぷりを、ポリーヌは真剣な顔で見ている。
「暗黒騎士が逃げたぞっ!」
「未だっ! 射てっ!」
『パンッ!』
『ダダダダダダッ!』
小銃や短機関銃の音が木霊する。
暗黒騎士は飛び去って逃げたわ。
追わなきゃ、いや、ここは魔導連発小銃マジック・ルベルで。
ダメね、もう教会の正面の方に逃げたわ、あれじゃ追い付けないわ。
アレだけの射撃を交わして逃げ切るとは・・・やはり、奴は只者じゃないわね。
暗黒騎士は逃げ去った、それで緊張が溶けたポリーヌは全身の力を抜く。
「居たぞーー!!」
アレは、イーサンの声だわ。
向こうでも撃っているのね。
逃げた、暗黒騎士を味方が追っているらしく、沢山の兵士たちの声が聞こえる。
「逃げられたか、奴の狙いはあんたのようだな?」
「ええ、そう見たいね? 地下で出会った時から因縁をつけられた見たいね・・・」
クロトの予想通り、暗黒騎士の狙いは自分であったと、ポリーヌも考えた。
(・・・あの時の復讐で私を狙っていたのね? いや? もしかしたら・・・奴は・・・奴が私を狙っていたのは・・・私を♥ てぇっ!! 私は何を考えているのよっ!! ・・・)
等と、また真面目な考察から、一人妄想を始める、ポリーヌ。
「なぁ? また顔を赤くして、大丈夫か?」
「はっ? あ、い、だっ大丈夫だわ、そう・・・大丈夫」
いけない、それよりクロトは暗黒騎士ではなかった。
良かった、これで明日は憲兵が来ても無事だわ。
良かった・・・本当に良かった。
取り敢えず、クロトが連行される事がなくなったので、ホッと安心するポリーヌ。
「これで、貴方は暗黒騎士の容疑が晴れたわ・・・明日は皆に説明するし、憲兵にも事情を説明するわ」
「分かった、これで晴れて自由の身だな」
自由の身・・・これで彼とも、お別れね。
暗黒騎士とも、クロトとも、二度と会えなくなるわ。
寂しいわね、けど仕方のない事だわ。
自由の身だと宣言するポリーヌと、ようやく解放されるのかと言う表情のクロト。
(・・・終わった・・・全てがね・・・)
終わったのは、戦闘だけではない。
ポリーヌが、クロトを監視名目で自らの元に置く必要もなくなった。
よって、二人の関係も終わりだ。
(・・・明日のクロトの身は自由・・・そして私は・・・・・・)
今日で、お別れかとポリーヌは、クロトを解放すれば寂しくなると思う。
「話はまた明日だ、明日にしよう」
「分かったわ、私達も疲れたし」
「それで良いぞ」
クロトは、シノブとリーヌス達に話し掛けた。
(・・・クロト・・・どうやら? シノブとリーヌスに話があるようね? 何の話かしら? まあ~~それは彼等だけの話ね? 彼等だけの・・・)
ポリーヌは、三人の様子を見ていた。
だが、この後も彼女は今の戦闘を聴取されたり、残った仕事を終わらせねば成らない。
なので、あまり三人の関係を気にしなかった。
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