「はっ? いや、そう言う積もりじゃ・・・」
「えっ! 違うのですか?」
クロトは、別に愛人を求めたワケではない。
物音を察知して近づいたら、ドアが開いて女性騎士が転がってきただけだ。
それを、勘違いしている隊長リッチは間抜けな声を出す。
「まあ? 聖光騎士団の騎士ともなれば相当な実力者に御座いましょう・・・どうです、ここは彼女をアンデッド化して見ると言うのは?」
「・・・アンデッド化ね~~?」
(・・・なるほどっ! あの女騎士を俺の下僕に変えれば民間人の護衛に使えるか? ・・・)
隊長リッチの進言を受けて、チラリと女性騎士の焼死体に目を向ける、クロト。
死んだ彼女を、部下や愛人にしようと言う考えは無い彼だが、今の話を聞いて考えが変わった。
彼女を配下にすれば、自分は敵を殲滅するのに専念できる。
民間人の方は、彼女に任せてしまえば盾として頑張ってくれるだろう。
(・・・アンデッドの血族化や洗脳魔法を使うのは本来なら赦されん行為だっ!! しかし町の人々を助けるためだ・・・それに新しい生を与えてやるんだっ!! だから眠り姫さんも赦してくれよ・・・)
クロトは焼死体に近寄ると、屈んで右手を前に出す。
(・・・と言うか? アンデッド化ってのは何をどうやるんだ? ええいっ! 一か八かだっ!? ・・・)
人間を、アンデッド化させる魔術や手段を知らない、クロト。
禁断の術を知らぬ彼の手は、女性騎士の顔に近付けられる。
そして、クロトが掌に力を込めて念じると、いきなり紫色に手が光だした。
「おっ? 変化するのかっ!」
「・・・ん? あ、ああ?」
焼死体が、紫先色に発光しだす。
それから、クロトの鎧から離れた、ダークスライムも女性騎士の体を覆う。
やがて、頭をスッポリと真っ黒い塊に覆われた彼女は起き上がった。
ツルンとした、のっぺらぼう顔も直ぐに兜を被った騎士の姿に変化している。
それも、女暗黒騎士の姿にだ。
のっぺらぼう顔が変化し出すと、彼女は辺りを見回す。
(・・・ここはどこ? 私は誰・・・あっ! クロト? いや貴方は暗黒騎士っ! と言うか何で貴方がここに居るワケ? ・・・)
山羊や野牛を思わせる、後ろ向きに尖った角。
バイザー部分の先に突き出た、嘴《クチバシ》。
ガーゴイル型のクローズド・バーゴネットを象《かたど》った、兜を被る女暗黒騎士。
口許は開かれており、真っ白い肌と空色のぷっくりとした犬歯の生えた唇が目立つ。
鎧の方は、聖光騎士団の頃と余り変わらない、変化した部分もある。
何の装飾もなかった鎧には、月白《げっぱく》色の模様が肩や脛に縁取られた。
こうして、生まれ変わった彼女は、まだ頭が働かないのか、未だにボンヤリとしていた。
かのように、周囲の者たちから見えたが実際には彼女は混乱しているのだった。
「アレ? さっき私は死んだはずじゃあ~~」
「その声は、ポリーヌかっ!」
女暗黒騎士と化した、ポリーヌが喋りだす。
彼女の声を聞いた、クロトは驚く。
まさか、自分が助けた相手が彼女だとは分からなかったからだ。
(・・・えっ! 暗黒騎士じゃなくて貴方はクロトなのっ! ・・・)
(・・・まさか? 俺がアンデッド化させちまったのはポリーヌなのかよっ! ・・・)
互いに、相手が知っている人物だったとは思わなかった、ポリーヌ&クロト達。
「おいっ! そこの出来たて、ホヤホヤなアンデッドの女騎士っ!! たった今、貴様は暗黒騎士さまの下僕に成ったのだ? さあ、早く頭《こうべ》を垂れよっ!」
「はっ! クロトが暗黒騎士・・・・・・え?」
隊長リッチが怒鳴ると、ポリーヌは混乱する。
目の前に立つ白髪の男は、潜入のために暗黒騎士の姿に変装した、クロト本人なのか。
それとも、クロトの正体が暗黒騎士であり、やはり自分を執拗に狙ってたのか。
いったい、この人物はどちらなのか判別がつかず、彼女は困惑するばかりだ。
『ーー聞こえるか? ここは、一先ず俺の言う事を聞いてくれ・・・』
(・・・これはっ! 念話? ・・・)
クロトは、直接ポリーヌの頭の中へと話しかけた。
この方が、他のアンデッド兵達に話を聞かれず、内緒話にはもってこいだからだ。
『・・・いいか? 俺の正体が暗黒騎士ーーなのは間違いない? だが、そんな事より今はーー!?』
「クロトッ! いえ、暗黒騎士さまっ!!」
クロトが、念話で民間人を助けろと言おうとした。
だが、急にポリーヌは彼の体に、ガバッと抱きついた。
「はぁっ!? 何の真似だ、ポリーヌ?」
「・・・ずっと、私を狙ってたのね? 私の事が好きだったから♥️」
クロトは体を密着させて、頬をスリスリさせるポリーヌの行動に困惑する。
当のクロトは知らないが、ポリーヌは出会った時から一目惚れしていた。
それからと言うのも、彼女はクロト&暗黒騎士のどちらともに恋の病を患っていた。
多少荒くれっぽいが真面目そうな男クロト、キザで優男風の暗黒騎士。
そのどちらも、同一人物であり、しかも向こうから求められた。
「私は貴方の下僕、いえ妻に・・・」
「ポッ! ポリーヌ、今はそれよりーー!?」
『早く、コイツらを片付けてないとっ! そして、民間人を助けないとっ!! な? 頼むよっ!!』
もう、二人だけの世界に浸る、ポリーヌ。
クロトは彼女の好意を前に、慌てて民間人の救出と護衛を頼んだ。
今は、恋だの愛を語っている時ではない。
一刻も早く、捕虜として拘束された民間人を助けねば成らない。
「分かったわ・・・と言うか? 念話って、どうやるの?」
『・・・頭の中で強く念じるんだ』
小さな声で返事する、ポリーヌ。
念話の仕方を知らぬ彼女に、やり方をクロトは教える。
『こうかしら?』
『おおっ! ポリーヌ、聞こえるぞ』
ポリーヌの念話は成功し、クロトの脳内に彼女の声が届く。
「あの~~? お二人は知り合いで?」
二人の様子を見ていた、隊長リッチはクロトにアンデッド化した、ポリーヌの事を聞く。
「・・・んあ? まあーーな、だが今は彼女も暗黒騎士と化したがな」
「そうなのっ! もう私は彼の奴隷よっ!」
「なるほど~~やはり前々から彼女を知っていたと」
クロトは、上手く誤魔化すべく適当に話を合わせようとする。
ポリーヌも口裏を合わせ、彼の吐いた嘘に加担した。
隊長リッチは、二人の言葉をスッカリ信じた。
「聖光騎士団の女騎士を堕とすとは、流石ですな・・・では、次は住人を奴隷にするとしましょうか」
「ひっ!」
「あわわ・・・」
隊長リッチは、捕虜である民間人たちに目を向ける。
当の捕虜にされた民間人たちは、銃を向けらているので、何もできず無抵抗のままだ。
「まあな? それじゃあ~~サクッと殺りますかいっ!」
「ええっ! 全員纏めて殺してやりましょうっ!!」
いよいよ、クロトは民間人に手をだす。
振りをして、大太刀オオタチを一気に鞘から引き抜く。
ポリーヌも、両手をホルスターに突っ込むと、拳銃ルビーを素早く引き抜いた。
『ポリーヌ、殺れっ! 連中を一網打尽にするぞっ!』
『分かってるわ、クロトッ! 連中を一掃してやるわよっ!』
念話で話す、クロトとポリーヌ達。
『ズシャッ!! スパッ!! ザシュッ!!』
『ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッ!』
まず先に、クロトは隊長リッチの首を跳ねる。
次いで、周囲のゾンビ兵達を斬り捨てつつ走り回る。
二丁拳銃で、ポリーヌは捕虜の周りに立っていた、アンデッド兵達を撃ち殺す。
拳銃ルビーから次々と発射される銃弾は、魔皇軍兵士たちの軍服を容易く貫いた。
「なっ! なぜ、我らを・・・ぐわっ!?」
「うわあっ! 撃ち返・・・せ? ぐっ!」
首だけと成った、隊長リッチはクロトの右足で頭蓋骨を砕かれる。
不意を突かれた、ワーウルフ兵もポリーヌの銃弾を眉間に浴びて倒れた。
「ふぅ~~? 終わったな」
「見たいねーー」
その場に居た、魔皇軍部隊の兵士たちは全員が物言わぬ骸と化した。
ただの死体として、もう二度とは起き上がらないだろう。
クロトとポリーヌ達は、倒れた兵士たちの遺骸を見て、そう思うのだった。
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