「クロト、行こう」
「そうするよ」
教会の裏手、それは右隣の建物との間を通れば行ける。
ここも広場ほどではないが、それなりに広いな。
町の西側と違い、こっちは被害が少なかったようだ。
レストランや雑貨屋が、夜遅いのにまだ営業している。
ポリーヌの後を歩く、クロト。
(・・・客は兵隊が多い? 連中は金を落として行ってくれるからな・・・ん? ポリーヌの顔が赤い・・・どうしたっ! 風かっ! 連日の激務で体を壊したかっ! 熱でも有るんじゃないか? ・・・)
兵隊連中からポリーヌに視線を移した、クロトは彼女の顔が赤いことを気にする。
「顔が赤いぞ、大丈夫なのか?」
「そ、そんな事はない、心配しなくていい」
今日は激戦だったから疲れたのか、顔も赤いだけでなく、キラキラと光っている。
汗だろうか、相当疲れているんだな。
今夜は、もう休めっての・・・ポリーヌ、体は大事にしなきゃな。
クロトは、ポリーヌを心配したが彼女は気丈に振る舞う。
「そうか、それより怪しい奴がどうたら聞いたが?」
「ああ、それは他の隊の兵士の見間違いだったようだ」
エリックはきちんと報告したらしいな。
何人かの怪しい奴を見たと、ザワザワ騒いだ兵士達。
あれは、魔皇軍の連中が化けた潜入工作部隊だ。
連中のお陰で事が楽に進んだな、感謝だぜ。
クロトが、ポリーヌに質問すると、思惑通りに事が運んだので、声には出さずに喜んだ。
「暗黒騎士は恐ろしい奴等だからな、一人で一個中隊を全滅させる力を持っているからな・・・私の先輩達も・・・」
「も・・・?」
これは過去に何らかの出来事があったな。
聞かないでおこう、言いたくはない事だろうし。
しょんぼりした、ポリーヌの横顔を見て、クロトはそっとする事にした。
余計な詮索は、出来るだけしない方が良いと言うワケだ。
「そんな奴の容疑が掛かっているのか、俺は・・・」
「そうだ、と言うか来たな? あの二人だ」
ん、本当か、ポリーヌ。
あ、二人が来たな。
いつの間にか、後ろから歩いて来ていたぜ。
クロトとポリーヌ達は、並んで向かって来る、シノブとリーヌス達を見つける。
「お前達、来たか・・・聞きたい事があるんだけど・・・」
「あら何でしょう、昼間も私達に質問しようとしましたね?」
「何なりと? おや、あの黒い影は・・・」
よし、シノブとリッターの芝居は完璧だ。
後は俺も振り向いて。
クロトの質問に平然と答え、上手く演技するシノブとリーヌス達。
「暗黒騎士っ? 何故ここにっ!」
「暗黒騎士だとっ!? いかん、三人とも逃げろっ!! くぅ~~私を狙って来たか?」
よし、ポリーヌも確りと奴を見ているな、計画は順調だ。
鎧は魔皇軍の兵士に着せたし、刀は三本ともダークスライムに、コピーさせた。
俺の監視役である、エリックを引き剥がしたのも、この為だ。
さて、奴は教会の屋根から何をする気だ。
見事な演技をしながら、クロトはポリーヌと一緒に暗黒騎士《ソックリさん》の出方を待つ。
『ドンッ!!』
(・・・石畳が吹き飛んだっ! 飛び下りたか・・・それから俺達を殺りに来るっ!! 手はずだ・・・)
次の行動を予測し、咄嗟に鞘に納めた長刀オオタチの柄を握りしめて身構える、クロト。
「下がってくれ、コイツの相手は私がするっ!」
ポリーヌは、波刃長剣フランベルジュを抜いたか。
そして、奴も長刀オオタチを抜いて真っ向から来た。
「誰かぁ~~援護してぇっ!」
「我々も助太刀するっ!」
「俺だって、逃げねぇよっ!!」
シノブは、忍刀シノビガタナを背中から取り出す。
リッターも、背中の薙刀クーゼを振るって、刃の切っ先を暗黒騎士《ニセモノ》に向ける。
俺も、片手半剣カッツバルゲルを引き抜いて構えた。
奴は、真っ直ぐポリーヌを狙う。
「ぐっ! 貴方達・・・有り難う」
よし、ポリーヌは長刀オオタチの攻撃を受け止めたか。
良いぞ、偽物・・・そのまま彼女を押し倒せ。
それから、俺達が前に出る。
お前はそれで、形勢不利を悟って、さっさとズラかれ。
と、考える、クロトだったが。
「ぐぅぅ~~~~!! だあっ!?」
(・・・あっ! まさかの押し返しだとっ! ポリーヌ・・・流石は隊長を張るだけはあるな・・・)
鍔是り合っていた、暗黒騎士《にせもん》とポリーヌ達の戦いに感嘆する、クロト。
「居たぞ、暗黒騎士だっ!」
「待て、射つなっ! 味方に当たるっ!」
兵士達が気づいたか、射撃は無理だろう。
下手に援護したら、俺達に当たるもんな。
聖光騎士団の兵士達も、味方を前に誤射を警戒して手は出せない。
「くぉらっ! 喰らいなさいっ!」
「次は我々の番だよっ!」
ポリーヌの左右から、二人が攻撃に出たか。
右からは、シノブが。
左からは、リーヌスが。
シノブは、逆手に持つ忍刀シノビガタナを振るう。
暗黒騎士の首を狙った斬撃だ。
リーヌスの方は、薙刀クーゼの刃を頭に向かって突き出す。
『カンッ! コロンコロン、コロコロン・・・』
「クッ・・・」
当然だが、二人の攻撃は直撃しない。
シノブの刀は、奴の刀に受け止められ、リーヌスの薙刀クーゼは兜に当たる。
予めに決めた予定通りだぜ、これで兜が脱げた。
計画通りに進む芝居に、クロトは良しと思った。
「チッ!」
ふぅ・・・暗黒騎士の顔が見えた、俺と同じ顔。
変装だけど、ポリーヌにはバレないだろうな。
これで、俺と暗黒騎士《やつ》は別人だと認識するだろう。
舌打ちした、暗黒騎士《みがわり》を睨む、クロト。
「兜が脱げたか・・・」
そんな物はどうでもいい、大きくステップした。
左足の爪先で兜を蹴り上げたか、それ拾ったら、さっさと逃げろよ。
暗黒騎士《まがいもの》の呟きに、ツッコミを入れる、クロト。
「よっ! 暗殺は失敗したか、ならばここは大人しく撤退させて貰う」
右手で、兜を持ち上げた奴は、頭に被り直した。
芝居がかった優美な動きで、兜を華麗に被る、暗黒騎士《かえだま》。
「それでは去らばだ」
格好付けてねえで、さっさと消え失せろ。
周りを兵隊に囲まれちまうぞ。
そうなったら、偽物《ニセモノ》だとバレちまうだろが。
暗黒騎士《べつじん》の予期せぬ芝居に内心焦る、クロト。
(・・・頼むから早くしてくれっ! 頼むからよ・・・)
「逃がすかっ!!」
「ハハッ? そんな攻撃が効くものかっ!」
俺の片手剣カッツバルゲルを避けてる暇があったら、そのまま逃げろ、アホか・・・。
焦りながらも、クロトは剣を振るって、暗黒騎士《なかみがちがう》に立ち向かう。
「暗黒騎士が逃げたぞっ!」
「未だっ! 撃てっ!」
『パンッ!』
『ダダダダダダッ!』
アチコチから銃が発射されたな、だが暗黒騎士は飛び去ったと。
奴は、足が早いからな。
屋根上を走る奴の追撃は困難、それどころか無理だろう。
教会の正面に行ったなーー。
追い付ける奴は、流石に騎士団には居ないよな。
いや、居ないだろう。
これにて、終わりだと安心するクロト。
「居たぞーー!!」
イーサンの声だ。
正面の連中が仕留めようと、四方八方から銃を撃っているな。
大きな声に反応する、クロト。
「逃げられたか、奴の狙いはあんたのようだな?」
「ええ、そう見たいね? 地下で出会った時から因縁をつけられた見たいね・・・」
リーヌス、そうだ、奴の狙いがポリーヌの暗殺だったと誘導してくれ。
因縁をつけられた・・・か、確かにな。
まあ、つけられたのは俺の方だがな。
出会った時から、いきなり攻撃だもんな。
そして、今に至るまで、ずっと後を追われているもんな。
それも、別人だと嘘を信じて貰って終わった所だがな。
全てが終わった、クロトは肩の力を抜いた。
「なぁ? また顔を赤くして、大丈夫か?」
「はっ? あ、い、だっ! 大丈夫だわ、そう・・・大丈夫」
顔が赤い、と言うか真っ赤っかだ・・・凄く辛そうだ。
クロトは、やはりポリーヌの顔は紅いが体調は大丈夫なのかと気になる。
(・・・マジもんの命の取り合いを演じた所だもんな? あの暗黒騎士《フェイク》の正体は魔皇軍の兵士・・・つまり暗黒騎士《ものほん》ほどの技量ではない・・・)
たった今、終わりを告げた戦闘は芝居とは言え、激しい戦いだった。
(・・・とは言え奴も中々の腕前だったっ! それを真剣に相手したんだ? よほど疲れたんだろう・・・ 今日はもう休め? ポリーヌ・・・)
戦闘に集中して、疲弊したのであろう、ポリーヌを気遣うクロト。
「これで、貴方は暗黒騎士の容疑が晴れたわ・・・明日は皆に説明するし、憲兵にも事情を説明するわ」
「分かった、これで晴れて自由の身だな」
自由の身、ようやく暗黒騎士の容疑が晴れたか。
やっと解放されると分かり、安堵する、クロト。
(・・・これで自由だ・・・やっと疑いが晴れたぜ・・・)
明日からは自由の身だ。
ーーと言いたいが、二人に魔皇軍の事を聞かなければ。
明日からも色々面倒だな、あ~~今日はもう寝よう、ベッドまで早く行こ。
今夜の芝居で疲れきってしまった、クロト。
「話はまた明日だ、明日にしよう」
「分かったわ、私達も疲れたし」
「それで良いぞ」
シノブ、リーヌス、お前らにも詳しい話を聞くぞ、それは明日だけどな。
そう、もう今晩は情報を整理しながら話す時刻ではない。
だから、クロトと二人の話し合いは明日の朝と成った。
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