クロトが女騎士達と出会うまで、時間が遡る事、少し前。
「もう少しだな・・・」
遠くの小高い丘に見える細長い巨岩は、地面に突き刺さった刃の様だ。
この所々に沼の存在する草原を抜けて、あの巨岩の右側を抜ければ目的地だ。
私はふと、空を鏡のように写す沼の水面を見る。
煌めく水面の中に姿を見せる、白鼠色の機械馬。アイアン・ホースに跨がった美女。
輝くような、少し灰がかった毛先のカールした金色のストレートヘア。
深く蒼い瞳。
日に焼けた、ピンク肌の細い顔。
白鼠色の鎧を着た、エリート女性騎士。
(・・・これが今の私ポリーヌ・ル・リッシュだ・・・)
背中には、魔導連発小銃マジック・ルベル。
腰のベルトには、二つの弾帯。
ホルスターには、拳銃ルビーを二丁。
左側の鞘には、波刃長剣フランベルジュを帯刀する。
要は、私は完全武装をしているのだ。
因みに。
波刃長剣フランベルジュ。
魔導連発小銃マジック・ルベル。
これ等は、意外と軽くて頑丈な特殊金属を使用しているので、見た目ほど重くない。
しかし、訓練されていない一般人が装備すると、やはり重いだろう。
等と、ポリーヌは馬上で思案する。
「パトリス、あの岩山・・・と、言うか巨岩を越えた先が我々の目指す都市だ」
ポリーヌは後ろに振り向き、後ろの副官である、パトリスの方を見た。
ベージュ・ブロンド色のミディアムストレートヘア。
瑠璃色の瞳。
長い睫毛。
彼女は、冷利な印象を与える美人だ。
頭には、白鼠色のケピ帽を被る。
私と同じデザインの鎧の上から紫色のストラを垂らす。
背中には、灰色のゼンマイ型の司教杖バクルスを背負う。
そして、彼女も同じく、アイアン・ホースに跨がっている。
「ポリーヌ隊長、次の目的地、グリットガルトはどんな所なんですか?」
「何でも、昔・・・英雄が一人で魔物に立ち向かって、魔物の群れ諸とも隕石の下敷きになって果てたそうだ・・・その落下後地に出来た町がグリットガルトなんだ」
パトリスは、次の町が気になるのか質問する。
それに、ポリーヌは直ぐ答えた。
この辺りと言うか、この地域は割りと隕石の落下が多かった。
その為、数多くのクレーターが存在している。
後の時代にて、クレーターの上には町や砦が作られた。
今、彼女達が目指すグリットガルトもその一つだ。
「神の礫《つぶて》・・・通称、燃え盛る星降りの日・・・その日、この世界は焼け焦げたと記録には有ります?」
「正確には甚大な被害を被りながらも、幾つかの国や地域が無事だったために復興を成し遂げ、今の世界がある訳だが・・・」
知的な雰囲気の若い男性と大柄な褐色肌の男性が話す。
二人も、機械馬《アイアン・ホース》に跨がっている。
知的な雰囲気の男性は、エリックと言う。
彼は当時の災厄の記録を語る。
彼の容姿は。
艶のある茶髪の髪。
深い茶色の瞳に眼鏡を掛ける。
装備は。
白灰色の中鎧を着ていた。
背中には。
出縁型棍フランジメイス。
自動小銃ヒュオットを背負う。
腰には短剣ラウンデルダガーを下げていた。
大柄な男性である、イーサンも過去の時代を話す。
背の高い彼。
長くて黒い癖毛の髪。
水色の瞳。
褐色肌。
他の三人より体格が良い彼は、白灰色の大型鎧を着込む。
背中には。
大型軽機関銃ルイスガン。
戦斧バトルアックスを背負っていた。
彼等も、ポリーヌの信頼できる部下達だ。
三人を頼もしく思う、彼女はアイアンホースの走る速度を上げるのだった。
今から役千年前、世界が焼き尽くされた後、現れたアンデッドの軍団。
魔皇軍。
連中は、復興途上の人類を襲い、平和への道を脅かした。
その為、当時の教皇陛下からの直々の命により、各国の精鋭が集められた。
(・・・それが今の我ら聖光騎士団だ・・・)
我々の聖なる任務は街道の警備。
凶暴化した魔物の討伐。
凶悪な犯罪者の取り締まり。
迷宮《ダンジョン》と呼ばれる魔物の巣穴の破壊・及び探索。
と多岐に渡る。
今回の任務も簡単だ。
付近に蟻の巣の如く出来た迷宮の探索だ。
次の町、グリットガルトで別動隊と合流してから、我々は迷宮に潜る。
町に、被害が拡がる前に魔物は殲滅する。
(・・・それだけだ・・・)
ポリーヌは、一人任務に意気込む。
(・・・色々考えていたら丘の上まで来しまっていた? 右側の巨岩を見上げれば・・・まるで剣のように天を向く災厄の爪痕・・・)
丘上に聳え立つ、真っ黒い巨岩。
まるで巨人の持つ、剣や槍に見える、それを見たポリーヌは感嘆する。
これが、降り落ちる中、黒き英雄はただ一人魔物の大群に立ち向かい果てた。
異世界の星、地球から来た勇者、カタセ・マコト。
伝説の賢者、クルト・プロイス
この二人は、魔王を倒して平和を勝ち得た。
黒き英雄は、二人の子供であるクロト・プロイスだ。
当時の彼には、様々な説がある。
龍王、ダークネス・エンペラー・ドラゴンを倒すと同時に隕石に潰された。
一早く隕石の接近に気づいた彼は、ノートリンデンを守る為に魔物を隕石に誘導した。
全ての魔物を葬ろうと無茶をして、隕石すら斬ろうと一人空に飛び上がった。
多分、幾つかの説は後世の創作だろう。
彼が人々を守るために戦ったのは確かだ。
そして、千年前の英雄はもういない。
(・・・だけど・・・叶うものなら、会って見たいな? 黒き英雄に・・・)
ふと、ポリーヌが見上げた空は青く澄んでいる。
綺麗な空を見ながら、彼女が前方を見れば、グリットガルトが近くなっていた。
そこまでは後、五十キロの距離だ。
別動隊と合流するのは、もう少し。
ここから離れた位置にある、ノートリンデンを参考に作られた、グリットガルト。
クレーター後地に作られた要塞都市と、昔は呼ばれた。
平和な今の時代、グリットガルトはこの地域の交易の中心地だ。
赤やオレンジ色の建物の屋根がここからでも見える。
中でも聖光騎士団の所有する教会城の尖塔や、グリットガルト城の城郭は目立つ。
そうポリーヌが考えている内に、グリットガルトの入り口の側まで付いた。
クレーターの上に作られた城門。
巨大な茶黒い鉄板と両側を鎖で繋いだ跳ね橋。
それ等が、ポリーヌ達を出迎えた。
町の入口上部。
そこには、白鼠色の軍服を着た、アドリアン・ヘルメットを被る兵士が立つが。
特に、どうと言う事はない。
交易地である、この町の門は旅人や行商人が自由に通れるように常に開いてあるのだ。
門を潜り、町を走れば、四階・五階建ての建物が目立つ。
メインストリートを抜けるまでは、オレンジ色の屋根が続いていた。
やがて、ポリーヌ達はメインストリートを左に曲がる。
その先にある、大きな建物に向かうからだ。
町の端の一角に立てられた教会城。
その手前まで私達は来た。
教会城の周りである、ここはかなり広く石畳があった。
周囲の建物とは、離れているからだ。
「立派な建物だ・・・」
「本当よね・・・」
「だな・・・それもそうだが、脇を見ろ」
感嘆する、イーサンとパトリス達と、彼等を注意する、ポリーヌ。
教会城は、赤色の三角屋根。
茶色い壁。
正門の屋根上に立つ鐘楼塔。
屋根の四隅に備えられた尖塔。
堂々とした教会城の佇まいを見ている彼等だが。
左側に整列する部隊も見て欲しいと、ポリーヌは思う。
計五台のアイアン・ホースが整列している。
指揮官だろうか。
此方に、真ん中の機アイアン・ホースが向かって来る。
「第二十七分隊の指揮官、ルキヤン・バシャノフ伍長です、そちらの指揮下の元、道中までの案内を致します」
「第二十四分隊の指揮官、ポリーヌ・ル・リッシュ少尉だ、早速で悪いが頼むぞ」
ルキヤンと名乗った男性聖騎士。
金色の髪。
壁色の瞳。
若くて堀の深い顔だ。
彼は、我々同様の白灰色の鎧を着ている。
そして、その上に高地に住む少数民族の衣装ガズィリと言われるコートを羽織る。
色は勿論、鎧と同じ白鼠色だ。
竜騎兵刀ドラグーン・シャシュカと短剣キンジャールを腰に下げ。
ホルスターには、回転式拳銃S&Wモデル3オールド・ラシアンを装備し。
背中には、底碪式銃《ていがいしきじゅう》ウィンチェスター・リピーティングM1895を背負う。
(・・・さて? 案内して貰おうか・・・迷宮の入り口へとな・・・)
ポリーヌは自身の前へと、ルキヤンのアイアン・ホースを進ませた。
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