『ザッザッ』
ポリーヌを含む、九人の聖騎士隊。
彼女等は、ルキヤンが後を追って、機械馬アイアン・ホースを走らせ街道を進む。
街道の左右には、広大な草原が続く。
風に揺られた草の葉がうねるのが見える。
(・・・涼しい風だわ・・・)
ポリーヌは頬を擦る風を受けて思った。
呑気な旅路に見えるが、今彼女達が向かうのは危険な場所だ。
目的地は、グリットガルト・ノートリンデンを結ぶ街道の中間地点に出来た穴だ。
魔物の巣穴か、もしくはアンデッドの拠点の可能性がある。
昆虫や魔獣は穴を掘り、そこに居を構える習性の者が存在する。
アンデッドの方は、地下に居を構えて盗賊のように旅人を襲う事がある。
前者は、大規模な地下道を構築する。
後者は、地下神殿を作って待ち構える訳だ。
中には、罠を張り巡らせて、我々や冒険者を餌食にしようとする者も居る。
だから、巣穴や迷宮内では不意打ちに注意せねば成るまい。
(・・・そう・・・それから決して気は抜かないわよ・・・)
そうポリーヌが気を張っている内に、草原の遥か向こう側に緑色の山が見えてきた。
横に長く延びた山は、元は丘だったらしい。
しかし、千年の間に色々あって山が形成されたとか。
四つの山頂の間には、三つの山道がある。
だが、誰も通常は山道を通らない。
何故ならば、魔物が出るからだ。
「あの山です、冒険者からの報告によると、洞窟からアンデッドが這い出てきたようです」
「分かった、このまま山中までの案内を頼む・・・」
ルキヤンの報告を聞いて、ポリーヌは前方の山を睨む。
傍らから見れば、あの山は田舎の平凡の風景に見える。
だが、あそこには旧魔王軍の秘密基地でも有るのだろう。
そこから、魔物やアンデッドが出てきているのに違いない。
と、ポリーヌは警戒心を解かない。
因みに・・・。
隕石落下後に、新成された魔皇軍が暴れ回った。
今も、今も彼等は人を襲う。
だからこそ、我等が聖光騎士団は結成された。
後者のアンデッド達だが、その中でも彼等は厄介極まりない。
通常のアンデッドより、知能の高いアンデッド兵。
それより更に上位種である吸血鬼やリッチ等の強敵。
それ等で、構成された魔皇軍は遥かに強かった。
組織的に動く、アンデッドの軍団。
連中の牙に粘りつく、ウイルス。
それに犯されてしまったら通常の馬もアンデッド化されてしたう。
そうならぬ様に、機械で出来た馬、アイアン・ホースも製作された。
(・・・て言うか? 今回の魔物の出没も彼等の隠れ家から出てきたでなければ良いけど・・・)
と、ポリーヌは思案していた。
「坂道か・・・」
ポリーヌの隊は、松の木に囲まれた坂道を登る。
登り始めて直ぐに、黄土色の坂道は右手に続いているのが見えた。
徐々に曲がると同時に急に成る坂道。
左上を見上げれば坂道が続いている。
その上は、更なる坂道が続く。
ここからは、山をジクザグに登らなければ成らないようだ。
(・・・面倒だわ・・・)
と、ポリーヌが思っている内に坂道が終わり、山の中腹に来た。
どうやら、ここは山間部のようだ。
向こう側は、下に向かう坂道だろう。
左右の山肌を見れば、左手に洞窟が一個存在する。
やはり、魔物の巣穴のようだ。
そう思う、ポリーヌ達は機械馬アイアン・ホースを巣穴の手前で止める。
「アレが報告にあった巣穴です」
「よし、ルキヤンの隊は周囲を警戒しろ、我々五人は内部に突入する・・・パトリス、エリック、先導しろっ! イーサンは後方を警戒だ」
ルキヤンが言うと、ポリーヌは命令を下して馬から降りた。
「了解《ラジャー》」
「了解《ラジャー》」
「了解《ラジャー》」
「了解《ラジャー》」
パトリス。
エリック。
イーサン。
ルキヤン。
名前を呼ばれた四人は、命令を実行に移す。
「行くぞ、突入するっ!」
フランベルジュを抜いたポリーヌは、パトリスとエリック達の後に続いた。
内部は、日の光が当たる入り口はまだ薄明るく見え、奥の方は闇のように暗い。
先導役のパトリスは、牧杖バクルスを構えて右側を歩く。
同じく、先導役のエリックも自動弩を構えて左側を歩く。
二人より少し後ろを、ポリーヌは波刃長剣フランベルジュを真っ直ぐ両手で構えて歩く。
三人の後ろでは、バトルアックスを肩に担いで後ろ向きに、イーサンが進む。
「隠匿された旧魔王軍の基地や、アンデッドの神殿では無さそうだな?」
「分からないわよ? 不死魔皇軍が居る可能性も捨てきれないし・・・」
エリックとパトリス達は、軽口を叩いているように見えるが。
警戒心は解いていない。
二人とも、真剣な顔で前方を警戒する。
すると、二人の前方に穴が見えた。
穴の手前で、ポリーヌ達は停止する。
「エリック、中に行け・・・パトリス、援護しろ」
「了解《ラジャー》」
「了解《ラジャー》」
エリックが、左から右へと自動小銃ヒュオットから矢を発射しつつ穴へと突入した。
背後に居るパトリスも、両手でバクルスから火炎玉を右から左へと連射しながら走る。
しかし、穴の中には誰も居なかった。
逆U字型の灰色に塗られた、天井。
その広い通路。
そこに出たポリーヌ達。
左手は、崩落で塞がれている。
右手は、壁で行き止まりだ。
だが、前方だけは穴が空いているので進める。
「クリア・・・」
「クリア」
「レッドワームの通り道ですかね?」
「恐らくはそうだろうな・・・それゃり先に行こうか」
エリックとパトリス達は、敵が居なかったので武器を下ろす。
後ろからは、イーサンが魔物の事を話してきた。
レッドワーム・・・大人しくて、土を食う魔物だ。
今回の魔物騒ぎも奴の仕業だろう。
奴が土を食った。
それで、地中に生息する他の昆虫系の魔物を出現させたのだ。
或いはーーこの場所を偶然掘り当ててしまい、アンデッドを外に出したか。
(・・・このどちらかだろう? はぁ~~? ・・・)
そう思い至った、ポリーヌは静かに溜め息を吐いた。
とにかく、私達はまだ奥に敵が居るのを確かめるために行だした。
長い長い洞窟。
レッドワームの這った後だろう。
幸いにして魔物は居ない。
やけに静かな物だな。
魔物の雰囲気もない。
罠も設置されてはいない。
本当にただの地中の地下道だ。
レッドワームすら居ないのだが、気を抜く訳には・・・。
と、考えている、ポリーヌだったが。
「隊長、また先が見えて来ましたよ」
「そうか・・・また突入を頼む、今度は私も前に出るっ!」
エリックの報告に、ポリーヌはフランベルジュを握って答える。
(・・・やはり? まだまだ任務は完了していない? 気を脱いたらダメだっ! ・・・)
更なる奥を目指し、ポリーヌは再び気を引き締め直した。
「隊長? ここは古代遺跡のようですね・・・」
「気を抜くな、パトリス、何処に敵が潜んで居るのか? あ・・・」
「~~~~~~?」
やがて、見えてきた穴の出口。
その先を見たのか、パトリスが呟いた。
ポリーヌは彼女を注意しようとするが・・・。
(・・・誰だっ! いや? アンデッドかっ!! ・・・)
「あっ! 喰らええっ!」
私の渾身の一撃だ。
戦いは素早く動いた方が勝ち。
これを回避する事はできまい・・・。
と、即座に行動した、ポリーヌだったが。
「うわっ!! 危なっ!!」
「な・・・!?」
奴は後ろに下がった。
私の一撃を回避しただと。
コイツ・・・中々の手練れだ。
艶のない豪奢な装飾の漆黒の鎧。
魔皇軍の精鋭、黒騎士か。
それとも。
更に、少数精鋭の暗黒騎士か。
予期せぬ、格上の強敵アンデッドが登場した。
その事に、かなり動揺する、ポリーヌ。
(・・・逃がすかっ! 絶対に止めてやる・・・)
ポリーヌが再び斬りかかると同時に、エリックとパトリス達も攻撃に加わる。
ポリーヌは真っ直ぐに、フランベルジュを振り下ろす。
フランジメイスに持ち変えたエリックも、左から攻撃を仕掛ける。
パトリスも、バクルスのゼンマイ型に丸まった杖先を燃やして振り回した。
「おわっ! よっ! くぅっ!」
何てやつだ。
私の一撃をまた後ろにステップして回避するとは。
更に、エリックの繰り出した打撃を右腕の籠手《ガントレット》で受け止めた。
しかも、火炎魔法を纏ったパトリスの牧杖バクルスの刺突も左手で弾いた。
と、暗黒騎士の強さと素早さに、ポリーヌは驚嘆する。
「邪魔をしないでくれっ!」
(・・・あっ! 奴は刀をっ! 来るか・・・)
ポリーヌは、謎の暗黒騎士が繰り出した一撃を受け止めようと、身構える。
『バンッ! ガッ! ドガッ!!』
「うっ!!」
「ぐわっ!」
「くぅぅぅ」
咄嗟に、フランジメイス構えた、エリックは岩壁に激突した。
パトリスも鎧を叩かれて、地面に倒れてしまう。
ポリーヌだけが、フランベルジュで暗黒騎士の攻撃を受け止められた。
「もう行かせて貰うっ!」
「あっ! 行かせはしないぞっ!!」
『バチッ!』
走ろうとする奴の前で、ポリーヌは真っ直ぐフランベルジュを突きだした。
しかし、暗黒騎士は右に逸れて軽く交わすと、私を押し倒そうとしてきた。
(・・・いかんっ!? このまま倒れて堪るか・・・)
『ドンッ!』
私を押し倒そうとした右手を、咄嗟に着かんで、一緒に倒れてやった。
これで、奴は簡単に逃げられまい。
そうポリーヌは、思ったのであるが。
『カランカラン・・・コテンッ!』
「あり? あ・・・」
(・・・ヘルメットが脱げたっ! さあっ! その醜い顔面を晒し・・・えっ! ええっ! イケ・・・メン・・・? イケメン・・・)
不気味な兜が外れて中から出てきたのは・・・。
怪物ではなく、物凄い美形のイケメンだった。
て言うか・・・顔が近い、恥ずかしい。
と、ひたすら暗黒騎士の中身《クロト》に見とれ、顔を真っ赤に染める、ポリーヌ。
そのまま、彼女は困惑して固まってしまった。
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