「・・・シュメーゲンか?」
東の町シュメーゲンか、懐かしいな。
だが、今はもうすっかり変わっちまっただろう。
時の流れは残酷だからなーーと思う、クロト。
「おいっ! 安全運転で頼むぞっ!」
「誰に物を言ってるんだい、坊や~~? 私の運転は上手いって評判だってのっ!」
激しい揺れで、何だか気持ち悪くなってきたぜ。
ルータに頼んで見たが聞いてくれる訳ないよな。
クロトは吐き気を耐える。
「吐かれたら困るね? ハッチを開けて外の空気でも吸ってな」
「そうさせて貰うぜ」
蓋を開いて外を見れば、他の騎士連中の背中が見える。
全員が鉄の馬に乗っているなーー。
女騎士が先頭だな。
おーー騎士団員が、何人もの部隊か。
広い草原を走る騎士団、これは絵に成るな~~。
ハッチを開けた、クロトは辺りを見る。
『ドスドスドスドスドスッ!』
アレも意外と早く走るんだな。
あの真ん丸い鎧って、名前は何て言うんだろうな。
お・・・あっちにはファット・ディアーの群れが居る。
けど逃げ出したな。
アイツ等は、草食性で臆病な性格だからな。
んで、太った体の割りに脚は速いんだよなーー意外と。
野生の魔物を眺める、クロト。
「ねーー? あんた、クロトだっけ? 何か知らんけど暗黒騎士の疑いがあるんだって・・・まーー私にはあんたが、そこまでの悪人には見えないけどさぁ」
「ああ~~迷惑な話だぜ、装備が似ているとか、顔がソックリさんだとかな」
本当は暗黒騎士なんだけどな。
とは言えない、クロト
「て言うか、疑いが掛かっている奴を戦地に連れていくのか?」
「ああ~~? それもそうだねーー? でも、あの女隊長さんは、あんたを信用しているんじゃないの?」
うぅーーそう言う事か。
しかし、期待を裏切ってしまって悪いがな。
俺の正体はアンデッドの暗黒騎士だ。
何か悪い気がするが、しょうがないよな。
自らの正体を言う訳には行かぬ、クロト。
「なあ、今は戦時中なのか?」
「はぁ~~何言ってるんだい? 戦争なら五年前のカイザーシュラハトで終わったわよ」
ルータ、五年前とか、カイザーシュラハトだが言われても分からん。
何せ、今の俺は眠りから覚めた、浦島太郎だからな。
母親から聞いた、おとぎ話の主人公の名前を思い出した、クロト。
「終わったのに、まだ戦争をしているのか」
「戦争その物は五年前に終わったけど、魔皇軍の残党は健在だからね」
魔皇軍だと。
魔物の軍隊は、お袋と親父が過去に壊滅させたはず。
ルータ、何なんだよ、魔皇軍ってのは。
クロトは疑問に思う。
「魔皇軍って?」
「魔物の軍隊、アンデッドを中心に構成されているんだよ」
アンデッドの軍隊か。
俺も、何度か不死者の集団とは戦ったな。
お袋と親父が、コンビを組んでいた時の魔王軍の残党だがな。
魔王が死んだ後も、魔物達は諦めなかった。
奴等は、魔族を中心に何度か魔王軍の再結成を試みた。
まあ全部、俺が残らず潰してやったがな。
そして、今は俺自身がアンデッドなんだよな。
等と、クロトが考えていると。
「おっ! 見えて来たよっ? シュメーゲンの町だっ! うわ・・・どうやら戦闘中のようだ」
「うわっ! 本当だぜ、マジで戦闘中だ」
シュメーゲンの町は燃え上がっている。
オレンジ色の三角屋根、三階立ての家が燃えている。
建物も所々崩れてもいる。
これはヤバイな・・・・・・。
ルータの声に、町の方を見た、クロトの目には町の惨状が映る。
『パパパパパパパパッ!』
「各部隊、散開しろっ! 我々は正面から行くっ! ルキヤンの隊は左から行けっ! テルセロの隊は右からだっ!」
女騎士の声だ、銃の音もする。
魔皇軍とやらが暴れているのか。
・・・ってか、右に行くんだな。
シュメーゲンの手前まで来たが、今度は右側から攻めるのか。
敵が待ち構えて居ないと良いがな。
待ち伏せで、魔法を射たれてドカンは嫌だぜ。
伏兵を警戒する、クロトは周囲に気を張る。
「クロト、町の方を警戒してね?」
「分かってるぜ、左の方だな」
町の外周部を、このポンコツは走るが、敵は見えない。
ここは外側、つまり奴等は奥で待ち構えて居るのだろう。
左側に見える建物は、壁が壊れたり、半壊した物が目立つ。
時たま、無事な建物が見えるが、殆どがボロボロだ。
頼むから、窓とか、半壊した壁の陰から撃って来ないでくれよ。
右側から、迂回して町に入ろうとした俺達。
だけどよ、まだ敵と出会ってねえぜ。
まだ見ぬ敵に備える、クロト。
「クロト、あんた機銃掃射をお願いね?」
「良いのか?」
ルータ、勝手に動かして大丈夫か。
ルータから機関銃手を任された、クロト。
「良いから、私は運転に専念するから」
じゃあ、やらせて貰うぜ。
動かし方は何となく分かる。
どう言う、カラクリかは分からないがな。
クロトは、水冷式機関銃の構造を不思議に思う。
町を外側から見ているが、さっきと同じで、建物が崩壊するか半壊した物が多い。
オレンジ色の屋根が吹き飛んだ建物。
壁が無い建物。
全て崩れて瓦礫と化した物。
左手に石畳の道路が続いているな。
と・・・ここが町に入る入り口か。
クロトは、崩れた建物を眺めて魔物が暴れたのかと考えた。
『パンッ!』
『ドドドドドド』
「敵襲ぅぅーーーー!? 壁に張り付けっ!」
テルセロだっけ。
おっさんの声がしたけど、他の騎士を見ている暇はない。
クロトは、声に反応したが直ぐに敵を探す。
「どっから撃って来たんだ?」
「クロト、右から来るわっ! 魔物の群れよっ! 私達が対処するわ」
ルータの声を聞いて、クロトが右を見ると、地面から魔物が沸きだした。
「分かったぜ、今撃つっ!」
『ドドドドドドドドッ』
ありゃ、マッド・フロッグだ。
緑の体が土で汚れているから直ぐに分かる。
バリスタを俺が撃ってやれば奴等は一殺《イチコロ》だ。
よし、矢が奴等の体を貫通した。
頭を射ぬかれて、後ろに倒れる奴。
腹を射ぬかれて、前のめりに倒れる奴。
短い手足を、ド派手に吹き飛される奴。
コイツら・・・弱すぎだろ。
余りの敵である魔物の弱さに、クロトは楽勝だぜ、と言おうとしたが。
「あれれ、おかしいな?」
一メートルの奴と、二メートルの奴が居るが、どちらも起き上がる。
「クロト、アイツ等はアンデッド化しているんだよ、全身バラバラにしないとまた直ぐに起き上がるんだ」
「分かったぜ、バラバラな?」
ルータは左側のドアを開いて何かを投げつけた。
その間、クロトも銃器を撃ち続ける。
『ボンッ!』
爆弾か。
俺が殺し切れなかった、マッド・フロッグを吹き飛ばしているぜ。
アレは、かなりの威力だ。
手榴弾の威力は凄まじく、クロトはバラバラに、マッド・フロッグが吹き飛ぶさまを見る。
「よし、穴から出てきたのはアレで全部ね」
どうやら、アンデッド化した魔物は全部仕留めたようだ。
しつこい魔物の襲撃が終わり、クロトは安堵した。
「ペペ、壁を破壊してくれっ!」
『了解ですっ!』
テルセロが命令したら、大鎧が動き出したぞ。
って言うか、さっきからアイツは腕から魔法を撃っていたんだな。
腕に装備した杖《ワンド》から雷撃が飛んでいるぜ。
町へ続く、道路の向かい側の建物に向けて撃っていた奴は歩いていく。
中に突入する気だな。
ん・・・建物からの攻撃が止んだだと。
中の奴等は退散したな。
あの大鎧《デカブツ》にビビったか。
市外戦の成り行きを見ていた、クロト。
「ルータ、お前達は町の中に行け、ポリーヌ少尉達の援護に向かうんだ・・・向こうの方が射撃音が酷いからな」
「分かったよ軍曹、私等は行くからね?」
「先に行かせて貰う」
テルセロとルータ達は勝手に話を決めたな。
まあ、仕方がないぜ。
クロトは、ルータに行き先を任せるしかない。
「そいじゃ行くよ」
「おおっ! て言うか良いのか?」
ルータは、小型装甲車《フォードFTーB》を走らせた、じゃあ質問だ。
クロトは、ルータに単独行動しても良いのかと問うが。
「ああ、私等だけ行けって事でしょう・・・大丈夫よ、どうせ私等の車は家の中に入れないから」
「そう言う事か、確かに無理だな」
リータの言う通り、この車体じゃ部屋の中には入れん。
しかも、狭くいりくんだ市街でも大した動くことは出来んだろう。
それじゃあ、ポリーヌの所に行くしかないな。
狭い場所で、車両が走るのは得策じゃないと、クロトは考える。
『ブロロロ~~』
町中を、鉄車《オモチャ》は走るが誰も居ない。
そして、石畳の道は車体がガタつくぜ。
こっちには、敵はなしか。
白や茶色の建物の合間を通っているが、敵の気配はない。
が、しかし・・・こう言う時こそ、油断はできない。
気を抜かず、街中の彼方此方《あちらこちら》に目を配る、クロト。
「来たぞっ! 投げろっ!」
『ドカンッ! ドカンッ!』
「撃って、撃って、撃ちまくれっ!」
『ドドドドドドドドドド』
手榴弾、それに銃もか。
クソ、オレンジ屋根の上から来やがったか。
このバリスタ、上は向かねえんだよ。
突発的な敵襲に直ぐに反応する、クロト。
「やっぱり、罠だったわねーー!! クロト、頼むよっ!」
「頼むよったって、どうするんだよっ!!」
頼まれたって、どうにも出来ないぞ。
バリスタは上を向かないわ、対空武器は無いわ・・・。
敵に対抗しようにも、どうしようもない、クロト。
「ルータ、俺ぇ~~降りるわっ!」
「えっ! 飛び降りるって、ええっ!!」
ルータは驚くが、答えている暇はない。
よって、バリスタの蓋を開いてっと。
銃塔から身を乗り出す、クロト。
「男が飛び降りたぞっ! 手榴弾を投下しろっ!」
「奴を狙えっ!」
『ドドドドドドドド』
狙われて溜まるかよ、手榴弾は・・・。
短機関銃からの攻撃を避けて、クロトは走り回る。
「そらっ!」
大太刀オオタチで、弾き返してやれば。
後の銃を撃っている奴等も、オラオラ。
こうして、足で、瓦礫の小石を蹴り跳ばしてやれば。
クロトは上方の敵に反撃した。
「こっちに打ち返してきっ! うわーーーー!!」
『チュドーーーーンッ!』
よし、爆死したな。
屋根も一緒に吹き飛んだぜ。
派手な爆発と灰色の煙が、クロトの目には入った。
「ぐわっ!」
「小石が脳に・・・」
『ドサッ!』
『バタッ!』
オレンジ屋根の上から、ゾンビ兵士とスケルトン兵士が降ってきた。
嘗めるんじゃあねえーー。
俺は手段さえ有れば、お前らくらい簡単に殲滅させられるんだよ。
クロトは、上から攻撃してくる敵を睨む。
「怯むな、お前ら、撃てっ!」
『パンッ!』
『ドドドドド』
お前らは俺が直接、斬ってやる。
まずは、右上にジャンプ。
次は左にだ。
こうして、ジグザグにジャンプして壊れた壁を。
クロトは軽々と身を翻しては、素早く上方へと移動する。
「うわぁーー!! くっくるなぁーーーー」
「撃ち殺してやるっ!! ぐっ?」
・・・上れば、連中はアタフタするだけだ。
それから勿論、やる事は。
一人目、大太刀オオタチで、頭から真っ二つ。
二人目、脳天を串刺し。
三人目、額を右から跳ねてやった。
四人目、瓦礫を投げて右目を貫いてやった。
このようして、クロトは敵を次々と葬る。
『ドドドドドドッ!』
「ぐわぁ~~!?」
「一人、残ってたよ?」
「ルータ、助かったぜ」
ゾンビ兵がまだ居たのか。
ルータ、本当に助かったよ。
ルータの援護に、クロトは安堵した。
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