聖光騎士団の襲撃から逃げ出した、クロトやポリーヌ達。
銀行の屋上から、彼等は次に裏側の通りに飛び下りる。
「っと? 敵は居ないようだな?」
「どうやら、大丈夫そうね?」
クロトとポリーヌ達は、周囲を見回して隠れ潜む敵が居ないかと探す。
気を抜かず、彼方此方《あちらこちら》を注意深く観察する二人だが幸いな事に敵は見当たらない。
「今だっ! 撃て~~❗️」
と思った時、やはり巧妙に隠れていた兵士たちが、窓や物陰から銃を撃ってきた。
『ドドドドドドドドドドドドーー』
『ダダダダダダダダダダッ!!』
『ボッボッボッボッボッボッ!』
『ビュッ! ビュッ! ビュッ!』
軽機関銃や短機関銃から放たれる弾丸に混じって、火炎魔法や氷結魔法も跳んでくる。
火の玉や青色の光線《ビーム》が宙を舞う中、クロト達は剣などを前にして、銃弾や魔法を弾く。
当たったとしても、大した事はない。
だが、火炎魔法は炎で視界が遮られる可能性がある。
氷結魔法も、手足が凍結して身動きが取れなくなる恐れがある。
だから、クロト達は攻撃を弾くのだ。
「ぐっ!? やっぱり、罠かよっ!!」
「クロト様っ! おのれ、聖光騎士団めっ!」
『カチッ! カチッ!』
クロトは、大剣ツヴァイヘンダーの刃で弾や火の玉を受け止める。
その右側で、ポリーヌは背中に波刃長剣をしまうと、腰から二丁ルビーを取り出す。
左右から、彼女はX字を描くように交差しながら放たれる、銃撃と魔法を撃つ兵士たちを狙う。
「はっ? 騎士団への攻撃は止めろっ!」
「えっ! なぜですっ? 彼等はクロト様の敵なんですよ・・・」
「当たり前でしょっ! 私達はアンデッド・・・この攻撃も、連中にして見れば悪を退治してるだけなんだから」
「そうだ、我々は決して悪人ではないっ! 故に正義の味方である騎士団への攻撃は赦されんっ!」
「皇后両陛下の厳命だしね~~? 相手が極悪人じゃない限り、こっちから手を出したらダメって事になってるしさっ!」
クロトは、大剣ツヴァイヘンダーを石畳の隙間に突き刺す。
次いで、ポリーヌの二丁ルビーを握る両腕を押さえて聖光騎士団への発砲を止める。
シノブは、黒作太刀クロヅクリの刃で受け止めた、氷結魔法の氷を地面に叩きつけて砕く。
リーヌスは、薙刀クーゼをプロペラのように派手に振り回しつつ銃弾や火の玉を弾き返す。
ニャビルは、十字剣カスカラを器用に振るって次々と銃弾を切り裂く。
「皆も、ああ言ってるだろ? ポリーヌ、ここは攻撃を防御するだけでいいっ! それから強行突破するっ!」
言った瞬間に、クロトは大剣ツヴァイヘンダーを振り回しながら走っていく。
「ああっ! クロト様、置いてかないで下さいっ!」
「・・・たく、調子が狂うわね?」
「全くだな、はぁ~~」
「同意っ! って、それより今は逃げなきゃねっ!?」
ポリーヌも走り出すと、シノブやリーヌス達も素早く走り出す。
最後になった、ニャビルはさっき逃走した時と同じく、煙玉を左右に転がす。
『ボワッ! ボワッ!』
(・・・よし? 煙玉で視界を奪うんだな・・・うわっ! アイツ・・・)
チラリと、左右で灰色の煙を吹き出す煙玉を見る、クロト。
「あっ! ってて、て?」
(・・・しまったっ! 転んでじゃったわ? ・・・)
運悪く石畳に、足の爪先を引っ掛けてしまった、ポリーヌ。
しかも、彼女は被っていた兜まで頭から、スポッと外れてしまう。
そうして、晒された兜の下に隠されていた、彼女の素顔。
光輝くような、根本が青みがかった毛先のカールした白銀のストレートヘア。
深海のごとき群青色《ぐんじょう》の瞳。
陶器のような素肌の青白く、細い顔。
漆黒色の鎧を着た、邪悪な女暗黒騎士。
今のポリーヌを誰が見ても、そう思うだろう。
「あ、ちょっとっ? あんた、大丈夫っ!」
「転んでしまったのか?」
「こんな時に・・・援護するわっ!」
シノブやリーヌス達も心配し、ニャビルは四方八方に煙玉を投げる。
『ブワワ~~!! ブシュシュゥーーーー!!』
「今のうちに彼女を運んで上げてっ!」
「合点だ、今行くぜっ!」
ニャビルの真剣な声を聞いて、クロトは直ぐにポリーヌの元に駆け寄る。
「あたた、痛みは無いけど擦りむいた見たいだわっ! えっ!!」
「黙ってろ、俺が運んでやるからなっ!」
お姫さま抱っこで、ポリーヌはクロトに抱き抱えられる。
(・・・嬉しい♥️ お姫さま抱っこなんて子供みたいで少しアレだけど・・・)
ポリーヌは、いきなり愛する人から抱き抱えられた事で恥ずかしさの余り顔を真っ赤にする。
彼女の気持ちを知らず、また考えもしない、当のクロトは必死で走る。
しかし、間近で抱き抱えられた、ポリーヌは白い頬をリンゴのように赤く染めていた。
「急いでっ! 敵が向かってくるわっ!!」
「逃げたのは俺達の方だからなっ!!」
「手榴弾を投げ・・・?」
クロトとポリーヌ達の耳に聞き慣れた声が入った。
さっき、ニャビルが投げた煙玉は前方にまで煙を広げていた。
その煙が晴れてきて、段々と向こうの商店の中に隠れていた、兵士達の姿が露になる。
当の彼等は、二人を見ると衝撃の余り動けないで立ち尽くす。
「隊長・・・なぜ、貴女が黒い鎧を?」
「まさか、そんなっ!?」
「嘘だろっ? 嘘だと言ってくれ?」
暗黒騎士から、お姫さま抱っこされた、ポリーヌの姿。
それを間近で見せつけられた、パトリスは言葉を失う。
イーサンとエリック達も、自分たちの上官が悪に堕ちたと知って絶望する。
三人とも、声を発する事が出来ず立ち尽くすのみだ。
「パトリス? これは・・・そうね? 見ての通り、私はアンデッド化した、後の指揮は任せたわ」
「そんなっ! そんなの認められる訳ないじゃないですかっ!?」
『ガガーーーーーーーーーー!!』
ポリーヌとパトリス達。
二人は、上官か部下の関係でもあり、そして同僚でもあった。
それも、ポリーヌが死ぬ前の話だ。
アンデッドとして甦った後は、人間であるパトリスは敵になる。
対峙する二人だったが、そこへ妙なエンジンと車輪が回る音が近づいてきた。
『キキィーーーーーー!!』
「早く乗って下さいっ!」
「我々が、援護しているうちにっ!」
道路の石畳を凄い勢いで走り、現れた黒い装甲車エーアハルトEV/4。
車体の左側面を、此方に向けていたが、直ぐにゾンビ兵とスケルトン兵達がドアを開いた。
「フリッツ、ヘルマン、助かったぞっ!」
「さあ、早く乗ってっ!」
「クロト、女騎士さん、撤退だよっ?」
礼を言いながら装甲車に乗り込む、リーヌス。
素早く乗り込むと同時に、シノブとニャビル達は二人を呼ぶ。
「分かっている、今すぐ行くから待ってろ」
「私は、これから彼と共に冥府へ行く、だから心配しなくて良いの」
「隊長?」
後ろに振り向き走るクロト、その彼に熱っぽい視線を送りながら、ポリーヌは語る。
ああ完全に、ポリーヌ隊長は堕ちたと悟った、パトリスは茫然とするしかない。
(・・・ポリーヌ? 何を勘違いしているんだ・・・)
「乗ったぞ、早く出せっ!」
『ブロロロロロローーーー!!』
最後に、クロトはドアから車内へと、ポリーヌが頭をぶつけぬよう体を横にして入った。
こうして、装甲車エーアハルトは全員を収容すると、颯爽と走っていく。
「・・・くっ!」
「行っちまった?」
「ぐぅ~~!?」
何も出来ず、立ってばかりのパトリス達を置いて、暗黒騎士たちはポリーヌを連れ去った。
この事実に、イーサンとエリック達も意気消沈するばかりだ。
「敵が逃走したっ!」
「やった、勝ったぞっ!!」
やがて、全ての煙が消え去ると、他の兵士達が集まってくる。
魔皇軍が撤退したと思い込む、彼等は歓喜の声を上げるのだった。
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