少しの間、ポリーヌの帰りを待っていた、クロトを含む三人。
「あっ! ポリーヌ隊長、ハディ一等兵です・・・彼は新人のルアン二等兵です」
「そうか、分かった・・・ルアン二等兵? 彼・・・クロトと一緒に町の東側を警備してくれ」
「彼を、お願いね」
(・・・ハディ? 本当かーー? あ? 本当にポリーヌが来た・・・)
ハディの手を振る方から、ポリーヌとパトリス達が歩いてくるのが、クロトにも見えた。
「へいへい? 行くぞ」
「了解です、行きましょう」
んで、早速命令で見張りに行けか。
面倒だが、言われた通り、ルアンと一緒に行きますか。
等と、クロトは思う。
「パトリス、ルキヤン伍長に伝令を頼むわ、町の西側を警備してくれと・・・ハディ、貴女にはテルセロ軍曹に伝えて頂戴、町の南側を警備してと」
「了解です、では私は行って来ますね」
「私も行って来ますっ! ではっ!」
後ろから、声が聞こえた。
パトリスとハディ達も、何処かに行くようだ。
そして、足音から察するにポリーヌも行ったな。
クロトは耳を済ます。
「ルアンだっけ? 何で騎士団に入ったんだ」
「子供の頃からの憧れだからです」
クロトは、ルアンに聞いて見た。
「憧れね? 俺には分からんな」
「クロトさん・・・騎士団員は皆の憧れですよ? 特に子供達の」
憧れねーー幼い頃に、スーパヒーローに憧れるのは誰でもあるよな。
俺もそうだったな。
まあ、俺の頃は冒険者《チンピラ》・傭兵《ヤクザ》に成るのが夢だと、ガキの間で流行ったけどな。
子供の頃を思い出す、クロト。
「ガキ共のね、ガキ共の・・・」
「そうです、今でも騎士団と言えば、英雄《ヒーロー》や勇者《ブレイブ》扱いですから」
英雄《ヒーロー》に勇者《ブレイブ》ね。
俺のお袋と親父は正にそれだったよ。
まあ、実態は女極道《すじもの》と虐殺者《イカレポンチ》の迷コンビだったが・・・。
クロトの母親と父親は、少々性格に問題があったようだ。
まあ、異世界では極道の一人娘だった母マコト&狂った魔術天才学者のクルト。
この二人の恐ろしさは、戦って負けた者にしか分からないだろう。
「クロトさんは騎士団員の格好はしてないですね? どうしてですか?」
「有らぬ容疑を掛けられててな、監視ついでに雑用係りを任されているのさ・・・」
まあ、実は容疑者なんだけどな。
お・・・ようやく町の外れだな。
こっちは溝が掘ってあって、アーチ型の橋がある。
町の外は平和その物だ。
呑気に眺める、クロト。
「ここで、保哨に立ちましょう」
「だな、それより魔皇軍って何なんだ?」
ずっと、コレ聞きたかったんだよ。
魔王軍とどう違うんだ。
魔王軍はかつての勇者《おふくろ》と賢者《オヤジ》が壊滅させた。
んで、魔王軍の残党も、俺がほぼ狩り尽くしたし。
旧魔王軍時代の勢力。
アンデッド族・デーモン族・ダークエルフ族とかは、もうそこまでの力は無かった。
じゃ、魔皇軍は・・・いったい何なんだよ。
「ええっ!! クロトさん、知らないんですかっ!?」
「えっ! いや、知らん・・・ドが付くほどの超田舎暮らしだったんでな?」
とでも言わないと、ルアンは納得しないだろう。
と、クロトは思って答えた。
「あ~~~~? 何処の生まれか存じませんが、流石にヤバくないですか? 見たところ、クロトさんは私と同郷かと思いますけど・・・」
「済まん・・・多分、ルアンが知らない程のド田舎の更に奥のド田舎生まれで、今の今まで田舎で害獣退治しかして来なくてな・・・」
こう言えば、何とか知らない理由を疑わないだろう。
我ながら、ナイスなアイデアだぜ。
さて、教えてくれよ。
その魔皇軍とやらを。
ルアンに期待する、クロト。
「分かりました・・・まあ、取り合えず・・・魔皇軍・・・彼等は千年前の神の礫《つぶて》の落下後に出没するように成りました」
んんーー俺が焼き潰された隕石の事だな。
てか、千年前。
あれから、そんなに時間が。
流れた時間に衝撃を受ける、クロト。
「神の礫は人類に対する神罰であり・・・炎に焼かれた世界には性根の優しく綺麗な人類のみが生き残ったと聖光教会は説きました」
アレが神の礫ーーじゃ何か、俺は悪人だから殺られたってのか。
教会の教えを疑問視する、クロト。
「それから・・・地上には神の礫が地層深くを破壊した事で悪霊が吹き出し、新たに生まれた魔物とアンデッド化した元人間達が跳梁跋扈《ちょうりょうばっこ》する事態となりました」
そら、アレだけの大災害だもんな。
魔物とかは当然暴れるわな。
ルアンの話を聴きながら、クロトは冷静に考察する。
「アンデッド病等に犯された人間は、悪魔に取りつかれた・・・それは即ち欲深い悪人だから、そんな彼等から人々を救うために我々は結成されたのです」
感染って奴か。
薬の効かない新しい毒でも出たのか。
半ば、アホらしいと思いながらも話を聴き続ける、クロト。
「それで、病に犯された人々を見捨てた訳か?」
「・・・まあどうでしょうか? その辺は千年前の話ですから・・・」
やむなく、見捨てたのだろうか。
それ程の感染力を、当時の毒は持ってたのか。
等と、クロトは考えた。
「あっ! 悪いな、話の腰を折っ地まって・・・っで、肝心の魔皇軍の事だが」
「はい、今からその編に入りますよ、聖光騎士団が結成された当時は、魔物やアンデッドに唯一対抗できる組織として活躍しました・・・」
治安維持組織と軍隊を兼ねた組織だったのか。
それで、今に至ると。
クロトは、魔皇軍と騎士団の歴史をルアンに聞こうとする。
「各地で暴れるアンデッド・魔物・盗賊・暴徒・・・達に対処していた訳ですが、そこに彼等が徒党を組んで現れたのです」
「それが、魔皇軍って訳だな」
いよいよ、本題だな。
これで、奴等の正体が掴めるぜ。
ルアンが話す当時の様子は、正に混乱状態だとクロトは思う。
「そうです・・・聖光騎士団が世界を統一した後、それまで身を潜めていた彼等が一斉に行動に出たのです」
「っで? 今に至るまでに千年続く戦争の真っ最中だと・・・」
戦力をかき集めて、密かに軍団を編成していたのか。
旧魔王軍の残党と新たに生まれた魔物&アンデッドに訓練を施した。
次いでに、騎士団と事を構えられるだけの軍備を整えたと。
そう言う訳だな・・・何者だろう。
魔物やアンデッドの王国、いや帝国を作り出そうと言う野望を持つ奴は。
ルアンが得意気に話す中、クロトは冷静に頭を動かす。
「勿論です、当時の聖光騎士団が総出で魔皇軍を迎え打ち・・・当時の戦いは聖魔戦争と後に言われました・・・以後、千年間は小競り合いと時々の戦争を繰り返してきました」
聖魔戦争・・・大戦争か。
何時の時代も人間は変わらないな。
千年前は魔王軍、千年後は魔皇軍か。
人間の飽くなき戦意と欲望に落胆する、クロト。
「それで全部か?」
「何分、彼等には謎が多いので・・・分かっている事は暗黒鬼妃と不死魔皇帝が黒鎧を身に付けて、当時の激戦地に出陣したくらいしか?」
その二人が首謀者だな。
しかし、おかしいな。
お袋と親父たちが居れば、俺の出番なしで戦いが秒速で終わるのに。
その餡コロ餅とーー何だっけ、婦人ナンちゃら~~も一撃で倒してくれるのにな。
クロトは、ルアンの話を聞いて、父母たちの活躍はどうなったと考えた。
彼の推測する通り、魔王すら倒した凶悪ギャング夫婦が、アンデッドに負ける訳がない。
そう思ったからこその疑問だ。
「おやっ? 避難民が来ましたね」
「別の部隊もな・・・」
本当に避難民が大挙して来たな、この話の続きは後だ。
先に彼等の相手をしなくては。
面倒だが、仕事はきちんとしなければダメだからな。
ルアンが向く方向を、クロトも眺めた。
難民たちは、蟻の行列が如く大人数でやって来ていた。
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