偵察隊は、シュメーゲンに向かう
前方からの爽やかな風を受けつつ走る私と仲間達。
偵察隊は、颯爽と草原を進む。
目標に向かって。
前から顔を横切る風は涼しい~~。
見渡す限り、平らな土地に緑の草が広がる。
空は快晴で、白い雲と水色が広がる。
ここは平和その物だ。
(・・・シュメーゲンへ行かねば・・・)
ここから更に東の町シュメーゲン。
あそこには魔皇軍が出没した。
早く行かねば、シュメーゲンはアンデッドの拠点と化すだろう。
住民の避難は済んでいるだろうか?。
そうであって欲しい・・・。
いや、暗い予想は止めよう。
クロトの様子はどうかな?。
後ろを見れば。
小型装甲車フォードFTーBのハッチが開いた。
あ、こっちを向くわ。
顔を剃らさないと。
はぁ~~顔を剃らすのが、何とか間に合ったわ。
あのままだと見つめ合う形に♥。
いかん、いかん・・・任務に集中しなければ。
太鹿《ファット・ディアー》の群れが居るわ。
草食性の野生動物ね。
彼等が居ると言う事は、周囲に敵。
一つだけ居たわね、私達が。
あーー逃げ出しちゃったわ。
可愛い姿だけど仕方無いわね。
彼等に取って、私達は驚異だ。
だから逃げるのは当たり前な訳よね・・・。
普通の草食動物は、敵を見たら直ぐに逃げるわ。
それは私達人間も同じ。
私達を襲うのは魔皇軍だ。
彼等は人を襲うアンデッドの組織、いや国家だ。
黒い鉄兜シュタール・ヘルム。
黒い軍服。
ゾンビやスケルトンの兵士達。
短機関銃、軽機関銃、手榴弾で武装した彼等は人間に取って驚異だ。
今から遡って五年前・・・あの時の戦いは苛烈だった。
激しい砲撃の後、塹壕の中に侵入したアンデッド兵達。
暗黒騎士と黒騎士達に率いられた彼等は、戦線を崩して快進撃を続けた。
ポリーヌは過去を回想する。
ゾンビ兵の短機関銃ベルグマン。
スケルトン兵の軽機関銃マドセン。
塹壕鎧ロブスターアーマーを着た、リッチ兵の手榴弾。
ヴァンパイア兵の抱える大型軽機関銃シュパンダウ。
グール兵の権杖ジェズルの魔法攻撃。
大剣を構えた暗黒騎士。
彼等が率いる、槍を構えた黒騎士達。
その後ろに続く、多数の突撃隊シュトース・トゥルッペンの兵士達。
塹壕線の防備の薄い部分を突っついた連中は、塹壕内で銃撃を繰り広げた。
お陰で、聖光騎士団は成す術なく敗退して、数十キロも後退した。
当時の精鋭、白金騎士が率いる聖騎士隊も、暗黒騎士を前にして全滅だ。
敵部隊はまるで、回転する嵐の波だった・・・当時の生き残りの騎士の言葉だ。
あれ等は、途切れぬ金切り音と、爆発音を塹壕内に轟かせた。
私達の隊は、運よく端の方に居たから大した被害は受けなかった。
だけど、最前線の主力部隊は全滅。
その左右の陣に展開していた部隊も同じく、八割と言う壊滅的な被害を出した。
あの場所に居た先輩型や仲間も。
グルシュニク先輩、フレート、ユッテ・・・皆、皆も・・・。
止めよう、過去は流れる清流の如く流れ去ったんだ。
流れる綺麗な水流の如く、何もかもね。
んん・・・シュメーゲンが見えてきたわね。
でも、あの様子は。
シュメーゲンの町は燃え上がっている。
オレンジ色の三角屋根、三階立ての家が燃えている。
建物も所々崩れてもいる。
これはヤバイな・・・・・・。
ポリーヌは回想に浸っていたが、町の余りの参上に現実に引き戻された。
『パパパパパパパパッ!』
「各部隊、散開しろっ! 我々は正面から行くっ! ルキヤンの隊は左から行けっ! テルセロの隊は右からだっ!」
銃撃音だと、これは・・・。
魔皇軍の仕業だわ。
町の人は無事だろうか。
自警団員が誘導していると良いけど。
町の手前だ。
そろそろ、機械馬アイアン・ホースから降りねば。
拳銃ルビーを、一挺だけ抜き取って。
武器を手に、ポリーヌは戦場へと走って行く。
「イーサン、援護を頼むぞ」
「了解です、隊長」
町の入り口から入って見たが、敵は居ない。
ここは十字路だ。
道路の石畳は、ボロボロで地面が見える。
右手の建物は半壊して、部屋の中が見える。
左手の建物は外壁は無事だが、屋根からは炎と煙が上がる。
道路奥の真ん中には、車輪が四つ壊れた幌馬車の座席が此方を向いている。
さて、町内に潜入したのは良いものの、敵は何処だ。
ポリーヌは、左右上下に視線を動かしては、怪しそうな場所に目を向ける。
「今だっ! 放てっ! 撃て撃て~~~~!!」
「なっ! 罠だったかっ? 皆早く隠れるんだっ!!」
「きゃあっ!」
「敵かっ!!」
幌馬車に素早く飛び込まねば。
よし、パトリスは私の右に。
エリックはーー建物左側のドア陰に隠れたか。
イーサンは右側の建物一階、その窓から大型軽機関銃ルイスガンを撃っているな。
待ち伏せされていたか。
他の隊は無事か・・・いや、今は自分達の事が先か。
敵の待ち伏せを受けて、咄嗟に身を隠した、ポリーヌ達。
『ドドドドドドッ!』
『ビュビュビュッ!』
左手の半壊した建物の二階から機関銃の激しい制圧射撃。
残った壁の残骸から、ゾンビ兵が撃ってくる。
右手の建物の窓からは、魔術兵の権杖《ジェズル》による魔法射撃で紫色の光玉が飛んでくる。
あの太い銃身を左右に動かしている。
それに細長い杖ーー間違いないない。
あの二つは、大型機関銃シュパンダウ15と権杖ジェズルだ。
その他にも、前方から、小銃マウザーの弾や短機関銃ベルグマンの弾が次々と放たれる。
建物の窓や陰から、ゾンビ兵が撃って来たか。
奴等にも、注意を向けねば。
ポリーヌは敵を観察して、武器や位置を把握した。
『パンッ!』
「ぐぅっ! 敵の攻撃が激しいなっ!」
この馬車も、そんなに持たないだろう。
こんな遮蔽物じゃ、直ぐボロボロに吹き飛んでしまうし。
ポリーヌの考える通り、激しい攻撃を浴びた馬車は次々と木片を飛ばして壊れてゆく。
『ビンッ! ビンッ! ビンッ!』
顔と右手だけを出して、私は反撃するのだが、大した効果は無いだろう。
その予想通り、左手の建物二階の敵は制圧射撃を止める気配はない。
やはり、こんな拳銃じゃ敵の勢いを押し返せないか。
敵の銃火に圧倒される、ポリーヌ。
「これなら」
『ボボボボッ』
パトリスが牧杖バクルスを振って、火炎魔法による火球を放つ。
この攻撃は効果があったようで、少しは魔法攻撃を行っていた魔術兵を止めた。
だが、パトリスが身を隠すと再び魔法攻撃を始めた。
紫色の光は低威力の暗黒魔法だろう。
アレが当たれば大怪我どころの話ではない。
まだまだ馬車は持つだろうか。
ボロボロになる前に脱出しないと。
エリックは・・・よし、上手くすり抜けられたな。
彼は建物の中を進んでいるようーー。
パトリスから、エリックに視線を移す、ポリーヌだったが。
『パンッ!』
しまった、エリックと敵が鉢合わせしたか。
銃声に焦る、ポリーヌ。
「敵だっ!」
「死ねっ!」
敵とエリックの声だけが聞こえる。
銃声はなし。
白兵戦になったか。
く・・・ここからじゃ建物の中は分からないな。
エリック、無事でいてくれ。
安否が分からぬ部下を心配する、ポリーヌ。
「どうすれば?」
額から汗が滲む。
魔法を使うか。
それしか、手はない。
ポリーヌは内心焦りつつ、対抗手段を考えた。
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