石畳の道路を走る、黒髪の青年と黒人少女。
「んじゃ、行きますかっ!」
「そうねぇ~~🎵」
クロトが呟きつつ走る速度を上げると、ニャビルも足を素早く動かし速度を一気に加速させる。
『パンッ!』
『ドォンッ!』
時たま木霊する、銃砲の音を聞きつつ突撃する二人だったが、やがて音源が見えてきた。
十字路の先で、魔皇軍部隊がカバードワゴン馬車に群がっているのだ。
どうやら、それは聖光騎士団の物らしく、馬車の中から小銃で反撃しているのが見える。
しかし、撃っている兵士は、たった二人だけだ。
「どうするよ?」
「どうするって、こうするわっ!」
クロトの走りながらの質問に、ニャビルは何か考えがあるらしい。
『全員、散開してっ! ビルの中から援護して上げてっ!』
ニャビルの指示が下ると、屋根を走る黒人男女たちは素早く散々になる。
彼等は、何処へ行ったのか分からないほど素早く、一気に消え失せてしまった。
『ドドドドッ!』
『ダダダダダダダダッ!』
「追い詰めろっ!」
「やっちまえっ!」
軽機関銃シュパンダウや軽機関銃ベルグマンを連射する、魔皇軍兵士たち。
しかし、彼等の背後から突然不意を突いた奇襲が仕掛けられた。
「今よっ! 射撃開始《フォイア》ッ!」
『ダン、ダン、ダン、ダンッ!』
叫ぶと同時に両手で構えた、ラージリングKから、ニャビルは無数の弾丸を発射する。
『ドドドドドドドドッ!』
『ダダダダッ!』
「ぐああーー!!」
「ぎゃああああっ!?」
ニャビルが撃った直ぐ後に、建物の二階や一階から猛烈な射撃が始まった。
次いで、聞こえてくるのは魔皇軍兵士たちの叫び声だ。
ニャビルも、それを見届けるとラージリングKを下げる。
「あんた達、スズキ商会の車を見なかったっ?」
「いや・・・見て、たな? 確か、この奥にあったはずだっ!」
「それより助かった、感謝するっ!」
ニャビルの問いに、聖光騎士団の兵士たちは答える。
そして、彼等は足早に何処かへと去って行った。
「クロト、また走るわよっ!」
「あっ! 分かったぜ、それよりスズキ商会ってのは?」
そう言って、ニャビルは先に走り出した。
彼女の後を追うべく、クロトも走って行く。
『全員、移動を開始するっ!』
「シノブの親戚が経営する世界的な巨大企業よっ! 表向き、私達はその従業員ってワケね?」
「商業ギルド見たいな感じか? まあ分かったよ」
頭の中で念じて、黒人部隊に命令を下した、ニャビルはスズキ商会のことを説明する。
クロトは、昔の人なので企業と言われてもよく分からなかったが、何となく理解できた。
「はあ? まあ、そんな感じね・・・それより見えて来たわっ! アレよっ!」
「アレか・・・あの深緑色した奴だな?」
ニャビルが指差した前方では、三台の乗用車が停車していた。
深緑色の乗用車ドッペルフェートン。
水色の小型乗用車ストゥヴァーLT4。
乗用車オートモ號《ごう》。
そこでは、小銃や軽機関銃を構えた、シノブの部下達らしき忍者やクノイチ達が居た。
彼等は、魔皇軍の襲撃を警戒してか、彼方此方に銃口を向けている。
(・・・緑色の忍者にサムライ? 紫色のクノイチから女芸者みたいな奴まで・・・)
東洋系の様々な用心棒を前にして、走りながらクロトは思った。
「クロト、あそこから好きなの取って」
「え? 良いのかよ」
近づくと、車の中には銃や木箱が積んであるのが見える。
「良いのっ! 良いのっ! クロトだって、遠距離武器がないと不便でしょ~~?」
「じゃあ、ま・・・遠慮なく使わせて貰うぜ~~?」
軽い返事で答えるニャビルに、クロトは調子が狂う感じがした。
しかし、使わせてくれると言うならば貰って活用しようと彼は思った。
「チィーースッ! コレ、貰ってくからね~~?」
「分かりました、カミス様」
ニャビルが元気よく挨拶すると、クノイチは頭を下げて、丁寧に御辞儀をした。
そうして、彼女は一番近くにあった乗用車ドッペルフェートンから小銃と弾帯ベルトを取った。
継いで、後ろに振り向いた彼女はクロトに向かって、その二つを投げた。
「よっとっ! これ、どう使うんだ?」
「引き金を引いて、二十発撃ったら弾切れになるから、弾倉を入れ換えるの」
銃を受け取ったクロトは、使い方が分からず、困り果てる。
ニャビルは、そんな彼に優しく丁寧に使い方を教えた。
「大体は分かった、けど弓とかクロスボウしか使った事がねえんだよな」
「大体は一緒よ、一緒・・・それより?」
『ドォンッ! ダダダダッ! ダダダダッ!』
半自動小銃モンドラゴンを振り回して、照準を覗いて見る、クロト。
それよりと言おうとした、ニャビルの言葉は砲銃撃音により遮られた。
響き渡る敵の攻撃による爆音は、左右から聞こえてくる。
「こうしちゃ居られねえっ! 俺は右に行くっ!! ニャビル、お前達は左側を頼んだぞっ!」
「って、クロトッ! 待ちなさいよーー!?」
一人勝手に、先に屋根の上へと跳びのったクロトは、そのまま走って行く。
彼の後ろ姿を見ながら、ニャビルが叫んだが、もう既に遠くに向かって行った後だ。
「・・・たくっ! プンプンッ! みんな、私達は左側に行くわよっ!!」
プンスカと黒い頬を膨らませた、ニャビルは自身の部下に命令を下して屋根の上に跳びのった。
『ドドドドドドドドッ!』
『ドドドドドドドドッ!』
「何だ、聖なんちゃら騎士団の奴等が撃ち返しているのか?」
クロトは、大きな四角いビルの真上に立つ。
下では、必死に誰かが戦っているようだ。
「よし、俺が援護してやろう」
この建物は四階くらいの高さであるビルだ。
クロトは、ここからなら屋上から射撃で周囲を包囲するように展開するアンデッド兵を撃てる。
そう思い、半自動小銃モンドラゴンの照準を覗く。
『ドドドドッ!』
『ダダダダッ!』
「アレ? 負けたのか・・・」
しかし、彼が来たのが遅かったのか建物の中から銃声が二回鳴ったのを最後に辺りは沈黙した。
静かになった原因は、直ぐに分かった。
「ぐあ?」
「げふっ!? ぐ・・・」
派手な真っ赤なドレスを着た、金髪ウェーブボブの女。
ブルーのスーツとパナマ帽を被る、ギャング風の男。
この二人が魔皇軍兵士たちによって、ビルの中から連れ出されたからだ。
まだ女性は息をしているが、男性の方は怪我が酷くて事切れたようだ。
「隊長、コイツ等は銀行強盗のようです」
「ドサクサに紛れて、金を盗もうとしてましたよ」
「ふむ? 何と言う欲深い人間達だ、これから罰として私の奴隷にしてやろう」
「い、いやっ! お願い・・・殺して」
スケルトン兵とゾンビ兵たちは、隊長らしき骸骨顔のリッチの元へ女性を連れていく。
黒いローブ、首から垂らした紫色のストラと言う正に死霊術師の格好をしている、リッチ。
奴は、指揮棒タクトを握る右手を前にだし、連行されてきた女性の額に近づける。
当然だが、女性は恐怖でビビる。
「ひぃーー! お願いっ! アンデッドに・・・!?」
「変えてやるから安心せい・・・」
泣きじゃくる女性の言葉を無視して、リッチは指揮棒タクトの杖先から淡い紫色の光を放つ。
それは一瞬で終わり、女性は白目を向いて倒れた。
「ふぉっふぉっふぉっ? コラ、早く起きんかっ!」
「・・・う? あ?」
リッチの声に、白目を向いていた女性は立ち上がり瞳を向ける。
その瞳は赤く、口からは犬歯が生えており、肌は幽霊のように青白く変色していた。
「お主は下級のヴァンパイアに成ったのじゃ、これからはワシに尽くすのじゃぞっ!」
「・・・ハイッ! 分かりました、マスター♥️」
リッチの死霊術により、女性はアンデッドに変えられてしまった。
(・・・やべぇな? アンデッドの連中は千年前から変わってねえ~~! ・・・)
「さて、次は倒れたギャングと、そこの貴様じゃなっ!」
クロトは、照準を覗きながら真下の銀行前で繰り広げられる悲劇を見ていた。
そこを、隊長のリッチに見つかってしまい、指揮棒タクトを向けられた。
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