「遠くから来たな、何処に隠れて居たのやら」
「馬車が来ますね?」
何人居るか分からない人数だ。
まるで、蟻の行列みたいだな、ルアン。
等と、クロトは考えながら、ルアンと一緒に難民の列を眺める。
(・・・ん? 馬車だと? おお~~よく見れば一番前にいるな・・・列から離れて? 一台の馬車が来るだと・・・乗っているのは・・・)
「ありゃ? あれ、教会の上に居た二人だ」
「教会の上の冒険者ですよね?」
木製の幌なし、ワゴン馬車。
それに乗るのは、御者役のシノブと助手席のリーヌス達だ。
クロトとルアン達は、段々近づいてくるワゴン馬車に目を向ける。
「あの二人、こっちに来るな」
馬車を見ながら呟いたが、別に変なところは無い、奴等が来るだけだ。
と、クロトは思ったが。
『今から、そっちに行くからね』
「!?」
『・・・これは捻話だ、驚いた顔をするな、貴様もアンデッドだろう? ならば我等と意志疎通ができる筈だ』
驚いた。
シノブの声が聞こえたと思ったら、今度はリーヌスの声がした。
念話《テレパシー》に驚く、クロト。
『・・・どう、捻話はできる?』
(・・・出来るかと言われても? やって見るか? ・・・)
シノブからの念話で話し掛けられた、クロト。
『こうか? どうだ、話せているか?』
『やはり貴様はアンデッドだったか・・・』
『貴方ね、何者なの? 私等は暗黒騎士の中身だけど・・・』
何者だと、それは俺の台詞だぜ。
お前らこそ、何者だ。
クロトが念話で話せると分かると、シノブとリーヌス達は彼を不思議がる。
『俺はクロト・・・今現在は偶然手に入れた暗黒騎士の鎧を着ていたせいで、魔皇軍の容疑を掛けられている』
『・・・クロト? 千年前の英雄にし因んだ名前ね、それより何処で暗黒騎士の鎧を入手したの』
『・・・シノブ、話は後にしよう、隣の奴に怪しまれては面倒だからな・・・今晩、教会の裏で落ち合おう』
千年前の英雄かーーまあ本人だけどな。
これは言っても信じてくれないだろうな。
リッターの言う通り、ルアンにバレたら面倒なのは確かだ。
クロトの正体を知って、シノブとリーヌス達が驚くのは無理もない。
いきなり、千年前の英雄と言われて信じる人は居ないだろうからだ。
『リーヌス、あんたの意見に賛同する・・・シノブ、話は後でな・・・』
ルアンの方はーーワゴン馬車を見ているな。
しかし、この捻話ってのは便利だな。
こうして、離れていても口を動かさずに会話ができるんだからな。
と、思うクロト。
「お前ら・・・後で話をしようか?」
「ああ、あの時の方ですね? 良いですよ」
こうして、言っておけば後で怪しまれないな。
ルアンも変に思わないだろう。
クロトは、シノブと会話した。
「知り合いですか?」
「あーー? 見たいな物かな・・・」
ルアンは不思議そうな顔をするが、まあ~~知り合いと言えば、知り合いだろう。
連中の事を、名前と顔は覚えている訳だしな。
と言って、ルアンの前でクロトは上手く二人との関係を誤魔化した。
数時間後。
あれから、大分立ったな。
辺りは、すっかり暗くなって街灯の灯りが黄色く光る時間だ。
教会の前で集まり、整列する俺等を淡い光りが照らしてくれる。
今は夕方を過ぎたので、クロトは街の暗くなった様子をボンヤリと眺める。
「今夜は広場で夜営だ、皆はテントで寝てもらう」
ポリーヌは全員の前で、キリッとした顔をしてるな。
はぁ~~テントかぁ、野宿よりはマシだぜ。
整列しながら、ボケっと思うクロト。
「明日は、ハイハルムハイムに向かう、では解散だっ!」
ポリーヌは解散を告げたか。
じゃあ自由時間だ・・・とは行かないよな。
また監視付きだろうな。
俺の監視に誰を付けるのやら。
解散した後も、気を抜けないクロト。
「はぁ~~」
「何を疲れた顔をしているんだ、若僧?」
あん、誰だ。
って・・・長い黒髪、浅黒肌の巨漢。
お前は、イーサンだったな。
後ろを向いた、クロトの前には巨漢が立つ。
「お前に用があるって、あの冒険者の二人組が来てるらしい? 会うのは良いが、お前には監視が付くそうだ」
「イーサン、あんたが付くのか?」
やっぱり信用がないのか。
そりゃあーー監視を付けるわな。
誰かとの面会も条件付きか。
面会制限されるよりはマシだけどよ。
クロトは、今から監視されるのを仕方なしと思った。
「いんや、俺は今から保哨に立つ・・・お前の監視に着くのは隊長だ」
「はぁっ?」
(・・・えぇっ? 隊長《ポリーヌ》の直々・・・)
イーサンから話を聞いて、何のためにと、クロトは驚いたが。
「隊長が今は忙しいから、後で一緒に行くなら話をしていいんだと?」
「何だよ、それ?」
つまり勝手に行動するなと言う事か。
面倒だなと思うが、今は従うしかない。
仕方がない、仕事とやらが終わるまで、ポリーヌを待つか。
イーサンの話に、クロトは不満がるが、それに頼る以外の手段はない。
「隊長は一時間後に教会の裏手で二人と待ち合わせだとよ・・・クロト、お前はここで待ってろよ? じゃあな」
「分かったぜ、イーサン、じゃあな」
(・・・はぁ~~? 一人だけで教会の前で待機かーー? 俺は正式な騎士団員じゃないのにな? 何の罰だよトホホ・・・)
イーサンと別れた、クロトは落胆する。
(・・・まあ実際は誰かが監視がつくのだろうが? しかし隊長が来るまで誰が監視につくんだ? って・・・監視役は隠れて俺を見ているんだろうな・・・まあ良いけどよ・・・)
ポリーヌ率いる偵察隊の思惑を、クロトは感じ取る。
(・・・いっその事ここから脱走しようかな? 何てなーー? そんな事をしようものなら・・・これからの行動に支障を来す・・・この世界を調べ・・・何故俺が蘇ったのかをさぐる旅にな・・・)
クロトは冷静に思案に耽る。
(・・・それに・・・今夜あの二人から色々と話を聞けるっ! だから自分から危険にワザワザ飛び込む必要はない・・・)
と、思至るクロト。
『ブロロロロ』
『ブロロ』
『ブロロロ』
(・・・ん? ルータか・・・二台? いや三台? 小型総装甲車フォードFTーBだっけ? 石畳の上を横一列に並んで走って行ったぜ・・・しっかし便利なもんだよなっ! 馬が引かなくても走る車なんてな・・・千年か? それだけ時が立ったのか・・・)
車列の通る様を眺めつつ、クロトは考える。
千年もの時が、一気に過ぎてしまった彼は一人ぼっちだ。
(・・・寂しいな~~俺一人だけ千年前の人間だもんな・・・世代差が有りすぎだろっ! ・・・)
「はぁ~~」
たった一人、生き残ったクロトは悲しみに暮れる。
(・・・不意に空を見上げりゃ? 星が煌めいているな・・・)
上を向く、クロト。
(・・・まあ今日一日だけで色々な出来事に巻き込まれたからなっ! ふぃ~~~~? 騎士団に魔皇軍か・・・月《あそこ》まで逃げれば騎士団も追ってこられないかな? もし逃げれば月まで騎士団は来るか? ポリーヌ達も追っかけて・・・来れるどころか? まず俺も月にはいけないよな・・・)
月を見た、クロトはじーーと考える。
立ち止まったまま、彼は黄色い光を見つめた。
(・・・まぁーーもし月に行けたら俺はアンデッドだからな? あの暗い宇宙でも平気だろう? てかっ! お袋に聞いた話では宇宙は人間が生きられない場所らしい? ・・・)
クロトは、母マコトから聞いた話を思い出す。
それは宇宙空間に関する事だ。
(・・・っと? その一・・・寒くて凍死? その二・・・空気がなくて窒息死? その三・・・と言うか最初に空気の圧が無くて破裂死っ! ・・・こんなんだもんな? ん? 待てよっ! アンデッドも宇宙じゃ破裂はするのかな? どうだろう・・・)
素朴な疑問が頭に浮かぶ、クロト。
アンデッドですら、宇宙では生活できない。
そんな過酷な場所なのかと、思案する。
(・・・はぁ~~~~~~? 考えても仕方ねぇ? 何もする事ないけど・・・ポリーヌが来るまでは一人ボケーーとしているか・・・)
が、結局は考えるのが面倒になったので、アレコレ考えるのを、クロトは止めてしまった。
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