星野は杉崎を助手席に乗せて茨城県の大学から防衛省へ車を走らせていた。
どうにか焦る気持ちを隠そうと努力したが、運転が荒くなってしまう。
そんな星野の動揺を感じ取っていた杉崎は星野を落ち着かせようと話し出した。
「星野さん、安心してくれ。あくまでも僕の監視役として同行していた事にしてくれて構わない、あなたの立場はよくわかってるし、ここであなたが何かしらの処罰を受けて今のポストから外されてしまうのは、これから先何らかの支障になるのは間違いない」。
「ありがとうございます。でも違うんです、僕はどのみち言及されていた。
その時の為の口実も用意してありました。僕が気になるのは、、」
星野は、杉崎とともに金本の弟や近江教授に接触したことに対しての焦りより、あきらかに杉崎がリーチ会議で虚偽の報告をしたことについて動揺していた。
「杉崎さん、今までリーチの報告で嘘をついたものは居ないんです。これから先どんな処罰が下るかわからないんです。間違って報告したって可能性もあるかもしれないが、近江教授のような会議に出席していないリーチの報告から、あなたの虚偽が故意的だということが裏付けられている」。
焦る星野に対して杉崎はいつになく落ち着いていた。抜き去っていく車を一台ずつ眺めながら話し出した。
「金本が死んだとき思ったんだ、自分もすぐにこうなってしまうのだろうってね。
それに見てくれ、こうやって抜き去る車に乗ってる人たちは僕らに起こってる事なんてまるで知る余地もない。リーチが社会に多大なる影響を与えているのに、そのリーチは社会から外れて行ってやがて死んでいく
それならいっそリーチとして啓示以外の何かを起こしたいんだ。
金本もきっとそう思っていたんじゃないかって思ってる」。
「杉崎さん、、」
これまで数多くリーチの死を目の当たりにしてきた星野にとって、この杉崎の言葉は重く。
その言葉は金本が死んだ時、自身が抱いた思いを新たに鼓舞させる確かな原動力になった。
星野もまた、自分の存在に意味を持たせたいと強く思っていたのである。
車を走らせて一時間程たつと、東京のビル群がまるで二人を責めているかの様に冷たく見下ろしてきた。しかしその頃には、星野はすっかり落ち着きを取り戻していた。
防衛省に到着する手前の信号待ちで、星野が杉崎に質問した。
「杉崎さん、もしかしてこうなる事をわかっていて嘘ついたんですか?」
「そうだよ」。
星野はそれを聴くと、驚いた表情をした後ハンドルに突っ伏して一人笑い出した。
信号が青になっても発進しなかった為、後ろのタクシーにクラクションを鳴らされたが、
この時の星野にとってそんな事はどうでもよかった。
*
二人は防衛省に着くとすぐに警備員に案内され、いつもの会議室に通された。
部屋には会議で進行役を務める(江森光一)と警備員が居たが、江森は束になったファイルに目を通していた。時々険しい顔をしていてはその後に頷きながら次々に読み進めていく。
その様子を見ていた2人に気がついた江森は席に着くように促し、またすぐにファイルを読み出した。
幾許かだが会議室には、紙のめくれる音と江森の独り言が響いていた。
警備員が耳につけたイヤホンを触ると、江森に近づき声をかけた、すると江守は「わかった」と言いながらファイルをきれいに持ち直し、顔を上げた。
その直後、会議室の扉が開くと大臣と見たことのない男が入室し、大臣はいつもの席に腰を下ろした。
一緒にいた男も、大臣の二つ隣の席に案内され腰を下ろしたが挨拶もなく、あらかじめ席に用意されていたファイルに目を通しはじめた。
大臣が着席すると、江森が話し出す。いよいよ来たかと杉崎と星野は改めて意を決した。
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