「オウ……」
「な、なんでこんな山道に南蛮人が……?」
「……身なりはしっかりしている……」
技師は戸惑い、藤花はじっと観察している。
「い、いや、助けましょうよ!」
楽土が声を上げる。
「仕方がないですね……」
藤花が南蛮人の頭を膝の上に乗せてやる。
「ミ、ミズ……」
南蛮人が呟く。
「分かりました。この竹筒をどうぞ……」
「ウ~ン……」
南蛮人が首を静かに振る。
「うん?」
「クチウツシデオネガイシマース……」
「は?」
南蛮人が唇を突き出す。
「セップンヲ……」
「ほう、切腹したいと……」
藤花が右手の爪を伸ばす。
「わー! 藤花さん、しまって、しまって⁉」
楽土が慌てる。技師が笑う。
「まったく、おしとやかじゃないねえ……」
「何ですって……?」
「ちょっとそこを代わりな」
技師が藤花の代わりに南蛮人に膝枕をしてあげる。
「オオウ……」
水も飲んだ技師がふっとため息をこぼす。
「ふ……落ち着いたかい?」
「オ……」
「お?」
「オチチヲナデナデシテモイイデスカ?」
南蛮人が手を伸ばす。
「いいわけねえだろ!」
「オオウッ⁉」
技師は南蛮人の顔に肘鉄をかます。
「わあっ⁉ 何をやっているんですか、技師さん⁉」
「こいつに言え! こいつに!」
技師が南蛮人を指差す。
「オ、オウ……」
南蛮人は鼻を抑えながら呻く。
「……」
「ン?」
また誰かが自らを膝枕してくれたことに南蛮人は気付く。しかし鼻の痛みで、目ははっきりと開けられない。
「………」
「ア、アノ……」
「…………」
「ヘンジガアリマセンネ……」
「……………」
「ト、イウコトハ……」
「………………」
「オサワリイイトイウコトデスネ~」
南蛮人は勝手な結論を出す。
「…………………」
「シツレイシマース……」
南蛮人は膝枕の主の尻に手を伸ばし、触る。
「ん……」
「オオ、オモッタヨリオオキメデース……」
南蛮人は尻を撫でまわす。
「んん……」
「フム、ツギハハンパツリョクヲタメシテミマ~ス」
「んんっ⁉」
「エッ⁉ カタイデスネ~⁉」
「何をやっているんだ、アンタらは……」
「南蛮の方のお考えはよく分かりませんね……」
「ンンッ⁉」
南蛮人が目を開ける。そこには藤花と技師の二人が立っていた。そして、自らに尻を撫でられたり、揉まれたりして、恥ずかしそうに俯いている楽土の姿があった。
「う、うん……」
「エエッ⁉」
南蛮人が慌てて飛び起きる。
「元気じゃないですか……というか、楽土さんも何故されるがままなのですか……?」
「それで元気になるならと思いまして……」
「献身的過ぎますよ……」
藤花が冷ややかな視線を向ける。南蛮人は混乱しかけたが、冷静さを取り戻して身構える。
「バ、バクフノオヤクニンサンデスカ⁉」
「は、はい?」
「違いますよ。どこにこんな珍妙な組み合わせのお役人がいるのですか……」
戸惑う楽土に対し、藤花は冷静に答える。
「デ、デハ、センダイハンノ……」
「そうでもありませんが……安心してください。貴方を突き出したりは致しません」
「オウ?」
「何故、こんな山道に?」
「イヤ~イツモ、ミナトバカリデ、チョットアキテシマイマシテ……」
「なるほど、仙台藩と密貿易していた南蛮の商人か……道理で身なりが良いはずだ……」
藤花が小声で呟く。
「ロクエモンサンカラノオツキアイデース!」
「六右衛門?」
技師が首を傾げる。藤花が説明する。
「大坂の陣より前に、月ノ浦という場所から南蛮に向かった使節のことでしょう」
「ヨクゴゾンジデスネ~」
「それは置いといて……商人さん、貴方の山歩きに同行させてもらいたいのですが」
「エ?」
「と、藤花さん?」
「貴方ならば、地元の者でもほとんど知らないような山道を辿って、ここから仙台の城下町まで行けるのでしょう?」
「エエ、ジジョウヲシラナイヒトニミツカルト、センダイハンノオエライサンタチニモメイワクガカカッテシマイマス。センダイハンハダイジナオキャクサンノヒトツデスカラ……」
「各地のお客さんはそれぞれ大事にした方がいい。私たちも連れていってください」
「エエ……ソレッテコチラニトクガアリマスカ?」
「尻を揉ませてあげたでしょう?」
藤花が楽土を指し示す。
「それがしの⁉」
楽土が思わず、自らの尻を抑える。
「マア、アルイミ、キチョウナタイケンデシタ……イイデショウ、ツイテキテクダサイ……」
「交渉成立⁉」
楽土が面食らう。
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