「町の方の話によればこの辺のようですが……」
楽土が周囲を見回しながら呟く。
「……あれですね」
藤花が指を差す。その先に古いお堂がある。
「あそこですか……」
「また根城にするにはおあつらえ向きの場所ですね……」
「ふむ、見張りがいますね……」
楽土が覗き込んで確認する。
「……」
「藤花さん、一応伺いますが……」
「はい?」
「どうされますか?」
「今さら聞きます?」
楽土の問いに藤花が思わず苦笑する。
「ということは……」
「無論、正面突破です」
「やはり、そうですか……」
楽土が額を軽く抑える。
「逆にお尋ねしますが……」
「はい」
「何か特別な策がありますか?」
「裏手に回り込むとか……」
「楽土さんの大きい体ではすぐに見つかってしまいますよ」
「しかし、正面から乗り込むのは危険ですよ」
「何故?」
「何故って、相手が何人いるのかも分からないのですから……」
「せいぜい十数人くらいでしょう」
「それでも我々よりは多いですよ」
「気にするほどのことではありません。それに……」
「それに?」
「あの町の方々の為にも、根絶やしにした方が良いでしょう」
「ね、根絶やしって……」
楽土が困惑する。
「人攫いをするような連中です。情けは無用でしょう」
「そ、それはそうかもしれませんが……しかし……」
「もういいでしょう、行きますよ」
「あ……」
楽土との話を打ち切り、藤花がつかつかとお堂に歩み寄る。
「ん?」
「なんだあ、女?」
見張りの男たちが怪訝そうな顔で藤花に視線を向ける。
「どうも失礼をします……」
藤花が丁寧に頭を下げる。
「は?」
「なんだ?」
「……!」
「がはっ……⁉」
「ぐはっ……⁉」
藤花が頭を上げると同時に両手の爪で見張りの首を鋭く切り裂く。
「失礼をすると言っただろう……」
藤花は低い声で呟く。
「どうした! はっ⁉」
見張りの男たちの叫び声を聞きつけ、他の男たちが様子を見に来る。
「しゅ、襲撃だ!」
「囲め!」
「距離を取れ! 何か仕込み武器を持っていやがるぞ!」
男たちは距離を取って、藤花を包囲する。
「ふむ、死体の傷を見て、武器に気付いたか……なかなか状況判断はマシなようね……」
「む……」
男たちが武器を構える。
「無駄なこと……!」
「ぶはっ⁉」
「ちぃっ!」
藤花が鋭く爪を振るうが、包囲の内、何人かがその攻撃をかわす。
「ちっ……」
藤花は舌打ちする。
「こ、この女只者じゃねえぞ!」
「うるせえ! そんなことは見りゃあ分かる!」
「うるせえとはなんだ⁉」
「言い合いはやめろ! 冷静になれ!」
「応援に来たぞ!」
男たちは新たに駆け付けた者たちを加えて体勢を立て直し、再び藤花を包囲する。
「私の攻撃に反応するとは……統率もある程度ではあるが取れている……ただの雑兵かと思ったら、そうでもないようね……」
「雑兵だと⁉ 舐めるなよ、女!」
「やっちまえ!」
「ふん!」
「ごはっ⁉」
「うおっ⁉」
向かってこようとした男たちに対し、藤花は反撃を繰り出し、何人かを倒すが、また何人かには攻撃をかわされてしまう。
「……蕎麦屋の娘を攫った時点で気づくべきだった……それなりに足の速い奴を揃えているようね……加えて、そこそこに鍛え上げられている……」
「何をぶつぶつと言ってやがる!」
「まあ、それならそれで……やりようはある!」
藤花が体勢を低くする。
「く、来るぞ!」
「はあっ!」
「!」
「せいっ!」
「‼」
「とおっ!」
「⁉」
藤花は爪で攻撃すると見せかけて、素早く飛び跳ね、両脚のつま先とかかとに仕込んだ刃で男たちの脳天や首を次々と切り裂いていく。
「どはっ……⁉」
「ふう……」
最後の一人を倒し、藤花はため息をつく。
「あ~あ、やってくれやがったな……」
「む……」
お堂の中から長髪で細身だが、締まった体格の男が出てくる。
「俺がせっかく仕込んだ連中をよ……」
「……アンタが頭目?」
「まあ、そんなとこだ……しかし、見事な体術だが、少々はしたないな……女が着物を翻して足技を繰り出すとは……」
「人攫いやスリをするような手癖の悪い奴らには足癖悪いくらいがちょうど良いでしょ」
「はっ……これはお仕置きが必要だな……」
長髪の男が笑みを浮かべる。
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