「くっ……」
「もらった!」
緑の着物の女性が蔦を生やし、楽土を再び縛り付ける。
「ぐっ……」
楽土は手足だけでなく、首も縛られる。
「どうだ、今度こそねじり切ってやる!」
「……ふん!」
「なにっ⁉」
「だあっ!」
楽土が強引に首を振る。緑の着物の女性が引っ張られる形になり、地面に叩きつけられる。
「がはっ⁉」
「ふう……むん!」
蔦が緩んだ隙を突いて、楽土が蔦から逃れる。女性が舌打ちする。
「ちいっ……」
「……」
楽土が女性に近づく。女性が体勢を立て直し、右手を横に薙ぐ。
「『草薙』!」
「む!」
楽土の服が少し破ける。女性が笑う。
「ははっ、どうだい⁉」
「恐ろしく速い手刀……⁉」
「ほう、見逃さなかったかい……」
「そういう攻撃方法もあるんですね……」
「奥の手は取っておくものさ! それっ!」
「……!」
「そらっ!」
「……‼」
楽土は攻撃を受けながらも、じりじりと女性に近づく。
「そ、それっ!」
「……確かに鋭いですが、それがしならば耐えられないほどではないです……。そろそろおしまいにしましょう……」
「ふ、ふん! これが本当の奥の手だ!」
女性が左手も右手と一緒に薙ぐ。
「……むん!」
「⁉」
楽土は盾を突き出す。女性の両腕ははじけ飛び、楽土の盾が女性の体を貫く。
「! お姉ちゃん、やられてしまったかい……」
老人が悲しそうな表情を浮かべる。
「楽土さん、手は出したくないとかなんとか言っていたのに……まあ、盾でもって防いだだけと言えば、そうか……」
藤花はとりあえず納得する。
「……零号を討ち取れたからそれで良しとしようか」
「ちょ、ちょっと待ちなよ、まだ討ち取ったというには早いんじゃないの?」
藤花が問う。
「針は見切った。目での威嚇はあたしには通用しない。爪は折った。手詰まりだろう?」
「知ったような口ぶりだね……」
「はっ、それも当然さ……」
老人が笑みを浮かべながら呟く。
「当然?」
藤花が首を傾げる。
「あんたのことはよく知っているんだ」
「へえ……」
「昔からね……」
「ん? 昔から?」
藤花が顔をしかめる。
「そうさ、あたしが童の頃から……零号、あんたのことは……」
「あー! あー!」
「⁉」
藤花が突然叫び出したため、老人が戸惑う。
「聞こえない! 何も聞こえない!」
藤花が両耳を抑える。
「いや、あんたの噂はこの太平の世になるずっと前から……」
「もうお眠の時間よ! おじいちゃん!」
「!」
老人が崩れ落ちる。藤花の腕のあたりから煙が立ち込める。
「ふん……」
「ひ、肘から鉄砲?」
「ほう、よく分かったね」
「そ、そんな仕込み武器は聞いていない……」
「そりゃあ、滅多に使わないからね、着物に穴が空くから……」
「ははっ、珍しいものを見たのか……見えないけどね……」
老人が大の字になって倒れ込み、動かなくなる。
「藤花さん。からくり人形の刺客でしたね」
「ええ、ですが、小手調べのようですね……」
「小手調べですか?」
「それほどの強さは感じませんでした。そうでしょう?」
「まあ、それは確かに……」
楽土が頷く。
「どうせ番号ももらっていないでしょう……」
「草! 石!」
眼鏡の女性が動かなくなった女性と老人に声をかける。
「……ほらね」
藤花が楽土に目配せする。
「確かに聞いたことのない名前の人形ですね」
「一文字ですしね……私たちの様に二文字与えられていないということは半人前です」
「半人前……」
「……笑うところですよ」
「ええ?」
「冗談です」
藤花が笑う。
「は、はあ……」
「長居は出来ないと思いましたが、今日の内にここを発った方が良いかもしれませんね」
「あの女性はどうします?」
楽土が眼鏡の女性を指し示す。
「連れていきます」
「ええっ⁉」
「技師だというなら、修理などで役に立つでしょう。楽土さん、首根っこ掴んででも連れてきてください。私は馬を取りに行きます。街の出入り口で会いましょう」
「は、はい……」
しばらくして、藤花と楽土、眼鏡の女性が合流する。眼鏡の女性が尋ねる。
「殺さないのかい?」
「技師なら私たちの体に興味があるんじゃないのかい?」
「ああ、大いにね」
「即答かい、気に入ったよ。それじゃあ、行きましょうか」
「えっと、関所の方は?」
「奥の手を使います。少々もったいないですが……」
「! ああ……」
藤花が銭の入った袋をじゃらじゃらとさせる。楽土は賄賂を渡すということを悟った。
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