「消防士なんてしていると、たまに恐ろしいことが起きる」と友人のイムラは言った。
ある日、イムラの知り合いAが火事を出したそうだ。出火元は寝室で、Aは焼死。家は半焼した。それだけでも充分に恐ろしいことだが、イムラが怯えたのはそこではなかった。
焼け残ったAの家の壁に、動物の虐待写真が貼り付けられていたのだ。焼けた鉄の棒を押し付けられた犬。目をくり抜かれた猫。それに内蔵を引きずりだされたハムスター。
それに台所では檻の中でハムスターが窒息死をしていた。おそらくは、虐待用に育てられていたのだろう。
「Aは、幼稚園で保育士をしてたんだ」
そう聞いたとき、俺もぞっとした。
「友達だったわけじゃないけど、僕の嫁さんからすると、子供にやさしくて、なかなか父兄にも人気だったそうだよ。人は見かけによらないというか、なんというか。もし、火事で死ななかったらと思うと、ぞっとするよ」
Aが死んでよかったというような友人の言葉だったけれど、俺には「不謹慎だ」と怒る気にはなれなかった。もしも園児が虐待のターゲットになっていたら取返しがつかない所だった。
「まあ、それも怖かったけど、もう一つ怖かったことがあるんだ」
そう少しもったいぶって、イムラは言った。
「出火原因は、ハムスターにかじられたコードだったんだ。多分、虐待用のが一匹逃げ出したのをそのままにしていたんだろうな。なんだか、ハムスターに逆襲されたようで、怖いと思わないか?」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!