夢幻怪浪

一話読み切りのホラー&奇妙な短編集。非現実っぽいのから現実っぽいのまで。
三塚章
三塚章

怖ろしい事

公開日時: 2022年3月4日(金) 19:00
文字数:601

「消防士なんてしていると、たまに恐ろしいことが起きる」と友人のイムラは言った。

 ある日、イムラの知り合いAが火事を出したそうだ。出火元は寝室で、Aは焼死。家は半焼した。それだけでも充分に恐ろしいことだが、イムラが怯えたのはそこではなかった。

 焼け残ったAの家の壁に、動物の虐待写真が貼り付けられていたのだ。焼けた鉄の棒を押し付けられた犬。目をくり抜かれた猫。それに内蔵を引きずりだされたハムスター。

 それに台所では檻の中でハムスターが窒息死をしていた。おそらくは、虐待用に育てられていたのだろう。

「Aは、幼稚園で保育士をしてたんだ」

 そう聞いたとき、俺もぞっとした。

「友達だったわけじゃないけど、僕の嫁さんからすると、子供にやさしくて、なかなか父兄にも人気だったそうだよ。人は見かけによらないというか、なんというか。もし、火事で死ななかったらと思うと、ぞっとするよ」

 Aが死んでよかったというような友人の言葉だったけれど、俺には「不謹慎だ」と怒る気にはなれなかった。もしも園児が虐待のターゲットになっていたら取返しがつかない所だった。

「まあ、それも怖かったけど、もう一つ怖かったことがあるんだ」

 そう少しもったいぶって、イムラは言った。

「出火原因は、ハムスターにかじられたコードだったんだ。多分、虐待用のが一匹逃げ出したのをそのままにしていたんだろうな。なんだか、ハムスターに逆襲されたようで、怖いと思わないか?」



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