夢幻怪浪

一話読み切りのホラー&奇妙な短編集。非現実っぽいのから現実っぽいのまで。
三塚章
三塚章

スマイルマーク

公開日時: 2022年2月20日(日) 20:13
文字数:668

 それは、友人が友人から聞いた話。

 その人は、夜中どこへともなくドライブをするのが趣味だった。その日も、寒い冬にもかかわらず適当に車を流していたらしい。車につないだ携帯音楽プレイヤーをランダム再生にしていると、あるバンドの歌が流れ始めた。なんとなくその歌を聞きたい気分ではなかったその人は、飛ばしてしまおうとプレイヤーを操作した。

 その途端、プレイヤーの画面が一瞬真っ黒になった。そして確かに操作したにもかかわらず、同じ歌が流れ続けた。そして、耳元で「聴かせて」という少女の声がしたという。暖房を入れていたはずなのに、一気に温度が下がったように思えたそうだ。

  

 そのことがどうしても気になったその人は、異変があった場所を調べてみた。そうしたら、何年か前、そこである少女が交通事故で亡くなっているのが分かった。そのご両親は、娘の命を無駄にしてはならないと、交通事故撲滅の活動をしており、講演やインタビューの記録が残っていた。そこから思った以上に事故の詳細を知ることができたそうだ。

 やっぱり、というか想像通りというか、その少女は異変があったときに流れていたバンドが大好きだったという。

 ちょうどその時、そのバンドはニューアルバムを出したばかりだった。その人はアルバムの曲をプレイヤーに入れ、それを流しながら事故現場近くをしばらくグルグル走り回った。

 そうしたら、どうなったか? 別にプレイヤーに変なことは起きなかったし、声も聞こえなかったという。

 ただ、家に戻って車を降りた時、助手席の、結露した窓の下あたりに、指で小さくスマイルマークが描かれていたそうだ。

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