「俺達のレストランで働くって……。ネリネ、お前は今俺の話をちゃんと聞いていたのか? 今の俺達では人を雇う余裕どころか、食材費の工面にさえ困ってる状態なんだぞ。それなのに……」
「いいえ、デュラン様。だからこそ……です」
デュランの少し怒った口調とは対照的にネリネは顔を横に振ってから、迫り来るように彼の目の前まで体を前へと寄せてこう言葉を続けた。
「デュラン様は私が困っているときに身を挺してまで助けてくださいました。それも銃を突きつけられ、死ぬかもしれないと理解しているにも関わらず。その恩人が困っているのに私が助けない道理はありません。それにお給金のことでお困りなら必要ありません。それでもダメ……なのでしょうか?」
ネリネは途中までの勢いを失い、最後は消え去りそうな小声になっていた。
「そ、そりゃネリネみたいな美人な子がウエイトレスとして働いてくれるなら助かるけどよ、タダ働きさせるって言うのはちょっと……」
そんな自分へと迫り来るネリネの勢いに押し負けそうになり、また悲しそうに声を落とした彼女の潤んだ瞳で懇願されてしまいデュランは少し体を仰け反らせながら言葉を続ける。
「それにほら、ネリネも金が必要だからこうして道端で薔薇なんかを売っていたんだろ? それとも金を得られなくても生活していけるくらい裕福な家庭なのか?」
「……いえ、違います」
そもそも働かなくてもいいほどまで裕福ならばこうして花なんか売っているわけがないし、野外露店でワゴンを使って店を開いているはずなのである。
それの金が捻出できないからこそ道端で売っているわけで、ネリネもまたデュランと同様に何かしらの事情があるからこうして道端で花売りをしていたに違いなかった。
そしてデュランは酷と思いつつも、駄目押しの一言をネリネへと告げる。
「なら、ウチで無償で働くのはそもそも無理なんじゃないか?」
「ぅぅっ」
恩人であるデュランからの拒絶を示す一言にネリネは思わず顔を伏せてしまう。
(だが仕方ないことだよな。今のウチでは彼女を雇い入れ、給金を払うことができないのだから……。それにこうでも強く言わないと彼女の勢いは止まらなかっただろうし)
デュランもまたネリネの悲しそうな顔を見るのは辛かったが、それでも告げなくてはいけなかった。
だがそこでそれまで黙っていたリサが横から口を挟んでくる。
「ねぇお兄さん、ネリネにウチで働いてもらったらどう?」
「いやリサ。お前まで俺の話を聞いていな……」
「あ~っとと、お兄さんちょっとストップ。言いたいことは分かるよ。だけど道端でこうして売るよりも、レストランの中で花を売ったらどうなんだろう……って提案したかったんだ」
リサはデュランが否定する勢いを妨げるように右手を突き出すと、そう説明した。
「店の中で……」
「……花を売る、ですか?」
リサのその説明にデュランもまたネリネまでも、オウム返しに聞き返してしまう。
「うん。ほら道端って通行人が売る対象なんでしょ? でもいくら往来が多くても買ってくれなきゃ意味が無い。だから確実に人が来るレストランの中で花売りをしたらどうなのか? ってのがボクの考えなんだ。それに肌寒い外なんかよりも中の方が温かいからネリネの負担も減るだろうし、さっきみたく変な人に絡まれてもお兄さんが対処してくれるから外よりも断然安全じゃないかな?」
それは下流階級の宿無しならではのリサが実際に体験し、実感が込められてた言葉だった。
「そうか……そう考えることもできるんだな。ネリネの安全を考えるなら、それが1番になるのか」
確かに外で売るよりは店の中で売るほうが安全に違いないだろう。
それにまたネリネは見た目の通り美人であり客が集まるレストランならば、花を売るのも今より容易になるかもしれない。
「それにお店側としてもネリネのような美人な子がウエイトレスとして働いてくれたら、お客さんが集まって絶対に繁盛すると思うよ。それと給金についてもアルフと同じように食事付きの現物支給。お店の利益が出始めてからそれまでの給金を払う。またネリネも花を売ればこれまでと同じようにお金を得ることも出来る」
「悪くはない……いや、それどころかとても良い案だな! もちろんネリネがそれで納得するなら……って条件付きだけどな」
デュランはリサのその説明に感心するように頷いてしまった。
「ネリネはそれでどう? 勝手にボクが喋っちゃったけれども、ウチで働いてみる?」
「はい、もちろんです! デュラン様のお役に立てるのならば、今リサさんが説明してくれたとおりで十分です♪」
リサが再度ネリネの意思を確認するようにそう聞いてみると、彼女は元気良く頷きとても嬉しそうにしていた。
「どうやらリサのおかげで丸く収まった感じだな」
「ええ、リサさんは凄い方なのですね!」
「にゃはははっ。ボクなんて全然大したことないよ~。そんなに褒めないでよ、二人とも~」
リサは頬を軽く指先で掻いたり、髪の先を指の先に巻きつけたりしながらも褒められ照れているを隠そうとしていた。
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