「デュ、デュラン。お前、まさか何かの勝算があって……」
「おっと、お喋りがすぎるのは昔からの悪い癖だぞケイン」
「ぐっ」
察したかのようにケインが何かを口にしようとしたところで、デュランが冷静な口ぶりのまま止めに入ると自分でも心当たりがあるのか、ケインは後ろへとたじろぎ口を閉じてしまう。
「さすがは昔からの幼馴染だね。デュラン君はケインの悪い癖を知っているようだ。はっはははっ」
「ふん! 別に好きでそんなことを覚えているわけじゃないさ。この意味はお前だって大よその検討くらいはつくだろ? 違うか?」
「ふふっ。さてね、私にはなんのことかサッパリだよ」
ルイスはデュランに向けそんな嫌味を口にすると、デュランも負けずに言い返した。
ケインは昔から脇が甘い。
その性格は未だに変わっていないようでルイスもまた、それについての心当たりがあるような口ぶりをしている。
「んんーっ! お話はそれくらいでいいですかな、ルイス様?」
「ん? ああ、そうだな。待たせてすまないなモルガン。……リアン」
「はい、かしこまりました」
長話に痺れを切らせたのか、モルガンがわざとらしく咳きを2回してからルイスへお伺いを立てるようにポーカーの続きを促した。
ルイスはやれやれと言った表情を浮かべるとリアンの名を呼び、再開するよう指示を出す。
(このモルガンってヤツはルイスの操り人形なのか。そしてリアンってヤツも差し詰め雑用をこなす付き人って立ち位置なんだな。ま、執事の服を着ているにも関わらず、ポーカーをしているのもそのためだろう)
たったそれだけの会話なのだが、デュランは彼らの上下関係を見抜いていた。
見た目ふた回りほども年上に見えるモルガンがルイスへ敬語を使い、行動その一つ一つを確認していることから何かしらの命令を事前に受けていると判断することができた。
「それでは私から失礼いたしますね。役は……ダイヤのフラッシュのようですね」
リアンは一言断りを入れてから、手元のカードを皆に見えるようテーブル中央へと置いてみせた。
そこには数字こそバラつきがあるがダイヤの絵柄5枚が揃っており、ポーカーではかなり強いフラッシュという役だった。
「ふ~む……リアンはフラッシュか。執事のクセになかなかやるな。どれ次は私の番だな……スリーカードだ。ふふっ。ま~た、リアンに負けてしまったな。これでは主の面目が保てなくなってしまうな。ははははっ」
ルイスはリアンの手札に目を向けながらも顎を撫で一呼吸間を置いてから、自分の手札をオープンさせる。そこには8と書かれた数字が3枚揃っていた。
またも役でリアンに負けてしまったというのにルイスはむしろ愉快であると言った感じに笑っている。
「……次は俺だな」
ついにデュランの番がやってきた。
未だ一度も裏返していないため、手札を持つデュランでさえも自分が勝っているのか、それとも負けているのか分からない。
「ん……」
「ほぉ~っ。ここにきて随分とケインは運が上向いてきていたのだな」
「フォーカードのようですね……それも4の……」
ルイスが嫌味な視線をデュランの背後に居るケインへと差し向けニタニタと笑いながら、そんな嫌味を口にする。デュランが意を決してカードを捲ると、そこには4と書かれた数字が4枚揃ったフォーカードと呼ばれる役だった。
フォーカードはルイスのスリーカードよりも、そしてリアンのフラッシュよりも強い役であった。
これに勝てる役は絵柄が同じ且つ数字が連続して5枚揃うストレートフラッシュか、10・J・Q・K・Aっと数字が強い順番に揃い絵柄も全部同じく揃ったロイヤルストレートフラッシュだけである。だがそれらの役が揃う確率はストレートフラッシュですら、一生に一度あるかどうかの超幸運な役である。
デュランが今出したフォーカードですら、年に1回でも出れば幸運と呼ばれるほどであった。
「デュランっ! やったな!!」
「元はお前のカードだろ? これはお前が引き寄せた運じゃないか」
「いいや、お前が代わってくれなかったら俺はそのカードすべてを交換していたはずだ。でもこんな強い役がこの一番で出るだなんて信じられないぞ!」
ケインはこれまでこのように強い役が出たことがなかったのか、まだモルガンの手札が出ていないのに自分達の勝ちを確信したかのように、とても興した様子でデュランの両肩に手を乗せ喜んでいた。
けれどもそれに対してデュランは落ち着き払い、然も当然と言った表情のまま余裕の笑みを浮かべるだけである。何故ならまだモルガンの手札は開かされず、勝ち負けは決まっていないのだから。
「お次はアンタの番だぜ。さぁ早く手札を見せてみろっ!」
「くくくっ。はあぁ~っはははははっ」
「むっ!?」
デュランが自信満々に正面に座っているモルガンの方を指差しながらカードを捲るように指示を出したのだが、何が可笑しいのか彼は突如として大笑いをはじめた。
この大一番で負けてしまったことで気が触れたのか、それとも……。
「……何を笑っているんだ、アンタ。もしかして負けちまったから、そんな笑いを……」
「いいや、違う。お前のカードが4のフォーカードだったのが可笑しくてな! このときこの場において、とても不吉すぎるカードではないか!」
確かに数字の4とは死を連想させ尚且つそれが4枚揃っているため、あまりにも偶然が重なりすぎていると言えよう。
だがそれと同じほど……いや、それ以上にモルガンが持つ手札は更なる偶然と奇跡に満ち溢れるものだった。
「いいからさっさとお前のカードを出してみろよっ!」
「ふふっ。青二才は早死にを求めるか。よし! いいだろう……これがワシのカードだっ!!」
勝負の勝ち負けが一番気になっているケインが落ち着かない感じにモルガンへそう呼びかけると、彼は誰よりも自信満々の顔と満面の笑みを浮かべカードをオープンさせた。
そこには10~Aまでの数字が5枚揃い、そして絵柄のクローバーまでもすべてが揃っていた。
「あ……あ……ああ……」
「が~っははははははっ。どうだ、これで身の程というものを理解しただろう若造風情がっ!!」
それを見た瞬間、先程まで自信満々の笑顔だったケインの顔がまるで嘘のように崩れ、見る見る青ざめ終いには崩れ落ちそうになったが、どうにか椅子に腕を引っ掛けて踏みとどまる。
モルガンの役……それはポーカーにおいて一番強い役であり、本来一生に一度出るか出ないかという超幸運のロイヤルストレートフラッシュだった。
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