名誉のため戦地で頑張りましたが逆に捕虜にされ、国に戻ると今度は従兄弟に財産を奪われ婚約者からは婚約破棄された挙句、貴族として没落させられました。

没落貴族の歩ませかた ~デュラン公爵の成り上がり~
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第69話 人との繋がり

公開日時: 2020年11月13日(金) 00:15
文字数:2,078

「マダム、ここがアンタが言っていた例の店なのかい? なんだかあまり流行っていないようだが?」

「ああ、そうだよ。もしかしてあたいを疑っているのかい?」

「いや、そうではないが……」

「なら、アンタらは黙ってあたいに付いて来りゃいいんだよ。え~っと、ああ居た居た。お兄さん、少しだけど客を連れて来てあげたからね!」


突如として店のドアを叩いたのは、見るからに年配の女性や男性ばかりだった。

そしてその先頭に立ち、彼らを引き連れている中年の女性にデュランは見覚えがあった。


「貴女は……市場の果物屋の店主?」

「なんだいなんだい、もしかしてあたいのこと忘れちまったとでも言うつもりなのかい?」

「いや、忘れてなどいないが、一体どうして貴女がここに?」

「どうしてって、アンタねぇ~……あたいが遊びにでも来たと思っているのかい? さっきも言ったけど、客としてこのレストランを訪れたに決まってるだろ! さぁあたい達は食べてからも仕事があるんだよ、早くお出しよ」

「あ、ああ……わ、分かった!」


どうやら彼女はデュランに言っていた通り来店する約束を守っただけではなく、市場で働くほかの店主達も客としてこの店へと連れて来てくれたみたいだ。

そして時間が無いのか、デュランに急いで料理を振る舞うよう発破をかけ急がせた。


「なぁ、デュラン。これってばよぉ~、一体何がどうなっているんだ?」

「詳しい説明は後だ、アルフ。今はせっかく来てくれた客をこなすのが先決だ。俺はリサ達に準備してくれるよう言ってくるから、席への案内と水を頼む」

「わ、わかった任せとけっ!」


アルフの戸惑いも尤もだったが、デュランは彼女達市場で働く店主が急ぎ昼食を取りたいとその経緯は説明せずに料理を早く提供できるよう急ぎ厨房へと向かった。


「リサ、ネリネっ! 客だっ! それもいっぺんに十数人の団体だぞ。どうも急いでいるみたいだから、こっちもなるべく早くしてくれっ!!」

「わわわ、そんなにたくさん来ちゃったの!? じゃあ、コレを先に持って行っていいよ!」


リサも慌てた様子で自分達が食べるはずだったスープとパンを先に提供するようにと、デュランに手渡してきた。


「ネリネはスープをお願い。既に温めてあるから後は器に盛り付けるだけだから大丈夫だよね? ボクはその間にオーブンでパンを温めるから、後々皿もお願いね」

「わ、分かりました」


リサはネリネにスープを木の器に盛りつけるよう指示を出してから、自分は黒パンを温めるためっとオーブン釜にパンを大量に突っ込んでいた。


「このコップに水をセットして、後はオーブン脇に入れるだけっと……」

「リサ、パンをオーブンに入れる意味って……」

「お兄さん説明はあとで。それよりもスープとパンが冷めちゃうでしょ。見惚れていないで早くそれを持って行ってよ!」

「そ、そうだったな。すまん」


デュランは黒パンをオーブンに入れる意味を質問したかったのだったが、リサに早く客達に提供するように言われてしまい両手にスープとパンの皿を持ったまま早々に厨房を退散する。


「お、おまちどうさまでした」

「なんだい、案外料理が来るのが早かったね。んん? な~るほど、スープと一緒に黒パンも提供するわけかい。こりゃ考えたね!」


デュランはまず彼らのリーダー格(?)と思われ、『マダム』と呼ばれた顔見知りの果物屋店主である中年の女性にスープと黒パンを先に提供した。

何故なら彼女が主導で他の店主達も連れて来てくれたので、一番重要人物であると考えたからだ。


こういった場合にはまず行く店を決めた人物を重要と位置づけ、料理を先に提供することが最も重要なことである。

これだけ……十数人の人達をまとめ上げ、昼食を取るレストランを決めることができるのはそれだけの人望があるか、もしくはその集団のリーダーであると結論付けられるからだ。その人の機嫌を損なえば一度目は義理で来店してくれても、二度目はない。


「おっ……なんだいなんだい、この黒パンまだ温かいじゃないかい。もしかして店で直接焼いているのかい? それにこんなにも柔らかくて、まるで高級な白パンのようじゃないか。一体どんな魔法を使って焼き上げたんだか不思議だねぇ~」

「それは……」


マダムは徐に黒パンを手で千切ると感心するようにそんな感想を述べた。

けれどもデュランはまだその黒パンを一口すらも口にはしていなかったので、どう答えてよいのやらと迷ってしまう。


「ふふっ。そんなの簡単だよ。オーブンで再度温め直した、ただそれだけだもん」

「んんっ!? こりゃ珍しいのがいたもんだ。アンタ、リサだろ? なんでここに?」

「にゃはははっ。コンニチハ、マダム。ちょ~っとした理由でこのレストランで働くことになったんだよ」


リサは両手と両腕に黒パンが乗せられた皿を2枚ずつ持ち運び、その後ろにはネリネが両手に1つずつ木の器に盛られたスープを運んでいるのが目に入った。

そしてどうやらマダムとリサは顔見知りなのか、とても親しそうに挨拶を交わしている。


けれども野外市場に出入りしているリサのことだから、彼女達に顔が知れ渡っていっても何ら不思議なことではなかった。

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