名誉のため戦地で頑張りましたが逆に捕虜にされ、国に戻ると今度は従兄弟に財産を奪われ婚約者からは婚約破棄された挙句、貴族として没落させられました。

没落貴族の歩ませかた ~デュラン公爵の成り上がり~
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第47話 薔薇に感謝を

公開日時: 2020年11月8日(日) 23:21
更新日時: 2020年11月24日(火) 13:01
文字数:2,113

「名前? あ~っ、そういえばネリネの名前は聞いたけど、俺達の自己紹介はまだだったな。俺の名前はデュラン。デュラン・シュヴェルツだ。で、こっちがリサ・ラインハルト」

「よろしくね、ネリネ♪」

「デュラン様とリサさん……ですね。先程は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」


ネリネは改めて礼の言葉を述べると、優雅にも両端のスカート部分をチョコンっと指で摘みながら頭を下げた。

それがとても様になっており、そして気品溢れるお辞儀だった。デュランもリサもそのあまりの綺麗さに目を奪われてしまう。


「あ、あのぉ~、お二人ともどうかされたのですか? 私の顔に何か付いていますでしょうか?」

「……あっ? ああ、いやいや……何でもない。別に顔が汚れているとかじゃない」

「うん。ネリネの行動があまりにも綺麗だったから、ボクもお兄さんも目を奪われてただけだよ」

「あら、そうなのですか? ふふっ」


デュランは敢えて言葉を濁したにも関わらず、それとは逆にリサは直接的にネリネにそう告げたのだった。

それを聞いたネリネはどこか嬉しそうに微笑む。


「おい、リサ!」

「でもでも、本当のことでしょ?」

「うっ……それはそうなんだけどな」

「ふふっ。お二人は仲がよろしいのですね」


デュランがそれ以上喋られないようにとリサの脇腹を軽く肘で突いたのだったが、止めるどころか逆にデュランの態度をはっきりさせようと再確認されてしまい、彼は頷く他なかった。

そんな二人のやり取りを目の当たりにしていたネリネは先程よりも更に優しく微笑んでいた。


「そういえばネリネは……あっ、今更だけど君のことを『ネリネ』って呼び捨てでも構わないか? もしダメならちゃんとするが……」

「はい、もちろんですわ。こうして助けていただき、せっかくのご縁ですもの。どうぞ遠慮なさらずに私のことはネリネ、っと呼び捨てになられてくださいませ♪」


デュランは恥ずかしさを誤魔化すため話題を変えようと思ったのだが、そこで彼女のことを勝手に呼び捨てで呼んでいることに気づきそう確認した。

ネリネは不快そうな顔をするどころか、まるで友達が出来たと言わんばかりに頬を綻ばせ嬉しそうに喜んでいた。


「それじゃあボクもお兄さんと同じく、これからはネリネのことをネリネって呼ぶようにするね♪ ボクのことも気軽にリサって呼んでいいよ」

「はい♪ わかりました、リサさん……ですね」


リサとネリネも打ち解けたかのように互いの名前を呼び合い、嬉しそうにしていた。


「ご、ごほんっ。それでネリネ、君は花売りらしいのだが……」

「そ、そういえば私の……私の薔薇が」

「薔薇?」


デュランは話を元に戻すため、わざとらしく咳払いを一度したのだったがそこでようやくネリネも我に返ったのか、自分の大切な商品である薔薇の存在を思い出すと、今は見るも無残な姿に変わり果ててしまった薔薇だった物が散らかる道路を見つめてしまうのだった。


「ごめんなさいね……私が不甲斐無いばかりにアナタ達が犠牲になってしまって……ぅぅっ」


ネリネはまるで大切な宝物を扱うかのように地面へと膝をつき、車輪に轢かれバラバラに切断され泥で汚れている赤い薔薇だった蕾を両手で包み込み自らの胸元へ寄せ謝罪していた。


「ネリネ……」


そんな彼女の悲しそうな顔と投げかける謝罪の言葉を目の当たりにしていたデュランとリサも、まるで自分のことのように同時に心を痛めてしまう。


「きっとさ……」

「……えっ?」


涙を流すネリネの手にデュランは優しくそっと手を重ね合わせこう言葉を紡いでいく。


「きっとこの薔薇はネリネのことを守ったんだと思うぞ。自分が犠牲となることで持ち主であるネリネを守り、そして……散っていった。だからネリネがいつまでも悲しそうにしていたら、身代わりになった薔薇達だって悲しむんじゃないのか?」

「ほんとうに、そう……なの……でしょうか?」


デュランのその言葉にネリネはまるで救いを求めるかのように、風が吹いたら消え去りそうな小声でそう呟いた。


「ああ、もちろんそうさ! そうに決まってるっ!! それに……この薔薇は持ち主に幸せをもたらしてくれる『幸福の薔薇』ってウリなんだろ? なら、それを売っているネリネが涙を流して悲しそうにしていたら駄目なんじゃないか?」

「そう……そうですよね。この子達も、きっと悲しみますよね」


そう言いながらデュランが重ねている手を退けると、ネリネは両手を開き大事そうに包み込んでいた薔薇へと目を向けこう言葉をかけた。


「ありがとうね……みんな、ありがとう……っ」


ネリネは感極まって再び泣き出しながら、薔薇達に感謝の言葉を呟いていた。


「ネリネ……今言ったばかりだろ」

「ええ、ええ。ですが、それでも涙が自然に溢れてしまって……」


ネリネは今も流れ出る涙を指で拭うのだったが、次から次へと流れ止まることはなかった。


「まったく……」

「えっ?」


何を思ったのか、デュランは地面に座り込む彼女の頬に優しく手を添え包み込んだ。


「ネリネ幸せってのは、君が笑顔になることだと俺は思うぞ。だから今は悲しくとも笑わないとな」

「……は、い」


デュランはそう優しく語りかけながら、今も彼女の頬を流れる涙を親指の腹で掬っていった。

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