名誉のため戦地で頑張りましたが逆に捕虜にされ、国に戻ると今度は従兄弟に財産を奪われ婚約者からは婚約破棄された挙句、貴族として没落させられました。

没落貴族の歩ませかた ~デュラン公爵の成り上がり~
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第53話 国が変わるきっかけ

公開日時: 2020年11月9日(月) 20:14
文字数:2,490

「もしアイツらと戦いたいならば、真正面から勝負するしかないのだけれども……」


それ以上デュランは言葉を口に出来なかった。

実際問題として、資金も権力も人材までもすべてにおいてオッペンハイム商会に勝てるものはいない。


「だがな……」

「えっ?」


ネリネのふとした聞き返しにデュランは反応せずに、こう言葉を続ける。


「だが、さっきのように相手が墓穴を掘ってくれれば別の話なんだ。金がどんなにあろうともいくら権力で上から抑えようとしても、どうにもならないことは必ず存在する。だからその一点を上手いこと誘導するか見つけるかすれば、あるいは……抗うことができるかもしれない」


デュランは目を瞑り先程ルイスに拳銃を突きつけられた時の出来事を思い出していた。


彼はオッペンハイムの当主である。本来ならばデュランのような名も無き貴族は愚か、庶民だろうと撃ち殺そうがワケがないことだったであろう。

けれども彼は多すぎる民衆の目の前でデュランを殺すことが出来なかった。


それは一体何故なのか?


それは……時として数の暴力の前では絶対的な資金力や権力は無に返り意味を成さないからである。つまり市民暴動、果ては『革命』へと繋がることなのだ。


国が正常に機能し平穏ならば、庶民は金や権力に従うほかない。

けれども不満が高まり一度暴動または革命へと繋がってしまえば、そんなものはゴミ以下の存在になってしまうのである。


「市民暴動、あるいは革命……その前ではいくら強大な権力を持つオッペンハイム商会と言えども、無力なものだ。大昔にあったフランスでの革命を知っているだろ? あれこそまさに民衆の怒りが爆発した最たる例だ」


フランスとは欧州にある小さな国であるが、周りの国に次々と戦争を仕掛けることで勢力を伸ばした国であった。


だがそれも長引く戦争による若者の徴兵制度や国民から集めた税を王族や貴族達の贅沢品に対する浪費に使った結果、次第に国自体の経済が破綻を迎えてしまうと、日々の生活に必要な食料品が値上がりするなどあまりにも国民に無理強いをしたため、ついには国民の不平不満が爆発して革命が起きてしまい最後には国自体が転覆してしまったのだった。


そして国の治安や経済が安定するのと時を同じくして国家主導から国民主導の国家へと移り変わることで、以前よりも発展を遂げた国の代表でもあった。


またそれまで常識として行われていた奴隷制度の廃止や王権制度の廃止、人を人として扱う人権が尊重され、国民一人一人が生存する権利と共に下流階級などの身分に捕らわれず平等に扱われる権利を有することになったのだ。


「その国の民が変われば、やがては国も変わる。いや、常に変わらなければこれからの世の中を生きてはいけないだろうな。それこそ国民一人一人がその自覚を持つことで、国をより良く変えることができはずなんだ」


デュランは二人にそう説明しながらも、自ら言い聞かせるようにそう呟いた。


「あっ……」

「どうしたリサ?」

「いや、今の話……フランスの革命で思い出したんだけど、最近下流階級の間で変な噂が流れているのを思い出して……」

「変な噂? 下流階級の間だけで、か?」

「うん、実はね……」


リサの話によれば、ここ最近の貴族や一部大商人のあまりにも横暴すぎる態度から妙な噂が街中で囁かれているのだという。

それも正当な賃金に対する不払い時や物価の上昇時、果ては解雇された労働者達が不満を口にするのと同調するかのように、瞬く間にその噂までも広まり続けているらしい。


「だからね、もしかするとだけど近々……」

「民衆の暴動なり革命でも起きるかもしれないか」

「うん」


デュランが貴族であると知っているリサは少し気まずそうにそう告げると頷いた。

その話を聞いたデュランもまた苦虫を潰したような顔をしてしまっていた。


何故なら一度暴動や革命が起きてしまえば、日々の食生活を賄う食料品などはもちろんのこと燃料や薬など生活に必要最低限の物資までも破格的なまでに値上がりしてしまうのが世の常である。

そして下手をすれば大規模な失業への引き金となり、ひいては大恐慌を引き起こして国中で使われている貨幣や株式などがただの紙くずになる恐れもあるわけだ。


また事はそれだけに留まらず、貴族や王族などもその地位を剥奪され最悪の場合には見せしめとして処刑されかねない。

実際フランスの国では貴族や王族などが次々と処刑され、革命への旗印として使われた実例もあったため、没落した貴族の家柄であるデュランやリサと言えども決して他人事ではなかったのだ。


「なぁリサ。その噂って具体的にはどんな感じなんだ? 例えば実際に暴動への兆しがあるのか、それともただ漠然とした噂の域なのか、それによっても違うよな?」

「そうだね。一説によるとグループというか、組織みたいなのが作られてるって噂もあるね。確か名前は……」

「おーい、デュランにリサっ! 店の真ん前を通り過ぎちまって、一体どこへ行く気なんだぁ~?」


そうリサが何かの名前を口にしようとした瞬間、ふと後ろの頭上付近から声をかけられた。


「アルフ? なんで……って、ああもう店に着いていた。というか、いつの間にか店の前を通り過ぎていたんだな」

「なんだよそりゃ? 自分の店だってのに通り過ぎるってお前なぁ~、もうボケちまったのかよデュラン? はっははははっ」


ペンキ缶片手に脚立の上からアルフがそう声をかけると、デュランのことを盛大に笑っていた。


どうやら彼は店の玄関上に設置されている出っ張りの木製看板をペンキで塗っている最中のようだ。

デュランが見上げれば、店の名前である『悪魔deレストラン』という文字と共にここがレストランである証のフォークとナイフ、それにエールなどを提供するバーも兼ねている証である木のジョッキのロゴマークが真新しくなっているのが目に入った。


「にゃははっ。は、話に夢中で気づかなかったね。失敗失敗♪」

「すみません、知っていればお二人にお知らせしたかったのですが、何分お店の名前も知らなかったもので……」


リサは苦笑いしながらそう誤魔化し、ネリネはそもそも店の名前すら知らなかったため伝えようがなかった。

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