イザベラが杖を取り出した。
彼女の魔力に反応してか、先端の赤い宝石が輝き出す。
闇の瘴気に汚染されてからのイザベラは、闇属性の魔法を得意としている。
「【影縫い】」
イザベラの放った魔法により、アリシアの身体の自由は奪われた。
「うっ……なに、これ……!?」
「闇魔法の一種よ。対象の動きを止めることができるの。これであなたの動きを封じたわけ」
「そ、そんな……」
「ふふん、いい気味だわ。あなたにはお仕置きが必要よね……。たっぷりと可愛がってあげるから覚悟なさい!!」
イザベラはアリシアに迫る。
その様子を、一人の男子生徒が物陰から見ていた。
フレッドだ。
彼は愛しい姉の暴走を止めるのだろうか?
否、止めることはない。
では逆に、愛しい姉の暴走に加担するのだろうか?
それも否である。
彼の思惑は、別にある。
(全ては予定通り……。あの女の演技も上々か……。後は役者を揃えるだけだ)
彼は邪悪な笑みを浮かべる。
アリシアとフレッドは、共通の目的のために結託していた。
イザベラとエドワード王子の婚約を何とかして破棄させるという目的である。
(ごめんなさい、姉上。でも、これしかないんです。僕と姉上が結ばれるためには……)
イザベラとフレッドは義理の姉弟だが、直接の血縁関係はない。
結婚は可能だ。
ただし義理の姉弟であることも事実。
貴族界において、義理の姉弟での婚姻などほとんど前例がない。
彼が愛しい姉と結婚するためには、強引な手段を用いるしかないのだ。
彼は気配を消したまま、イザベラとアリシアの様子を見守る。
ちょうど、イザベラがアリシアを平手打ちしたところだった。
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