酔っ払った私を介抱してくれていた優しい男性は、なんと私の義弟のフレッドだった。
「フレッド?」
「ええ、僕はフレッドですよ。姉上」
彼は笑顔で答えてくれた。
やはりそうだ。
間違いない。
なぜ今まで気付かなかったのかしら?
彼の声は、幼い頃からずっと聞いてきたものなのに。
「僕の愛しい姉上……」
彼はそう言うと、さらに顔を近づけてきた。
近い!
ちょっと待って。
いくらなんでも急すぎる。
まだ心の準備が出来ていないわ。
あともう少しだけ時間をちょうだい。
「フレッド、落ち着いて。私たちは姉弟よ」
「確かにその通りです。僕たちは、お互いに世界でたった一人の姉弟ですね」
「ええ、だからこういうことはしてはいけないと思うの」
「いいえ、姉弟だからこそ、燃え上がる関係もあると思います」
「それは……」
フレッドの言葉に私は動揺する。
確かにそういうこともあるかもしれないけど……。
でも、私たちの場合は違うでしょう。
「とにかく落ち着きましょう。一度離れて……」
「嫌です」
「フレッド、お願いよ」
「嫌です」
「フレッド、私のためにも……」
「嫌です」
「フレッド……」
「……」
「フレッド?」
「……」
フレッドは何も言わなくなった。
代わりに、規則正しい寝息が聞こえてくる。
どうやら眠ってしまったらしい。
「良かった……。とりあえず窮地は脱したわね」
私はホッと胸をなでおろす。
フレッドは穏やかな表情で眠っている。
とりあえず一安心だ。
「フレッド、私もあなたのことは好きよ。姉としてね」
本音を言えば、異性として好きな気持ちがほんの少しくらいはなくもない。
彼は、前世でハマっていた乙女ゲーム『ドララ』の攻略対象の一人だからね。
顔は整っている。
身分も、養子ではあるがアディントン侯爵家の子息だ。
座学、護身術、ポーションの調合、毒物の知識などに長けている。
性格は穏やかで優しいが、ときにグイグイ攻める情熱的なところもある。
それに何と言っても、あのエドワード殿下の側近候補なのだ。
将来性抜群だと言っていいだろう。
(って、ダメダメ。血は繋がっていなくとも、フレッドは私の弟なんだから。もしお父様にバレたら、バッドエンドに繋がるかもしれないし……)
血が繋がっていないとはいえ、姉弟で結ばれるのは倫理的に良くない。
これは断じて許されざる行為である。
そう、これは許されない恋。
禁断の関係だ。
(さっきは不覚にもドキドキさせられてしまったわね。彼が眠っている今の内に、気持ちを落ち着かせないと……)
私はフレッドの寝顔を眺めながら、息を整えていくのだった。
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