イザベラが王立学園の階段を下りていたところ、とある光景を目撃した。
それは――。
「えぇっ! エドワード様、すごいです! また筆記試験で首席を取られたなんて……」
「いや、大したことがないと思うがな」
「そんなことないですよ! わたし、感動しました。尊敬します!」
「そ、そうか? はは……」
イザベラは声の主の方を見る。
そこには、エドワードとアリシアがいた。
二人は親しげな雰囲気で話をしている。
(アリシア・ウォーカー……。たかが男爵家、それも卑しい平民混じりの分際で、エドワード殿下と親しくするなんて……)
イザベラはアリシアに対して嫌悪感を抱く。
アリシアはエドワードルートにおいて、悪役令嬢であるイザベラを破滅に導く存在だった。
エドワードルートでは、アリシアとイザベラは彼を巡って対立する。
最終的に、エドワードとアリシアの絆の強さを見せつけられたイザベラは嫉妬に駆られ、アリシアを虐めるようになる。
「……許せないわ」
イザベラの中で、どす黒い感情が湧き上がる。
愛しい婚約者にすり寄る女の存在など、許容できるはずがなかった。
「では、また後で……」
「ああ、それではな」
アリシアとエドワードは、イザベラの存在に気付く前に会話を切り上げ、別れた。
それを見たイザベラ。
本来であれば、愛し人のエドワードの方に向かっていたことだろう。
しかし今の彼女の精神状態はそれどころではなかった。
「…………」
イザベラはアリシアを睨みつけながら、彼女に近づいていく。
すると、アリシアは視線に気づいたようで、びくりと肩を震わせた。
「あ、あの、これは……」
アリシアは何やら言い訳じみたことを口にしようとする。
だが、イザベラはそれを遮るように口を開いた。
「あなたのような下賤の者が、エドワード殿下に馴れ馴れしくするのは止めて頂戴。不愉快よ」
イザベラの口から発せられた言葉を聞いて、アリシアの顔が凍りつく。
それは紛れもなく、嫉妬の感情に駆られた醜い言葉だった。
以前の彼女であれば、このようなことを言うことはないはずだ。
しかし闇の魔力を纏ったイザベラは、もはや自分の感情を抑えることができなくなっていたのだった。
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