乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

75話 二人で

公開日時: 2022年7月30日(土) 11:05
文字数:1,024

 とある秋の昼下がり。

 私はアリシアさんから秋祭りに誘われた。


「あら、嬉しいお誘いね。アリシアさんから誘ってくれるなんて。もちろん、いいわよ。私もアリシアさんと一緒だと楽しいし」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 アリシアさんはとても嬉しそうな顔をしている。

 そんな彼女の顔を見ると、こちらまで楽しくなる。


(それにしても、アリシアさんが私と祭りに行きたがるとは意外だわ。『ドララ』ではそんな描写なかったはずなのに。……まあ、ヒロインと悪役令嬢だからそれも当然なのだけれど)


 『ドララ』は、主人公アリシアが学園で他の攻略対象と出会い、恋に落ちていく物語だ。

 そして、悪役令嬢イザベラはその恋の邪魔をする。

 最終的に、イザベラは断罪され、学園を去ることになる。

 予知夢では、追放どころかその場で殺されてしまった。


(まあ、私は別にアリシアさんをいじめたりしないつもりだし、むしろ助けてあげようと思っているくらいなんだけどね。だって、アリシアさんはいい子なんだもん)


 ゲーム通りに進むとは限らない。

 実際、ゲームの強制力のようなものも感じないし。

 このまま『ドララ』のルートからどんどん逸れてしまえばいいのにとさえ思う。

 アリシアさんと仲良くなって以来、私は彼女に好意を抱くようになっていた。

 それは恋愛的な意味ではなく、友情的なもので。

 彼女と話していると、とても楽しい。


「他の人は誰か誘うの? 例えば、エドワード殿下とかさ」


「いえ! わたし、まだ誰とも約束していないです。エドワード殿下なんて恐れ多いですよぉ」


 アリシアさんは『ドララ』のヒロインだ。

 でも、この世界では本来の攻略対象であるエドワード殿下、カイン、オスカー、フレッドと特に親しくなってはいない。


「ふふっ、確かに。でも、アリシアさんは優しいから、すぐに仲良くなると思うけどな」


 実際、同学年のオスカーとは最低限の会話ぐらいはするようになった。

 また、私の義弟フレッドとは、下着姿を見られてしまった仲だ。

 あれは、下着姿で私のベッドに潜り込んでいたアリシアさんも、制止の声を聞かずに部屋に入ってきたフレッドも悪いのけれど……。


「わたしはイザベラ様と二人で回りたいです!」


「そう? 分かったわ。じゃあ、詳しい日程が決まったら連絡するわね」


「はい! よろしくお願いします!」


 アリシアさんは元気よく返事をして、自分の教室へと戻っていった。


「さて、私も午後の授業に行こうかしらね」


 午後の授業は錬金だ。

 しっかりと学ばせてもらうことにしよう。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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