乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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70話 聖女のような慈悲深さ

公開日時: 2022年7月27日(水) 15:21
文字数:1,045

「イザベラさんがこの魔獣を討伐したらしいぞ!」


「さすが、昨年度の主席合格者だ!」


「二年生になった今も、ずっと成績トップを独走してるだけあるわね」


「カッコイイー!!」


 生徒たちが口々に褒め称える。

 ちょっと待て。

 どうしてそうなった?

 私は慌てて否定しようとする。

 だが、それよりも先に、オスカーが話を続けた。


「私は魔獣の動きを止めるために氷魔法を使いました。ですが、それだけでは討伐には不十分。イザベラ殿は、魔獣を倒すための追加攻撃を行いました。それがこれです」


 そう言って、彼は魔獣の頭部を指し示した。

 いや、正確に言えば頭があった場所か。

 魔獣の首から上には何もない。

 私が切り飛ばしたからだ。


「「うおぉぉぉっ!!!」」


 盛り上がる一同。


「まさか……首を吹き飛ばすほどの剣技をお持ちだとは……」


「あの細腕からは想像できない力だな」


「あんな華奢な身体のどこに、それほどの力が秘められているのかしら……」


 何故そんなにあっさり信じるのか。

 もっと疑ってくれてもいいんだよ?


「イザベラ殿の一撃は見事でした。首を一太刀ではねる。まるで聖女のような慈悲深さを感じさせられました」


 オスカーが爽やかな笑みを浮かべながら、そんなことを言う。

 何だそれは?

 私はただ、無我夢中で剣を振るっていただけだ。

 そこに聖性など欠片もない。

 オスカーは私を持ち上げ過ぎだ。

 やめてくれ。

 恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になる。


「イザベラさん、凄いですわね」


「最高です……」


「イザベラ様、抱いてぇ……」


 女子生徒達の黄色い声援が聞こえる。

 おいコラ、最後のヤツ。

 お前は後で説教だからな。

 私を一体なんだと思っているのか。

 もうダメだ。

 早く何とかしないと……。


「オスカー様は大げさですわ。私はトドメを刺しただけ。その前の、オスカー様の氷魔法による拘束が完璧だったので、スムーズにトドメを刺せたんです。それに、アリシアさんの光魔法によるサポートも素晴らしいものでした。お二人がいなければ、魔獣を倒すことはできなかったでしょう」


 私は冷静に分析し、オスカーとアリシアさんに手柄を押し付ける発言をする。


「イザベラ殿……」


「イザベラ様ぁ……」


 オスカーとアリシアは感動に打ち震えている様子である。

 よし、これでどうにかなったはずだ。

 魔獣を率先して討伐したなんて広まったら、淑女としてマズイからね。

 私の名誉は守られた。

 一件落着である。

 ……一件落着だよね?

 オスカーとアリシアさん、頼むからこれ以上余計なこと言わないでくれよ。

 私は心の内で祈るような気持ちになっていたのだった。

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