乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

93話 むっきぃ~

公開日時: 2022年8月17日(水) 09:23
文字数:1,029

 私はアリシアさんとフレッドと共に、秋祭りを回っている。

 二人もそれなりに仲が良さそうで助かった。

 アリシアさんが時々フレッドを凄い顔で睨んでいるのは、気のせいだろう。

 それよりも憂慮するべきは、私の記憶力についてである。

 私が考え込んでいると、二人が食べ物を奢ってくれるという話になった。


「では参りましょう。姉上のお腹が鳴ってしまう前に」


「そうですね。イザベラ様の胃袋は無限大ですし」


 二人は何やら失礼なことを言いながら、屋台に向かっていく。

 そして、それぞれ別々の品を注文した。

 私は、二人の後に続く。

 まず最初に、フレッドが買った串焼き肉を渡された。


「どうぞ、姉上。僕のオススメです」


「ありがとう。じゃあ、いただきます。……うん、すごく美味しいわ」


「でしょう? 実は入念に下調べをして……」


「さっきアリシアさんにも奢ってもらったし、これは私のお気に入りになりそうね」


 私は串焼き肉をペロリと平らげつつ、そう言う。

 屋台とはいえ、いい肉を使っている。

 これならいくらでも食べられそうだ。


「えっ……。い、今なんとおっしゃいましたか?」


「え? 私のお気に入りになりそう?」


「いえ、その前です」


「アリシアさんに奢ってもらっていた?」


「…………」


 フレッドの表情が凍りつく。

 アリシアさんの方はというと、なぜか自慢げな様子だ。


「あれ? どうかしたのかしら? 何か問題でもあった?」


「……いえ、何でもありませんよ。ただ、姉上は食いしん坊だなって思っただけです」


「まぁ、酷いわ。これでも淑女として最低限の嗜みはあるつもりよ」


「ふーん。そうなんですね」


「えぇ、そうよ」


「「…………」」


 私とフレッドの間に妙な雰囲気が流れる。


「まあいいでしょう。それなら、次へ行くだけです。僕の下調べはこんなものじゃありません。また新たに姉上のお気に召す食べ物が見つかるでしょう」


「あら、本当? それは嬉しいわ。ありがとう」


「いいんですよ。僕たちは姉弟ですから。この世界で、互いに唯一のね」


 今度はフレッドがアリシアさんに挑発めいた視線を向ける。

 どうしてそんなことを言うのだろう?

 私とアリシアさんは仲のいいお友達だ。

 こんな謎の挑発でどうこうはならないだろう。

 私はそう思ったけれど……。


「むっきぃ~」


 アリシアさんは何故か怒った。

 何故だろう?

 怒る要素などどこにもなかったはずなのに。


「さて、行きましょう。次はどこへ行きたいですか? 僕はどこでも案内しますよ」


 フレッドは機嫌良く歩き出す。

 その後ろ姿を、アリシアさんが睨んでいたのだった。

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