私はアリシアさんとフレッドと共に、秋祭りを回っている。
二人もそれなりに仲が良さそうで助かった。
アリシアさんが時々フレッドを凄い顔で睨んでいるのは、気のせいだろう。
それよりも憂慮するべきは、私の記憶力についてである。
私が考え込んでいると、二人が食べ物を奢ってくれるという話になった。
「では参りましょう。姉上のお腹が鳴ってしまう前に」
「そうですね。イザベラ様の胃袋は無限大ですし」
二人は何やら失礼なことを言いながら、屋台に向かっていく。
そして、それぞれ別々の品を注文した。
私は、二人の後に続く。
まず最初に、フレッドが買った串焼き肉を渡された。
「どうぞ、姉上。僕のオススメです」
「ありがとう。じゃあ、いただきます。……うん、すごく美味しいわ」
「でしょう? 実は入念に下調べをして……」
「さっきアリシアさんにも奢ってもらったし、これは私のお気に入りになりそうね」
私は串焼き肉をペロリと平らげつつ、そう言う。
屋台とはいえ、いい肉を使っている。
これならいくらでも食べられそうだ。
「えっ……。い、今なんとおっしゃいましたか?」
「え? 私のお気に入りになりそう?」
「いえ、その前です」
「アリシアさんに奢ってもらっていた?」
「…………」
フレッドの表情が凍りつく。
アリシアさんの方はというと、なぜか自慢げな様子だ。
「あれ? どうかしたのかしら? 何か問題でもあった?」
「……いえ、何でもありませんよ。ただ、姉上は食いしん坊だなって思っただけです」
「まぁ、酷いわ。これでも淑女として最低限の嗜みはあるつもりよ」
「ふーん。そうなんですね」
「えぇ、そうよ」
「「…………」」
私とフレッドの間に妙な雰囲気が流れる。
「まあいいでしょう。それなら、次へ行くだけです。僕の下調べはこんなものじゃありません。また新たに姉上のお気に召す食べ物が見つかるでしょう」
「あら、本当? それは嬉しいわ。ありがとう」
「いいんですよ。僕たちは姉弟ですから。この世界で、互いに唯一のね」
今度はフレッドがアリシアさんに挑発めいた視線を向ける。
どうしてそんなことを言うのだろう?
私とアリシアさんは仲のいいお友達だ。
こんな謎の挑発でどうこうはならないだろう。
私はそう思ったけれど……。
「むっきぃ~」
アリシアさんは何故か怒った。
何故だろう?
怒る要素などどこにもなかったはずなのに。
「さて、行きましょう。次はどこへ行きたいですか? 僕はどこでも案内しますよ」
フレッドは機嫌良く歩き出す。
その後ろ姿を、アリシアさんが睨んでいたのだった。
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