魔物を運んでいたオスカーが腰を痛めてしまった。
「無理するからです。オスカーさん」
アリシアさんが呆れたように言う。
彼女もなんだかんだいって、オスカーのことを気に掛けているのだと思う。
「本当にそうですわよ。伯爵家の方が力仕事で腰を痛くしてしまっては、笑い話にもなりませんわ」
私はそう注意する。
「申し訳ありません……。イザベラ殿の前だからと張り切ってしまって……」
オスカーは恥ずかしそうに言った。
「えっ? 私の前だから?」
私が首を傾げると、オスカーはハッとした顔になった。
「あ、いや……、その……」
彼は困った様子で視線を逸らす。
そして、少し照れたような表情で続けた。
「アリシア殿は、エドワード殿下やカイン殿と仲がよろしいではありませんか。それに、今年度入学したフレッド殿とも。私などよりも、よほど親しくされているご様子。ですから、イザベラ殿がどこか遠くへ行ってしまわれたような気がして……」
オスカーは顔を赤くしながら、そんなことを言ってくれた。
「オスカー様……」
「それで、つい焦ってしまったのです。イザベラ殿に振り向いてもらおうと、必死に努力をすればするほど空回りしてしまいまして……。その結果がこれです。まったく、情けない限りです。こんなことならば、肉体ももっと鍛えておくべきでした」
オスカーは自嘲気味に笑みを浮かべた。
彼の気持ちを聞いて、胸の奥が温かくなっていくのを感じた。
私は嬉しかった。
これほどまでに真っ直ぐに好意を伝えてくれる人がいたことに。
でも、同時に困惑も感じていた。
ここで対応を誤れば、バッドエンドルートまっしぐらだ。
慎重に言葉を選ばなくてはならない。
「ありがとうございます、オスカー様。私は遠くになど行きませんよ。今はただ、王立学園で自らを高めるために勉強をしているだけです。殿方と将来を約束することは、まだ考えられません。これからも良きお友達としていていただけると幸いです」
私は微笑んで答える。
すると、オスカーは少し複雑そうな表情をしながらも、静かに微笑んだ。
「わかりました。焦ってもいいことはありませんね。やはり、自らの適性と相談しながら頑張るべきです。力仕事はエドワード殿下やカイン殿に任せることに致しましょう」
「ええ。それがよろしいですわ。オスカー様には氷魔法があるのですから」
私はそう言う。
適材適所だ。
オスカーは氷魔法。
カインは剣術と身体強化魔法。
フレッドはポーションや毒物の取り扱い。
アリシアさんは光魔法。
エドワード殿下は各種属性の防御魔法と『覇気』。
それぞれ得意分野が異なる。
わざわざ不得手なことをする必要はないのだ。
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