乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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65話 どこか遠くへ

公開日時: 2022年7月26日(火) 14:30
文字数:1,071

 魔物を運んでいたオスカーが腰を痛めてしまった。


「無理するからです。オスカーさん」


 アリシアさんが呆れたように言う。

 彼女もなんだかんだいって、オスカーのことを気に掛けているのだと思う。


「本当にそうですわよ。伯爵家の方が力仕事で腰を痛くしてしまっては、笑い話にもなりませんわ」


 私はそう注意する。


「申し訳ありません……。イザベラ殿の前だからと張り切ってしまって……」


 オスカーは恥ずかしそうに言った。


「えっ? 私の前だから?」


 私が首を傾げると、オスカーはハッとした顔になった。


「あ、いや……、その……」


 彼は困った様子で視線を逸らす。

 そして、少し照れたような表情で続けた。


「アリシア殿は、エドワード殿下やカイン殿と仲がよろしいではありませんか。それに、今年度入学したフレッド殿とも。私などよりも、よほど親しくされているご様子。ですから、イザベラ殿がどこか遠くへ行ってしまわれたような気がして……」


 オスカーは顔を赤くしながら、そんなことを言ってくれた。


「オスカー様……」


「それで、つい焦ってしまったのです。イザベラ殿に振り向いてもらおうと、必死に努力をすればするほど空回りしてしまいまして……。その結果がこれです。まったく、情けない限りです。こんなことならば、肉体ももっと鍛えておくべきでした」


 オスカーは自嘲気味に笑みを浮かべた。

 彼の気持ちを聞いて、胸の奥が温かくなっていくのを感じた。

 私は嬉しかった。

 これほどまでに真っ直ぐに好意を伝えてくれる人がいたことに。

 でも、同時に困惑も感じていた。

 ここで対応を誤れば、バッドエンドルートまっしぐらだ。

 慎重に言葉を選ばなくてはならない。


「ありがとうございます、オスカー様。私は遠くになど行きませんよ。今はただ、王立学園で自らを高めるために勉強をしているだけです。殿方と将来を約束することは、まだ考えられません。これからも良きお友達としていていただけると幸いです」


 私は微笑んで答える。

 すると、オスカーは少し複雑そうな表情をしながらも、静かに微笑んだ。


「わかりました。焦ってもいいことはありませんね。やはり、自らの適性と相談しながら頑張るべきです。力仕事はエドワード殿下やカイン殿に任せることに致しましょう」


「ええ。それがよろしいですわ。オスカー様には氷魔法があるのですから」


 私はそう言う。

 適材適所だ。

 オスカーは氷魔法。

 カインは剣術と身体強化魔法。

 フレッドはポーションや毒物の取り扱い。

 アリシアさんは光魔法。

 エドワード殿下は各種属性の防御魔法と『覇気』。

 それぞれ得意分野が異なる。

 わざわざ不得手なことをする必要はないのだ。

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