私達は魔獣を無事に討伐した。
「さて、これはもう採取やティータイムをしているような場合ではありませんね」
オスカーがそう言う。
「ええ。そろそろ時間も頃合いですし、戻りましょうか。この魔獣の死体は、私が責任をもって運びますよ。二人は先に帰っていてください。後で追いつきますので」
私は二人に提案した。
覇気を持つ私の身体能力なら、魔獣の巨体を運ぶことも可能だ。
「いえいえ。レディにそんなことをさせるわけにはいきません。私の氷魔法で氷漬けにして、後で回収してもらいますよ」
オスカーが申し出てくれた。
彼は紳士的な男なので、こういうところは気が利くのだ。
「【アイスプリズン】!」
彼が呪文を唱えると、魔獣の周りを包むように氷の壁が現れた。
これで、魔獣の死体の処理を保留にできる。
討伐したまま放置すると、血の臭いを嗅ぎつけて他の魔獣が集まってくる恐れがあるからだ。
「さあ、帰りましょう。お嬢様方」
オスカーがそう声を掛けてくる。
「でも、このまま持ち帰った方が早くないですか?」
私はそう言う。
そして、氷漬けになっている魔獣に触れた。
「あっ、冷たっ!」
思わず声が出る。
「イザベラ殿、大丈夫ですか!? 私の氷魔法に素手で触れるなんて、何を考えていらっしゃるんですか!!」
慌てるオスカー。
「え、ええ……。まさかこれほどの冷気を持っているとは思いませんでした。素晴らしい腕前ですね」
氷魔法の力量は、その効果範囲、持続時間、温度の低さなどにおいて、術者の技量が大きく影響する。
オスカーは相当な実力者だ。
ここまで冷たいと、迂闊に触れることができない。
覇気には熱や冷気への耐性向上という効果もあるが、あくまで副次的なものであり、絶対的なものではない。
「……オスカーさんって、すごい人なんですね」
アリシアさんも感心しているようだ。
「いや、これくらい普通ですよ。それに、イザベラ殿の方が遥かにすごいです」
オスカーが苦笑しながら答える。
「これは大人しく帰るしかありませんねぇ」
私はそう呟く。
凍る前なら、素手で触ることができた。
魔獣を担いで帰ることも可能だっただろう。
しかしその場合は滴る血を撒き散らしながら森を進むことになっていたし、魔獣の匂いが私に移っていたかもしれない。
氷漬けにした事自体は間違いではない。
私が諦めて、帰り道につこうとした時。
「いえ、そういうことであれば、わたしにお任せください。イザベラ様のお役に立ってみせます!」
アリシアさんがそう言ったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!